インタビュー

「はみだす力」で突き進む スプツニ子!(前編)

  • &w創刊2周年特別企画
  • 2015年2月23日
(撮影 篠塚ようこ)

  • (撮影 篠塚ようこ)

  • (撮影 篠塚ようこ)

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  • (撮影 篠塚ようこ)

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  • (撮影 篠塚ようこ)

  • (撮影 篠塚ようこ)

 2013年にMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ助教に就任し、「デザイン・フィクション・グループ」をスタートさせた、アーティストのスプツニ子!さん(29)。新天地で見た「知の風景」、日米を行き来するなかで発見した日本のよさ――。「はみだす力」で地球を闊歩する彼女にインタビューした。(聞き手・古川雅子)

    ◇

――ボストンでの暮らしには慣れましたか?

 そうですね。ボストンにあるMITメディアラボの研究室で、学生と一緒に打ち合わせしたり、ものを作ったりしています。学生たちが研究室のディレクターの思想や方針を支える作品を作ったり、研究したりするのが、メディアラボのスタイル。それぞれの研究室が一つの「王国」なんです。第一期の学生なのでまだ2人しかいませんが、選考したのは私。「この子がほしい。あの子も」と。だから今、「スプ子王国」ができつつある(笑)。

──どんな研究をしているのですか?

 MITには「イノベーションを起こして前に進む」というマインドがあるんです。ただ、私たちのグループはユニークで、前へ前へと進化一辺倒に未来をつくるんじゃなく、「テクノロジーやサイエンスでもたらされる未来って、どうなの?」みたいな議論を起こすような作品をつくっています。正論だけでは片づかない問題を取り上げて、テクノロジーやアートを駆使して「考えるポップカルチャー」みたいに仕立てられれば、面白い投げかけができるんじゃないかなと。
 「これってどう?」とみんなに突きつけていくのが好きなんです。世の中には、ぐちゃぐちゃした世界が、ありとあらゆるところに横たわっているけれど、気づかないで生きていくこともできてしまう。そこをあえて突っつく。すると私はハイになる(笑)。

──世界中から優秀でユニークな人材が集まり、刺激的な毎日なんでしょうね。

 研究者が集まる飲み会で交わされる話題がおもしろくて。あなたは何やってるのって聞くと、「僕ね、惚れ薬を作ってるんですよ」なんていう人がいて。冗談かと思ったら本気なんです。マウスに女性ホルモンに似た物質を入れると、目の前に現れたオスを全部好きになる物質があるんだ、と語り出す。ほかにも、飲むと寿命が20%延びる薬をまじめに作っている人がいて、「研究室にその薬が1キロぐらいあるんですけど、見に来ます?」とかね。

──おもしろい!研究者同士、ずいぶんオープンなんですね。

 基本的にオープン。いつでもどこでも、割とダダ漏れ(笑)。みんな、自分が取り組んでいることを共有して、コラボレーションしながら前に進もうという。独り占めするメンタリティではないですね。よくも悪くもアーティストに近い。お金が欲しいからじゃなくて、好きだからやってる人が多いですね。誰も知らないことを解明したい、みたいな。

──アイデアはどういう時に思いつくんですか?

 研究者との飲み会とか、カフェテリアとか、若い人も含めていろんなおしゃべりをしている時ですね。家でニュースを見ていても、「何これ?」ってちょっとでも思ったら、「あ、これは絶対あの研究者から話を聞こう」って。
 机に向かっていてもアイデアなんて絶対出てこない。アイデアを育んでいる間は、ひたすら人に会い、旅をして、外に出る。退屈しやすいんですよ、私。両親ともに理系の研究者だったので常に新しいものを求める風土に慣れているのかもしれない。研究って、誰もやっていない新しいことを作らないと論文にならないから。
 今は「情報モンスター」みたいになっていて、すごい勢いで情報を消化しています。私がオンラインで記事を見ている時なんて「怖い」って言われるぐらい。パソコンで情報検索しているとき、すごい速さで画面をスクロールしてるらしいんです。

──小さい頃から、そういう探索欲があったのでしょうか。

 ありましたね。インターネット以前は、図鑑マニアでした。ザリガニとか蝶とかの生態を読み込んで。インターネットには早い時期に出会ったので、今度はインターネットでゲーム三昧。小学生でハマったのが、「ダービースタリオン」という競走馬の育成シミュレーションゲーム。「最強の競走馬を作るにはどの血統の馬ならいいか」とか、「こことここを配合しよう」とか考えながら、めっちゃ速い馬を作っていました。理系はダビスタにはまるんですよ。血統とか、いろいろなトレーニングとかの組み合わせとか、こうやったらG1勝てるんじゃないかみたいな組み合わせの思考力が問われるからでしょうね。
 親が変人過ぎて、普通の親がうらやましいなと思う時もありました(笑)。そんな両親のもとで育ったので、「みんなと同じ」という文化が強い日本では世の中からはみ出して、思春期はだいぶこじらせてました。高校1年の時には角刈りで学校に通ったり、不思議なアクロバットをしてきました(笑)。

──その「はみだす力」が、アート活動への原動力に?

 はい。角刈り&非モテの理系女子で、暗闇のトンネル内を進むような時代がだいぶ続きました。アーティストになってからも、「金ねえ!」「進路がない!」みたいな感じでやってきました。でも、どんなに失敗しても、「この暗闇ルートを進んだやつって、世界に一人しかいないじゃん!」って、変な自信が生まれてきたんです。こんな試練も、自分に何か価値をつけていくんだろうというのが見えてきて。こういう思考法だと、暗闇の中も意外と進めます。「はみだす」って、最初は苦しいけど、自分なりの価値の見つけ方を習得しちゃえば、あとはコワイもんなし!今はそんな風に思っています。

(後編につづく)

スプツニ子!
現代美術家。1985年東京生まれ、ニューヨークとボストンに在住。インペリアル・カレッジ・ロンドン(ロンドン大学)数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。2013年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教に就任。同研究所デザイン・フィクション研究室ディレクター。2014年FORBES JAPAN 「未来を創る日本の女性10人」に選出

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