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公爵令嬢の嗜み 作者:澪亜

会合

それから数週間の間、銀行設立に向けて奔走した。建物の確保、備品の確保…相変わらず、やることは山ほどあった。そして、約束の会合の日がきた。 指定された場所は、アルメニア公爵領支部商業ギルドの本部。モネダに会った時も思ったけれども、相変わらず重々しい内装に威圧されるわ。


「………さて、皆さん。本日は忙しい最中お集まりいただき誠にありがとうございます」

まずは、私からの挨拶。ここにいるメンバーはそれこそ1秒1秒のスケジュールがビッチリ埋まっているのだから、本当に今日ここに集まって貰えて感謝。

「いやいや。私どもとしても、ここ最近話題の商会の会頭である貴方にお会いできることを、楽しみにしておりましたぞ」

ギラリと光る鋭い眼光。さ、流石…迫力満点だわ。

「今日はアズータ商会会頭ではなく、我がアルメニア公爵領領主代行として皆様にお会いしに来ましたの」


「ほう…領主代行様としてですか」


「ええ。でなければ、皆様をお集めすることなんて、できませんわ。我が商会は未だ新参者ですし」


「ご謙遜を。その活躍はよく耳にしております」


「まあ……お褒めの言葉として、受け取らせていただきますわ。それで、今日の用件なのですけれども…」

ピシリと空気が一瞬凍った。

「まず、我が領に銀行を設立致しました。是非、皆様にもご利用いただきたいですわ」

「……銀行、ですか?」

「ええ」

「失礼ですが、それはどういったもので?」

「簡単に言えば、現在の商業ギルドにある資金部門の発展版ですわ。主な業務は2つ。1つは資金決済を行う為替業務。もう1つは融資業務です」


「為替業務…?融資業務……ですか?聞いたこともないのですが…それに何の意味があるのでしょう?」


「まず、為替業務。商会・個人関わらず、誰もが銀行にて資金を預けることができます。これの利点は、商会等資金を大量に保有するところでは現在保管の為に大量に護衛を雇っているでしょうが、それが不要になるということ。それからもう1つは、資金決済が楽になること。例えば、互いに銀行に預金をしていた場合、態々現金を持ち歩かなくても銀行の口座間で資金を移動させれば良いのですから」


因みに現在護衛業を生業としている者は、うちが纏めて雇うつもり。銀行にも護衛が必要だし、運送業を始めるなら尚更…ね。勿論、我が優秀な護衛達に扱いて貰ってからじゃないと実際練度がバラバラで使えなさそうだけど…そこは初期投資ってことで。


「……なるほど。ですが、本当にそれは安全なのでしょうか。大切な資金を預けるのです。危険があってはならない」

「勿論、我が家の庇護下に置くのです。配備する警備員の質は良いということを言っておきましょう。逆に不正を行うようであれば、その牙は勿論犯人に向きますので悪しからず」


「ふむ。で、融資業務とは?」


「融資業務とは、集めた資金で融資…つまり、お金を貸すということです。無論、厳しい条件は課されますが…皆さんもそれをクリアーさえすれば、新規事業を始める際など資金が必要な時にお金を借りることができますよ?」


「それは面白い」



「いつでもお金を預けて、必要な分だけ引き出すことができる。資金決済はより手軽なものになる。また、必要な時は資金を借りることができる。我が家の庇護下にあるため、“我が家”が取り潰しにでもならない限り我が家の潤沢な資金が保証をしてくれる。…どうでしょう?先の商会経営を褒めて下さいましたが、皆さんにちゃんと領主として利益は還元しようと思っておりますよ?何せ、領分を侵したのですから」


とはいえ、領としてできるのは銀行の信用に対する保証までで、特に目の前の人たちの商会に直接投資をすることなんてできないんだけどね。何て言ったって、領民からの税金を投入するのですから。最も、ウチの商会が成功しなかったら税金の運用はこれまで通り公爵家の維持にほぼほぼ費やしちゃっていただろうから、ウチの商会が利益還元しているというのは強ち間違いではないわよね?

「うまいですね。それで、私たちに何を求めるのですか?」


「銀行設立に関しては、何も求めるものなどないですよ。我が領のお金の廻りが良くなればそれが一番なのですから。あ、ですが商業ギルドには今まで資金部に務めていた人たちを銀行にベッドハンティングさせて貰ってよろしいですか?覚えることが沢山あるでしょうが、素地がある方が良いですし。それから、本店は此方で準備していますが、支店はまだなので、商業ギルドの支部の一区間を貸してくれると嬉しいですね」


「まあ、それぐらいなら。初期費用を其方で持ってくれる上、我がギルドの中でも赤字分野であった資金部門の肩代わりをしてくれるのだ…喜んで、協力させて貰おう」


よし、銀行設立の目処は立ったな。


「……では、次に。これから商会の皆様にとっての“本題に”移りましょうか?」


一度緩まった空気が、再び張り詰めたものに変わった。ここで終わりにする訳がなかろうに。……この秒単位でスケジュールが詰まっている人たちを集めたのだ…まさか、これだけで終わりにするなんて勿体ないことする訳がない。


「先ほどお話した銀行ですが、預かった領民の税で我が領土の道路の整備に投資することが決定しております。そして、もう1つ。“学園”の設立にも」


「学園…ですか?王都にあるような?」


「あんな実にならない学園を、税を使ってまで態々作ろうとする訳がないでしょう。作ろうとしているのは読み書きを覚える初等部とより高度な専門分野を教える高等部……。初等部は義務教育として領民には必ず通って貰うことになりますので、我が領の税金で設立させます。皆様に噛んで欲しいのは高等部です」

「どのように噛めと?」


「率直に言えば、投資して欲しいですね。資金でも良し、備品・資材の提供でも良しですし」


「先ほどの銀行とやらに融資をさせれば良いのではないのですか?」


「銀行の信用は、我が公爵家の資金と領税に裏付けられたもの。過度な融資は、収支のバランスを崩しあっという間に銀行の経営が火の車になってしまいますわ」


「一理ありますな。であれば、学園の創設を待てば良いのでは?」


「できれば、学園は早期に開設したいのです。人もまた、我が領のです大切な資源。磨かずに放っておくのは勿体ないでしょう」



「……ふむ。その学園の、具体的な構想は?」

「今から配ります資料をご覧下さい」

共についてきていたセバスが、皆に資料を配る。この数週間で準備していた資料だ。…おかげで最近、寝る暇すらなかったぞ。


「まず、目玉は医薬科の設立。講師には、王都でも有名な医師の雇用に成功しております」

「医薬科ですと?」

商会の会頭達は驚いたような表情を浮かべる。それもその筈。この世界では医者とは王侯貴族に召し抱えられ、その知識はあまり一般に流布されない。その知識の価値は如何程なものか…商会の者ならば誰でも分かるであろう。私もよく、あの人を雇用できたなあっと思う。我が家の医者2・3人連れて行こうかと思ってたんだけど、この話を何処で聞き及んだのか母様から紹介があったのだ。 無駄に顔広いしな、あの人。何でも、田舎でのんびりしたかったこと、それから後進を育てたいと丁度思っていたらしくすぐに了承してくれたそうだ。私としてはその医者もそうだけど、母様の交渉術を是非とも商会で活かしてくれないかなっと思う今日この頃。









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