次いで、鎌倉時代末期から南北朝時代にかけての武将・楠正成にちなむ「菊水隊」が加えられたが、初めの4つは、ある有名な和歌を典拠としたものであった。それは本居宣長の「敷島の大和心を人問はば 朝日に匂ふ山桜花」である。日本のナショナリズム・大和魂の表現として、最も有名なものと言ってよい。
実は、朝日の題字(1面右上の新聞名を記した部分)は2種類ある。東京本社、北海道支社発行の背景は山桜で、大阪、西部、名古屋本社は難波の葦だ。山桜は前出の本居の和歌にちなんだもの(2009年1月25日朝刊)で、つまり朝日の題字はナショナリズムを表現したものともいえる。
13年4月5日夕刊の「素粒子」では、「日本を軍事国家にと石原慎太郎氏。もはや戦争に行かない特殊兵器」と石原氏をからかい、「いまどき敷島の大和心でもあるまい」と続けている。まさに題字真下の素粒子欄で、それを真っ向から揶揄するような意見を吐露しているともいえる。自爆ではないか。
クオリティーペーパーの正体など、こんなものだ。他人を攻撃する言葉が、自分自身に見事に当てはまるのに、それにはまったく無自覚な鈍感さ。日本のナショナリズムを危険視して皮肉るのなら、まず自社の題字を改めてはどうか。 =おわり
■酒井信彦(さかい・のぶひこ) 元東京大学教授。1943年、神奈川県生まれ。70年3月、東大大学院人文科学研究科修士課程修了。同年4月、東大史料編纂所に勤務し、「大日本史料」(11編・10編)の編纂に従事する一方、アジアの民族問題などを中心に研究する。2006年3月、定年退職。現在、新聞や月刊誌で記事やコラムを執筆する。著書に「虐日偽善に狂う朝日新聞」(日新報道)など。