社説:対テロ国際会議 この結束から再出発を
毎日新聞 2015年02月22日 02時30分
01年と今日の違いは、過激派の広報活動が充実したことだ。同時テロを実行した組織アルカイダも広報に力を入れたが、ISの比ではない。ISはさまざまな言語で記したウェブマガジンで自らの主張を発信し、世界各国の若者らを吸い寄せる。こうした情報戦略を打ち破るべく、米国とアラブ側が情報発信で協力することになったのは明るい材料だ。
この情報発信には、世界60カ国近くが加盟するイスラム協力機構やイスラム教スンニ派の最高権威機関アズハル(エジプト)なども協力してほしい。聖典コーランや預言者ムハンマドの言行録(ハディース)の恣意(しい)的な解釈が目立つ過激派に対しては、イスラム世界で正統と公認された組織や機関が「否」を突き付けるのが効果的である。
◇国連の奮起が必要だ
国連にも奮起を促したい。内戦下のシリアは死者が20万人を超えたとされ、ISの隠れ家とも拠点ともなっているのに、国連安保理は有効な手を打てない。米欧主導の決議案にロシアと中国が4度も拒否権を行使したことは問題だが、潘基文(バン・キムン)事務総長の指導力も問われよう。
両国はアサド政権崩壊による騒乱の波及を警戒しているのかもしれない。だが、たとえアサド政権は続いても、中東の長引く混乱は確実に両国の治安に響く。多くのイスラム系住民を抱えるロシアと中国は欧米との連携にかじを切る時である。
他方、米国はISとの戦い、特にシリアでの軍事作戦について安保理の承認決議を得る努力をすべきだろう。テロとの戦いは報復ではないと前出のベーカー氏は言った。自国民をISに殺されたヨルダンやエジプトには深く同情するが、報復と公言しての軍事行動は事態の泥沼化にもつながる。国際的に広く公認できる行動を心がけたい。
日本代表としてサミットに出席した中山泰秀副外相は、日本人人質事件を強く非難するとともに、中東・アフリカ地域のテロ対策に18億円余りの支援を表明した。IS系も含めた過激派が台頭するリビア、エジプト、ナイジェリアなどを念頭に置いた非軍事的支援とされている。
オバマ政権は議会の承認を得て地上軍を派遣し、近くイラク第2の都市モスルの奪還をめざすともいわれる。オバマ政権の方針転換とも目され、戦闘は激化する気配だ。
だが、日本は人道支援に徹したい。米露や欧州と違い、日本は歴史的に中東・アフリカ地域の紛争にも植民地支配にも関与してこなかった。中東諸国から見ても、日本が軍事行動に関係するのは違和感があろう。
中東で日本が長年かけて築いてきた信用を大切にしたい。