シリアやイラクの過激派「イスラム国」に共鳴するように、中東各地に危険な動きが広がっている。イスラム過激派が国境を越えて結びつき、テロの連鎖は世界を脅かしつつある。
テロの拡散を防ぎ、過激派のネットワークをどう断ち切るか。軍事行動だけでは限界がある。中東の国づくりや人々の生活向上など、過激思想を生む根っこを取り除くために、国際社会が幅広く結束する必要がある。
イスラム国などの過激派対策について話し合う閣僚級会合が、日本を含む60カ国以上が参加して、米国で開かれた。若者をひきつける過激思想の拡散を防ぐために、情報の共有や地域社会との連携を強化することを確認した。
オバマ米大統領は会合で「イスラム国壊滅に向けた作戦の手は緩めない」と述べた。非道なテロ組織は撲滅しなければならない。軍事力の行使も必要だろう。ただ、際限ない軍事介入はかえって混乱の増幅につながりかねない。
並行して必要となるのは、中東の社会を安定に導き、過激派を封じ込める取り組みだ。その意味で、閣僚級会合が教育や貧困の解消など長期的な対策の必要性を指摘したことは重要だ。
イエメンではイスラム教シーア派系の武装集団が政権掌握を宣言した。民主化要求運動「アラブの春」後の民主化の取り組みは頓挫した。リビアではカダフィ政権の崩壊後、民族派勢力とイスラム勢力が対立し、国土の分断が続く。
無政府状態の隙を突き、イスラム過激派が勢いを増している。リビアではイスラム国に忠誠を誓う組織が活動を活発化させた。エジプト人のキリスト教徒21人を殺害し、映像をネット上で公開する卑劣な手口までまねている。
エジプトは自国民殺害への報復として、リビア領内のイスラム国に対する空爆を始めた。軍パイロットが殺されたヨルダンもシリア領内のイスラム国への空爆を強めている。テロと軍事報復の連鎖が止まらなくなる恐れがある。
イエメンは中東産油国の要であるサウジアラビアと国境を接する。リビアも有力産油国だ。原油の大半を中東に頼る日本は混乱を座視するわけにはいかない。
資金流入の監視などイスラム国対策はもちろん、イエメンやリビアの国民和解を促し、安定を回復する国際社会の取り組みに積極的に加わっていく必要がある。