社説:対テロ国際会議 この結束から再出発を
毎日新聞 2015年02月22日 02時30分
「我々はみな同じ船に乗っている。助け合わねばならない」。そんな平凡とも映る比喩が、これほど強い実感を伴って響くのも珍しい。ワシントンで開かれた「暴力的過激主義対策サミット」におけるオバマ米大統領の演説である。
いまや「地球丸」を襲うテロの波は、荒く、高くなって船体を揺さぶる。乗っている者が一致協力しないと、船は迷走するか難破しかねない。そんな強い危機感が船長(米大統領)の演説にはうかがえる。
実際、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS=Islamic State)などのテロは昨秋からカナダやオーストラリア、フランス、デンマークといった、従来は平和な国で相次ぎ、日本人2人もISによって殺害を宣言された。
◇発信力で過激派しのげ
「わが国は安全」と言い切れる国はあるまい。そんな時期に開かれた対テロのサミットである。閣僚級ではあるが、60以上の国や国連、アラブ連盟、欧州連合などの代表が集まり、非軍事面でのテロ対策を幅広く話し合ったことは意義深い。
発表された共同声明は一連のテロを非難し、過激主義と宗教を切り離した上で、国際的な情報共有と連携強化を呼びかけた。過激派の宣伝活動に対抗することも盛り込まれた。
だが、テロ対策が打ち出されたのは初めてではない。2001年の米同時多発テロ後、国連や主要国、関係国は何度となく対策を発表してきた。それでもテロ抑止には必ずしもつながらず、今また世界は過激主義への対策に苦しんでいる。
昨年亡くなった米国のベーカー駐日大使は毎日新聞への寄稿(01年12月3日)で、テロとの戦いはイスラム教との戦いではないとし、米国だけでなく日本や中国、ロシアの問題であり、文明を守るための人類の戦いなのだと述べている。
ではこの14年、テロとの戦いは前進したか。とてもそう言える状況ではない。その背景には「喉元過ぎれば」といった国際社会の油断もあろう。米ブッシュ政権の独断的な軍事行動がイスラム圏の反発を買い、反米勢力をより過激にしたことは否めない。オバマ政権のあまりに慎重な姿勢が過激派を勢いづかせたとの観測も有力だ。ともあれ、冷静に今の世界を眺めれば、01年より危険になっているのは明らかである。
悲観的になっているのではない。同時テロ後の対応を謙虚に反省しないと今後の展望も開けまい。結束と連帯を確認した今回の会合を出発点に、新たな戦いに取り組みたい。