歯科被害:過当競争に「タダ」甘言 リース機器ただの箱

毎日新聞 2015年02月22日 10時06分(最終更新 02月22日 11時33分)

アルファ社から東京都内の歯科医院に納入された「サーバー」。実際は空箱だったが、総額約230万円のリース契約が結ばれた=東京都内で2014年12月20日、津久井達撮影(一部画像を処理しています)
アルファ社から東京都内の歯科医院に納入された「サーバー」。実際は空箱だったが、総額約230万円のリース契約が結ばれた=東京都内で2014年12月20日、津久井達撮影(一部画像を処理しています)

 タダで患者が来る−−。金銭トラブルが明らかになった患者の来院保証サービスは歯科医院に甘い文句で契約を勧めていた。医院に課したリース契約の対象もIT機器とは名ばかりの意味のない物だった。ずさんな「患者紹介ビジネス」の一端が浮かび上がった。

 「患者さんをタダで紹介できるスマートフォンのアプリがある」

 2013年3月、関西の住宅街の歯科医院に電話が入った。

 数日後、大阪市のソフトウエア会社「アルファラインジャパン」幹部の名刺を持った30代ぐらいの営業マンが来た。そして柔らかな口調で切り出した。

 「患者が来ればもうかる。来なければ返金する。月7万円のリース料は実質タダだ。近くの歯科医院が先に契約すれば先生の権利はなくなる」

 周辺に五つ以上の歯科医院がある激戦区。患者獲得に頭を悩ませていた女性歯科医はパソコンの「サーバー」などを対象に、総額約260万円の3年リース契約を締結。スマホのアプリによる月20人の新規患者の来院と、ノルマを下回った場合に患者1人3500円の返金を保証された。

 しかし、アプリを見たという患者は誰も来なかった。返金も最初の数カ月で途切れた。アルファ社に電話すると「システム異常で返金できない」と繰り返され、昨年10月から連絡が取れなくなった。「サーバー」はハードディスクのケースだった。

 東京都内の高級住宅街に医院を構える男性歯科医も13年夏、アルファ社と同様の契約を締結、言われるままに「サーバー」の3年リース契約も総額約230万円で大手リース会社と結んだ。

 数日後、アルファ社側の社員が箱に入った「サーバー」を持ってきた。「患者紹介に関係ないんでしまっておいて」と言われた。

 患者の来院や返金は一度もなく、箱の中身は時価1万〜2万円のハードディスクのケースだった。今も月6万円のリース料の支払いが残る。男性歯科医は「リース契約という形態を不審に思ったが、実質無料の患者紹介という甘言に引きずられた。情けない」と語った。

 医院側が「患者紹介」という甘い文句に乗る背景には歯科医の競争激化がある。厚生労働省によると、国内の歯科医院は人口減少と逆行するように約40年前から倍増し、13年は約6万9000カ所。特に都市部で乱立が目立つという。【津久井達、遠藤浩二、池田知広】

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