クローズアップ現代「詐欺被害者 閉ざされた苦悩」 2015.02.19


振り込め詐欺の被害者です。
被害に遭ったあと自分を責め続けています。
手口が巧妙化する振り込め詐欺などの特殊詐欺。
去年の被害額は初めて500億円を超え過去最悪となりました。
被害者はこの10年で延べ13万人以上。
多くの人が家族にさえ理解されず孤立を深めていました。
中には、みずから命を絶った人もいました。
知られざる詐欺被害者の苦悩。
どう支えることができるのか考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
詐欺の手口が巧妙とはいえなぜ多くの人がだまされるのか分からないという人が少なくないと思います。
オレオレ詐欺未公開株や金融商品への投資を持ちかける詐欺など注意が繰り返し呼びかけられ自分はだまされない大丈夫と思っている方も多いのではないでしょうか。
詐欺の被害者はこの5年間増え続け、2倍。
被害額は5倍近くに拡大。
過去最悪の559億円に達しています。
こうした振り込め詐欺などの特殊詐欺の被害者の8割が高齢者、女性が被害に遭う割合が高いものの男性も例外ではありません。
さらに、ある自治体の調査では警察に届け出た人の数倍に上る被害者が実際には存在している可能性も示されています。
高齢者の財産を狙う悪質な詐欺が拡大しているわけですが被害に遭った人々の苦悩はほとんど伝えられていません。
今回、番組では僅かな手がかりを頼りに50人の被害者と接触し苦しい胸の内を伺ってきました。
取材のきっかけとなったのが息子と偽ってかけてきた電話によって250万円をだまし取られた70代の女性からの一通の手紙です。
自分だったら被害に遭わず警察に通報できると思っていたという被害者は「1人になると今も震えが止まらない。
犯人の隙のないことば、やり方にすべてが見えなくなり小さい子どもを守る母のようになってしまいました」とつづられています。
子どもを思って取った行動を後悔したり的確な判断ができなかった自分を責め続ける多くの被害者。
取材を通して浮かび上がってきたのは社会や家族との関わり合いの中で傷を深めていく姿でした。
詐欺の被害に遭った人はどのような苦しみを抱えているのか。
2か月にわたる交渉の末70代の女性が取材に応じました。
こんにちは。
息子を名乗る男に200万円をだまし取られた礼子さんです。
保険会社の外交員をしながら4人の子どもを育て上げた礼子さん。
そのことを誇りに生きてきました。
子どもたちが独立したあとも頻繁に行き来し家族のつながりを何よりも大事にしてきました。
長男を名乗る男から電話がかかってきたのは2年前の冬でした。
声は、礼子さんの長男にそっくりでした。
礼子さんは助けたい一心で長男の部下を名乗る男に現金を渡してしまったのです。
なぜ、息子ではないと見抜けなかったのか。
母親としての自信が大きく揺らいだ礼子さん。
憤りは犯人にではなくみずからに向かいました。
日記には、自分を責めることばが並んでいました。
「まんまと引っかかった」「なさけない」電話の音におびえる毎日。
被害に遭ったことが片ときも頭から離れなくなり礼子さんは塞ぎ込んでいきました。
私たちが取材した50人の詐欺被害者。
その多くが周囲からの支えがない中で心の傷を深めていったことが分かってきました。
「他人の目が怖い」「外出もできなくなった」「被害に遭ったとき息子に責められた」
支えになるはずの家族からも孤立してしまう被害者。
いらっしゃいませ。
愛知県に住む80代の女性です。
3年前200万円をだまし取られました。
初対面の人でも親しく話し友人も多くいた女性。
しかし息子からは誰にでも心を許す、その性格が被害を招いたと責められたといいます。
その後、女性は不眠になり食事ものどを通らず体重が大幅に減りました。
それでも息子に相談はできませんでした。
被害者の中にはみずから命を絶った人がいたことも分かってきました。
千葉県成田市にある寺の住職篠原鋭一さんです。
これまで、詐欺の被害に遭い自殺した人の葬儀や法要をたびたび行ってきました。
篠原さんは自殺を考える人や自殺した人の遺族から相談を受けています。
前、あなた何度も言ってたけど死にたいという思いはなくなったか?
