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2015.02.22

「日本版CCRC」の導入に向けて有識者会議を設置することになりました、とさ

 今朝のNHKニュースで、政府が「日本版CCRC」の導入に向けて有識者会議を設置することになりました、という話を聞いた。ほぉと思った。そして、なんか思考が停止した。ああ、俺も歳だなあ、ということでもない、と思う。なんだそれという疑問でも、ようやく腰を上げたか、という感慨でもない。なんと言っていいんだろう。どう考えていいんだろうかと、空白空間に漂ってしまったのだった。
 まず、「日本版CCRC」って何だ?
 という疑問があるだろう。NHKニュースでもその疑問はきちんと織り込んでいて表題には出していない。CCRC(Continuing Care Retirement Community)の部分を「高齢者の地域共同体整備」としている。日本語だとわかりますかね。まあ、ニュースを読んでみようじゃないですか。「高齢者の地域共同体整備 有識者会議で検討へ」(参照


 政府は、高齢者が必要な介護や医療などのサービスを継続的に受けながら、ついの住みかとして生活できる地域共同体を全国各地に整備することを目指し、有識者会議を設置して、導入に向けた課題などの検討を進めることにしています。
 アメリカでは、高齢者を対象に、健康状態に応じ、必要な介護や医療などのサービスを継続的に受けながら、生活できるCCRCと呼ばれる地域共同体がおよそ2000か所に整備されています。
 政府は、こうした地域共同体を各地に整備することで、都会から地方への高齢者の移住や、地域の活性化にもつなげることができるとして、「日本版CCRC」の導入に向けて有識者会議を設置することになりました。
 有識者会議には、医師のほか、大学やシンクタンクの研究者らが参加して、今月25日に初会合を開き、「日本版CCRC」の導入に向けた課題などの検討を進めることにしています。
 政府は、有識者会議での議論を踏まえ、早ければ平成28年度にも「日本版CCRC」のモデル事業を実施したいとしています。

 私が空白空間から這い出して気になったことは、高齢者にとって「ついの住みかとして生活できる地域共同体を全国各地に整備する」ということと、高齢者が今住んでいる場所・地域共同体が、どういう関係にあるのだろうか?ということだ。
 「地域共同体を各地に整備することで、都会から地方への高齢者の移住や、地域の活性化にもつなげることができる」と書いてあるところを見ると、どうやら、高齢者が今住んでいる場所から、地域共同体に移住する・させる、ということのように思える。
 なので、老人ホーム村みたいのを想像してしまうのだが、さて真相は?
 まどろっこしいので、結論を二つ先に言うと、一つは、米国風CCRCだったらたいした話題じゃないよね、ということ。もう一つは、終末期在宅療養みたいに現在住んでいる地域で人生を終えるという方向性と違うよね、ということ。
 最初に「日本版CCRC」というのだから、対応する米国風CCRCはどうなのか。というと、「アメリカでは、……CCRCと呼ばれる地域共同体がおよそ2000か所に整備されています」というので、さすがだなとか思いたくなるけど、実際は微々たるもの。SUUMOジャーナル「アメリカ「CCRC」の事例から学ぶ、終の棲家を自分で選ぶということ」(参照)より。

1970年ごろから急増したCCRCは、現在全米に2000カ所ほど存在し約60万人が生活している。シニアライフを豊かに送るための設備がそろい、住民同士の交流も盛んに行われている理想的な高齢者施設ではあるが、一方で入居費用などの投資額が非常に大きいため、米国の高齢者のうち3%しか入居していないという事実があることも否めない。ただし、そこには日本のシニアの住まいを考えるうえでのヒントが溢れている。

 話題になることはわかるのだけど、「米国の高齢者のうち3%しか入居」というのが、「日本のシニアの住まいを考えるうえでのヒント」になるのか、というと、そもそもならないんじゃないだろうか。
 で、終わり……という話でもないのは、この記事でも触れているが、保険の問題だ。日本では保険制度の関連が問われることになる。

日本版CCRCを実現するために、まずは日本とアメリカの違いをおさえておきたい。
「両者の最も大きな違いは、アメリカには医療保険・介護保険制度がないということだろう。保証されているものがないからこそ、老後も自分自身でなんとかしなければならないという自己責任が強く、リタイア後の住まいについても事前に選択しているのかもしれない」と話すのは北海道札幌を拠点とした介護サービスを展開するMOEホールディングスの水戸氏。

 該当記事は、SUUMOジャーナルということもあって、住宅の視点から見ているわけだが、保険という点で重要なのは、日本のCCRCは、現行の保険制度、特に、国家の保険制度と深い関係を持たざるをえないということだ。それってどうなるのか?
 この疑問に移る前に、「日本版CCRC」が現状、どういう文脈で語られているかの例を覗いてみたい。三菱総合研究所の「日本版CCRCの実現を目指す政策提言を発表~健康で元気で輝き続けるコミュニティ実現のためにオール・ジャパンの25政策~」(参照)あたりが一つの典型例になるだろう。というか、これまんまじゃないのか。

