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DJは人工知能に淘汰されるのか?真鍋大度らの実験的イベント「2045」

2045年、コンピューターテクノロジーが完全に人間の知能を超える「シンギュラリティ」を迎えると言われている。シンギュラリティ以後の時代における「音楽」はどう変化していくのか。ライゾマティクス真鍋大度氏とQosmo徳井直生氏が、それを実験すべく開催したDJイベント「2045」へ参加してきた。


■クラブフロア全体が2人の実験場に


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2/13、恵比寿liquid room 2FのKATA tokyoで行われた実験的イベント「2045」


今回のイベントはライゾマティクス真鍋氏と、クリエイター集団Qosmoを率いるプログラマ・徳井氏がオーガナイザーとなって開催された。徳井氏は大学在学中からプログラミングを駆使し、音楽・インスタレーションの作品を発表している生粋のクリエイターだ。両者とも普段からDJとしても活動しているため、人工知能の話が持ち上がり今回の開催に至ったのだという。


DJ終了後に真鍋氏が「今日は箱の大きさを間違えました。笑」と話したように、恵比寿のクラブハウスで行われたこのイベントは、開始前から建物の外まで続く長蛇の列ができ、最終的には入場規制がかかるほどの大盛況をみせた。集まった人々をざっと見渡すと、いかにもギークな人々ばかり。表情さえ変えぬものの、新しいテクノロジーの可能性に胸を躍らせているように見えた。


クラブフロア全体が実験の場だった。天井には様々なセンサーが張り巡らされ、オーディエンスの動きやアルコールの濃度、フロア全体の温度や湿度などを感知。それらのデータは、全てデータベースに送られて選曲に反映されるという仕組みだ。


真鍋:いまこの場所がどういうムードなのかということを、色々なセンサーを使ってみて解析します。誰も動いてなかったらクールな状態とか、すごく動いていると激しい状態だとか。それはキネクトやモーションセンサーを使ったり、アルコールの測定値を使ったりとかして、今この状況にかけるべき曲はこれだというリストを選出して音楽をかけます。


通常のDJイベントではオーディエンスが受動的だ。しかし今回はオーディエンスに会場限定アプリが配布され、それをダウンロードすると、まずモーションセンサーとプレイリストへの同期を求められる。モーションセンサーで感知されたデータは、DJのコンピューターに送られフロアの状況をデータとして読み取るために利用される。そしてプレイリストは、主に人工知能の選曲に付加される。


真鍋:皆さんのプレイリストを同期することによって、人気のある曲などを解析します。例えば、ここにいる人全員のプレイリストにPerfumeが入っていれば、ランダム選曲の中にPerfumeが入ってくる確率が高くなるということ。

このようにして、会場全体はDJ2人の実験の場と化した。


■確かに見えた、人工知能による音楽の新しい可能性


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会場内をリアルタイムでスキャンし、スクリーン上に3Dで映しだされる


タイムテーブル通りに、人間のDJと、プログラミングされた人工知能が交互に曲を奏でていく。改めて振り返ると、やはり人間DJの選曲の方がエモーショナルに響き、人工知能はどこか機械的なように感じた。オーディエンスもそのように感じたのではないだろうか。


真鍋:結局「人間最高ですね」という話に落ち着きました。でもプログラミングでしかできないDJもちょっとあったので、面白かったです。
 
イベント終了後のインタビューで、真鍋氏はそう語った。いつもの自分では決してプレイしないような曲を人工知能に促されて流すなど、DJ側としては新鮮な発見があったようだ。


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会場のセンサーからリアルタイムで集積されている情報を見つめている、真鍋氏


真鍋:興味があるからやってるだけなんで、役に立つとかいうよりも実際にこういう場所でやってみなかきゃ分からないでしょう?まさに実験的な感じです。実際にお客さんに入ってもらって、もっと色々試してみたい。


真鍋氏は、「DJ✕人工知能」のクロスゲーム以上に、テクノロジーそのものがもたらす更なる可能性に目を向けている。それが、プレイ中のVJにも現れていた。会場内に設置されたキネクトなどのセンサーを使い、オーディエンスの動きを3Dでスキャン。それをマトリックス上にリアルタイムで表示させたのだ。これには、会場も沸き立った。そこに垣間見えたのが、テクノロジーを駆使して実験をしている真鍋氏の純粋な"遊び心"だった。
 
音楽とテクノロジーの未来を、実践を通して考えようとする試みだった今回のイベント。音楽を学習した人工知能は、人間を感動させることができるか?という問いに対しては、まだ明確な答えは出せていないかもしれない。しかし、今回はまだ実験の第1回目に過ぎない。テクノロジーと音楽が融合して世界中の音楽へアクセス可能になったとき、果たしてDJの役割・表現はどのように変化していくのだろうか。真鍋氏と徳井氏は次に何を仕掛けてくるのか、今後の実験がとても楽しみだ。


(SENSORS編集部 ・ 石原 龍太郎)


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