去年、詐欺の被害を苦に自殺した人の遺族からの相談は20件に上りました。
遺族から聞き取ったメモです。
「家族も僕も祖母を責めた」「孤立感を抱かせてしまった」
今夜のゲストは、国士舘大学教授、辰野文理さんです。
辰野さん、犯罪被害者の実情にお詳しい専門家のお立場から、経済的な被害にとどまらず、体への影響、そして精神的な苦悩の深さ、被害者の実態、どのように受け止められましたか。
一般に被害者の状況というのは、あまり表に出てきませんし、語りたがらないことが多いわけですけれども、今回の振り込め詐欺の被害者については、なおのこと、今まで知るということがなかったわけですから、その中には、深刻な事態の人がいる、場合によっては自殺をしてしまう人までがいるということが、初めて、私も知りましたし、そういった現状がよく分かる映像であったと思います。
被害者であるにもかかわらず、加害者を責めるのではなく、あれだけ自分を責めて責めて、追い込んでいく。
どうしてそういうことになるんですか、被害者は。
そうですね。
被害者、一般に被害者自身、その被害者は憤りを持ったりとか、後悔を持ったりとか、あるいは怒りとか悔しさとか、いろんな感情を持つと思うんですけれども、それに加えて、その振り込め詐欺の被害の場合には、自分も被害に遭う過程で関わってしまったということが、一番、心に負担になるんだと思いますね。
みずからお金を持っていったりとか。
自分も関わって、そしてどこかでやめる機会があったかもしれないけれども、自分の気持ちで、先へ先へ進んでしまったということが、より情けなさや、自責の念、そういうものをもたらすんだと思いますね。
子どものためを思ってやった、あるいは孫のためを思ってやったのに、家族に話すと、むしろ責められてしまって、それによって、より追い込まれていくというのは、本当につらいと思うんですね。
どうしてそうなっていくのか。
家族の中で、どんなことでも話し合えるといいと思うんですけれども、どちらかというと、家族の中で、ふだんは家族の身に起きたこと、出来事を、聞き役になっていた人、そういう人が電話に出て、だまされてしまって被害に遭ってしまう、そして、悩んでいるという事態が多いと思うんですね。
そうすると、ふだん、聞き役であった人が被害に遭ってしまって、悩んでいる、その話を、誰かほかの家族が聞けるかというと、そういう聞き役を代わるというのは、なかなか難しいので、そして、ふだん、しっかりしている人とか、話を聞いてくれる人が悩んでいる、その姿を見たくないとか、いろいろな思いが家族の中にもあって、つい責めてしまったりとか、もう聞きたくないというふうに言ってしまうんだと思いますね。
被害に遭われた方の中にも、自分は絶対だまされない、大丈夫だと思っていたのに、だまされたっていう、この自分の判断力、自信を失うというふうにもなっていくわけですけれども、そのつらさ、こう、周りは、だまされたほうが、注意が不足だったのではないですかというまなざしもありますよね。
そうですね、だまされる側が悪いとか、あるいはそんな簡単な手口でだまされるはずがないというふうに思われがちなんですけれども、実際の手口などを、警察などで紹介している手口を見たり、聞いたりしますと、非常に巧妙で、場合によっては、あるいは状況によっては、どういう人でもだまされてしまうんじゃないかと、そんな手口で、仕掛けてくるということがあると思いますね。
例えば?
例えば、電話がかかってきて、何々警察なんですけれども、何々警察の何々なんですけれども、○○さんのお宅ですか?と、詐欺犯を捕まえてみたら、何々さんの名前が載っていますと、お宅の口座は大丈夫でしょうか?と通帳を調べてくださいと、そんな話を警察官と名乗ってしてくるわけですね。
その合間に、例えば、今、若い人は家にいませんかみたいな話を振ってみたり、そうやって情報を得たりする。
そして銀行の口座、大丈夫ですと言うんだけれども、よかったよかった、でも念のため、またこのあと、銀行の人とか、金融庁の人から電話がかかってくるかもしれないから、それに備えて口座とか、カードとかを用意しておいてねというようなやり方をしてくるという例が紹介されています。
それなどは、非常に巧妙で、なかなか用心するとか、注意するとか、どこかで気付くというのは難しいと思いますね。
被害者の数も増え続けているわけですけれども、どうしたら詐欺被害者の苦しみを和らげることができるのか。
今回の取材では、家族や友人と、被害のことについて、語り合えることに、話せるようになることで、苦しみから抜け出せたという被害者の方もいらっしゃいました。
息子を名乗る男にだまされ塞ぎ込むようになった礼子さんです。
そんな礼子さんを支えたのは家族の存在でした。
次男の幸司さんです。
被害のあと、目にしたのはこれまで見たこともない母親の姿でした。
塞ぎ込む礼子さんの姿を見て犯人に対する怒りが湧いたという幸司さん。
多くの人に卑劣な犯行の手口を知らせたいとブログにいきさつをつづりました。