人口減少・超高齢社会を迎えた今、持続可能な社会を実現するための新しい社会モデルの一つとして、米国のCCRCを参考に日本の社会特性に合致した新しいモデルを構築・普及すべく、有識者、関係省庁、事業者で討議し、日本版CCRCのあり方と推進のための視点、必要となる政策、関連主体への期待などについて取りまとめました。

 詳細は「サステナブル・プラチナ・コミュニティ(日本版CCRC)政策提言」(参照・PDF)に詳しい。
 率直に言って、保険制度の関連で、誰が金出すの?というのが、「ふるさと納税」なども書かれているが、よくわからない。たぶん、高度な修辞で書かれているのだろうと思う。例えば、これとか。

戸建て住宅所有者が日本版 CCRC に住み替える際、所有している住宅を担保に銀行等から融資を受けて住み替えの原資を得ることが考えられる。適正な金額での融資を受けるためには、中古住宅の流通促進・活性化施策の一環として建物価値評価の適正化と併せて、担保価値の改善を図ることが必要である。また、リバースモーゲージの三大リスクについて、例えば、担保割れリスクを政府が、長生きリスクを生命保険会社が、金利リスクを融資金融機関が負担するなど、適切なリスク分担スキームを構築することが求められる。

 ごく簡単に言うと修辞のキモは「リバースモーゲージ」で、当然というか該当文書には解説がない。これはざっくりで言えば、持ち家を担保にして銀行に借金する、ということだ。会社を興すときなんかによくあるアレです(皮肉で言っています)。
 このあたりで、へなへなとくるというか、要するにこれは持ち家処分ということだ。では、持ち家のない人はどうするのか。そのあたりはよくわからない。地方自治体が借金するのだろうか。
 話を米国版CCRCとの関連に戻すと、ここまでの話からなんとなく想像するのは、資産のある人の老人の終の棲家を地方に作りましょう、ということのように思える。
 当然ながら、資産のない高齢者や、そうした人をすべて覆う保険制度と、これがどう関連するのかは、よくわからない。
 このあたりで私は、最近の都営住宅がすでに高齢者収容施設かしているような感じがしていることを連想する。日本版CRCCは、終末期在宅療養みたいに現在住んでいる地域で人生を終えるという方向性と違うよね、という関連からだ。
 少し前の記事だが、東京DEEP案内に「新宿区の秘境「戸山公園」 (2) 都営戸山ハイツ」(参照)が興味深い。出だしから、わかりやすい。

新宿区戸山、新宿副都心至近にありながら、今も昭和の高度経済成長時代の残滓を引きずる一帯。「山手線内最高峰」の箱根山を擁する戸山公園を取り囲むように立ち並ぶ1号棟から35号棟までに約7000人が生活し、その半数近くが高齢者という「都営戸山ハイツ」という名の巨大老人ホーム。

 2011年の記事である。最近はどうか。昨年夏の日経記事「「高齢者が地域で住み続けられるよう手助け」 秋山正子・暮らしの保健室室長 新潮流をつかむ(6)」(参照)より。

 「暮らしの保健室を開いた3年前、65歳以上の高齢者比率は46.3%だったが、現在は50%を超えている。病気や障害を抱えた人や独り暮らしの高齢者も少なくない。

 当然、「終末期在宅療養みたいに現在住んでいる地域で人生を終えるという方向性」の話題もある。

――国は病院や介護施設ではなく、地域で暮らすよう在宅での療養や介護を推進しています。
 「2000年に施行された介護保険法は高齢者の自立する力を引き出すと、理念をうたっている。06年の改正で要介護にならないようにする『介護予防』に重点を置いたが、今再び、自立支援の充実を打ち出している。暮らしの保健室では、地域で高齢者が住み続けられるように手助けをすることを目指している」

 私は最近思うのだが、この問題は、都営戸山ハイツ特有の問題ではなく、他の都営住宅でもそういう印象を受けることだ。老朽化している都営ばかりでなく、新設ですらそういうふうに感じられる。ただし、実態はわからない。
 だらっとしたエントリーになったので、もういちどまとめると、「日本版CCRC」は富裕階層・家持ち階層のごく一部の話題なんだろうなということ。政府のこの方針は、実際には、日本の高齢化社会の対策とは、ほど遠いだろう。あるいは、看板は「日本版CCRC」だけど、実際は老人ホーム村とかになりそうな予感。
 それと、「日本版CCRC」とは逆に、公営団地は、このまま、あるいは、新設しても、高齢者収容施設化していくんじゃなかろうか、ということ。
 

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