ブログには母親に同情する書き込みが寄せられるようになりました。
幸司さんは、こうした内容を礼子さんに伝えました。
家族の中で被害について話す機会が増え礼子さんは詐欺に遭ったことを恥ずかしいことではないと思えるようになったといいます。
今では家族だけでなく近所の友人にも、被害について語れるようになりました。
被害から2年。
礼子さんは、かつての明るさを取り戻せたといいます。
今、被害者を地域社会から孤立させないための模索も始まっています。
千葉県柏市では、全国で初めて振り込め詐欺についてのアンケート調査を行いました。
担当者が注目したのは被害に遭っていない人たちが自由記述欄に記したことばでした。
「こんなに報道されているのに、被害に遭った人が不思議でなりません」
「だまされる人が、バカだ」
非難の声は、犯人よりもむしろ被害者のほうに向けられていました。
住民の意識を変える必要性を感じた柏市。
この日、職員が訪れたのは120人余りの高齢者が所属する老人会です。
柏市は、老人会が被害者の相談の場になるよう期待しています。
しかし、参加者からは被害をみずから打ち明ける人がいるのか疑問の声が上がりました。
一方、被害者が声を上げやすい環境を作り出すことが大切だという意見もありました。
被害者の苦しみを社会としてどう受け止めていくのか。
取り組みは始まったばかりです。
今の礼子さんの例を見ますと、改めて、その精神的な被害の回復には話すっていうことが、本当に大事なんですね。
そうですね。
自分の経験を、自分の身に起きたことを、ストーリーとしてつむいでいく、つないでいく、そのこと自身が、話せたということ自体が自分のパワーになりますし、その相手との関係がまた確かめられたり、それが回復につながっていくというふうに考えられますね。
この犯罪の主犯格の検挙率は3%余りにとどまっている中で、どんどん被害は増えているわけですよね。
それなのに今、被害者に対する周囲のまなざしというのは、決して優しくない、今の自治体のアンケートにもありましたけれども、周囲の意識が変わらないと、話したくても、やはり話せないではないですか。
そうですね。
一般に人が、被害に遭った人と自分との違いというか、被害者の落ち度とか、違いを見つけて、自分の側は大丈夫であるということを確認したいような気持ちがあると思うんですね。
それ自体はいけないとか、いいとかいうことではないと思うんですけれども、でも、振り込め詐欺の被害の場合には、だまされた人が落ち度があるとか、責任があるというよりも、だます側が圧倒的に悪いわけですし、どうしても冷静な判断とか、合理的な判断を欠くような状況を作られてしまうと。
だからそのこと自身に、何か問題があるとか、そのことを責めるというのは、間違いだと思いますね。
でもなぜ、このような周囲のまなざしというのは、被害者に対して冷たいんですか?
被害者が、もっと自分の状況を外に出せると、実態として分かってくると思いますし、あるいは、一般の人たちも自分も何かだまされるような経験というか、そういうトレーニングというか、あるいはそういう機会があれば、これはだまされてもしかたがないなというふうに理解が変わってくるんじゃないかなと思いますね。
こうした犯罪が起きないように注意してください、だまされないようにということが繰り返し喚起されてますよね。
そうですね、注意してくださいとか、用心しましょう、こういうふうにしましょう、こうしてはいけませんというような注意喚起のやり方ですと、どうしてもだまされた人は、そういう用心をしなかった人、注意しなかった人というふうに、自然自然と刷り込まれてしまうのではないかと。
したがって、注意喚起のやり方も、少し工夫をしていく必要があると思いますね。
どういう場が今、必要ですか?
話をするということで、かなり回復につながると思いますから、あまり深刻にならずに、頭の中が整理されるような、あるいは、何回も同じことを繰り返して話ができるような場、そういう場が、いろいろな所に出来るといいと思いますね。
犯罪被害者相談センターもありますけれども、かなり敷居が高いですよね。
2015/02/19(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「詐欺被害者 閉ざされた苦悩」[字]

過去最悪の被害額となった振り込め詐欺などの「特殊詐欺」。被害をきっかけに心身を病み、自殺に至るなど被害者の苦しみが明らかに。被害者を追い詰めないために何が必要か

詳細情報
番組内容
【ゲスト】国士舘大学教授…辰野文理,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】国士舘大学教授…辰野文理,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:5737(0x1669)

カテゴリー: 未分類 | 投稿日: | 投稿者: