今日の横浜北部は雲が多少ありましたが空が青かったです。気温も真冬ではなかったですね。
さて、軍事戦略の本を訳したばかりの自分としては「対反乱作戦」(counterinsurgency: COIN)の話題については気になってしまうところなのですが、たまたまそれに関してシカゴ大学の若い先生がいいコラムを書いておりましたのでその要約を。
ゲリラやテロリストは大きくわけて3タイプあるという話です。
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ゲリラやテロリストにはそれぞれ個性があるby ポール・スタニランド
●アメリカは、イラクやシリアの自称イスラム国やアフガニスタンのタリバンまで、世界中で狙いや構造、そして戦略においても異なる、様々なタイプのテロリストやゲリラたちに直面している。
● ではアメリカとその同盟国たちは、なぜそれら全部に対してほぼ同じようなアプローチしかしていないのだろうか?
●イラクでの「サージ」はイラクを一時的に安定化したが、同じ戦略はアフガニスタンで失敗した。ボスニアでは国際的な支持を得た交渉が成功したが、同じことはシリアで失敗したままだ。
●イスラエルはハマスのリーダーたちを狙っているが、それでもそのグループは弱体化していない。ところがパキスタンのタリバンの内部では部族たちのリーダーたちの死は彼らの混乱を巻き起こしている。
●このような複雑な結果が出ている理由は、彼らがそもそも独特な個性をもった存在だからであり、とりわけリーダーたちの間の社会的なネットワークや、リーダー同士と彼らの活動する地元のコミュニティーとの関係がそれぞれ異なるからだ。
●つまりすべてのゲリラやテロリストたちというのは平等に造られているわけではないのであり、
各グループのもつ強みや弱みに対応するのに必要とされる戦略もそれぞれ異なってくる。
●そうは言いながらも、ゲリラやテロリストたちを大きく3つのタイプに分類することは可能である。
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第1のカテゴリーは「完全同化グループ」(integrated groups)とでも言うべきであろう。代表的なのはアフガニスタンのタリバンであり、リーダー同士や現地のコミュニティーをつないだ強靭な社会ネットワークに依存した存在である。
●彼らの結束力や回復力は強く、たとえばアフガニスタンのタリバンは現地での確執や内部での対立にもかかわらず自滅的な内戦に陥ることはなかったのだ。アメリカのアフガニスタンに対する十年以上にわたる莫大な規模の介入が失敗した理由はこれによって説明できる。
●「完全同化グループ」には対反乱ドクトリン(COIN)で教えられている対処法でもほとんど効果がなく、長期的な血なまぐさい紛争につながってしまう。
●彼らを破壊したり封じ込めたりできるのは、「タミル・タイガー」に対するスリランカの対処のように、集中的な(時として残虐な)戦いだけなのだ。
●アフガニスタンのタリバンのようなグループはすぐに打倒できるような存在ではないため、それに対抗する政府たちは、長期化した戦いを避けるために許しがたい不快目標を目指している彼らと交渉する必要が出てくる場合もある。
●彼らはある程度のまとまりの強さをもっているため、外国の政府や国際社会と交渉できるほどであり、逸脱するような少数派を出さずに合意を履行することができる。
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第2のカテゴリーは「先陣グループ」(vanguard groups)であり、その指導者層は固められているのだが、現地のコミュニティーとのつながりは弱い。
●彼らが登場するのは、主に都市部のエリートや外国の戦闘員が、そもそもあまりつながりをもたない現地コミュニティー社会を動かそうとした場合である。
●1917年のロシアにおけるボリシェヴィキや、アメリカの侵攻一年目のイラクのアルカイダで見られたように、彼らは結束力の強さによって迅速かつ効果的に動くことができるのだ。
●ところが現地のコミュニティーにすばやく根付くことができないと、彼らは現地や末端組織からの離反や不服従に直面しやすくなる。イラクのアルカイダが2007年の「スンニ派の覚醒」(Sunnni Awakening)に弱かった理由はここにある。
●同様に、自称イスラム国たちは「先陣グループ」として急激に拡大したが、用心深い現地の勢力に反乱を起こされる危険性をもっているという意味では大きな弱点を抱えている。
●また、「先陣グループ」は「完全同化グループ」と比較して、外国政府の繰り出してくる様々な戦略に弱い。たとえば指導者たちが素早く排除されてしまったり政治的に手懐けられてしまうと組織が崩壊してしまうからだ。
●したがって、彼らにたいする対抗策における最大のカギは、リーダーたちを狙いつつ、組織が再興を阻止することになる。
●ところが「先陣グループ」は和平交渉において難しいジレンマを引き起こすことになる。たとえばリーダーたちとの約束が成立しても、彼らが現地の末端の部隊まで納得させて履行するとは限らないからだ。
●このようなグループと交渉する場合、グループ内の離反を防ぎながら統一性を図るために、彼らの指導者層を強化するよう積極的に動く必要がある。これをいいかえれば、彼らとの講和にはいままで戦っていた相手のリーダーたちを支える必要がでてくるかもしれないということだ。
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第3のカテゴリーは「偏狭反乱勢力」(parochial insurgents)である。彼らは共通の組織の看板を掲げていながら、その勢力が事態が(各リーダーたちは強力であるにもかかわらず)バラバラに分断されている。
●このタイプは、特徴をもった現地住民のネットワークのゆるい同盟関係から登場することが多い。この現地住民との強い結びつきは軍事的にも手強いが、リーダーシップが分裂していることによって内部闘争に陥りやすいのだ。
●パキスタンのタリバンは「偏狭反乱勢力」の典型的なパターンであろう。彼らはパキスタン政府や社会に対して大きな被害を与えることができたにもかかわらず、内部抗争や繰り返される寝返り、そして一貫した戦略を形成してそれを維持することが決してできない点で決定的な弱点を抱えている。
●このような内部の対立は、一般市民に自分たちの力を誇示しようとし激しい暴力を巻き起こしてきた。この一例が、最近ペシャワールで起きた学校襲撃事件である。
●ただし「偏狭反乱勢力」を、シリアの非ISISグループのように、本当に分裂した組織と混同してはならない。そのようなグループは中央組織が完全に不在であるために完全に無力であるし、簡単に排除されてしまう存在だからだ。
●「偏狭反乱勢力」との対処の仕方も特殊なものである。彼らの指導者層全体に(暴力もしくは交渉を通じて)対処してもあまり生産的ではない。なぜなら中央からの統制が弱いからだ。
●したがってトップのリーダーだけを殺しても一部の派閥に影響を与えるだけで組織全体には影響を与えることはないのだ。これによって、 ゲリラやテロを抑える側は、国家のコントロールを地元の末端まで押し付けるための長期の泥沼化した紛争に巻き込まれることになる。
●また、「偏狭反乱勢力」との和平交渉とのその履行は困難だ。中心となるリーダーの力が弱いために、現地の分派勢力に対しては個別にアプローチするしかなく、これは長期的かつ複雑怪奇なプロセスになることが多い。
●大型の取引や包括的な合意の代わりに「偏狭反乱勢力」との講和は、互いの我慢や休戦協定、それに現地住民との調整の上に成り立つものなのだ。
●このようなゲリラやテロリストたちのグループの多様性が意味しているのは、
ある場所で効いた戦略は別の場所では逆効果であるということだ。
●つまり
統一した「対反乱ドクトリン」というものは存在せず、ドクトリンや戦略は個別の状況に適合(テーラード)させなければならず、そのグループ自身や、彼らの背景にある政治、社会、そして経済的な状況を詳しく調査する必要が出てくるのだ。
●アメリカとその同盟国が世界の中で紛争で疲弊した地域を安定化できるのはそれからなのだ。
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まあこの辺の話は、日本も戦前・戦中と非常に苦労した分野なのですが、戦後はすっかり知的伝統が薄れてしまった分野ですね。
一般的にCOIN、つまり「対反乱作戦」というのは、
1,まず非殺傷手段を使いながら、現地の住民の安全を確保することに集中すべし
2,住民の安全確保とのバランスを考えながら、常に反乱側に肩入れする少数派のグループを明確に区別して、直接的な武力攻撃を行うべし
3,最初に大規模な都市部の住民の安全を確保するという戦略を採用し、これによって治安と安定をこの確保した地域から外に拡大させていく。
4,治安を確立できたところから、可能な限り速やかに、経済、政治、そして社会的な手段を統合させた、いわゆる包括的な全政府的アプローチを採るべし。
5,穴だらけの国境を塞ぎ、ゲリラ、テロたちの「聖域」を封鎖する。
6,正統性(レジティマシー)を強化するため、法に従った対反乱活動を実行する。
7,国内で戦略コミュニケーション計画を実施し、本国の国民に犠牲者の発生の伴う長期的な派兵を覚悟させる。反乱側の戦場間のつながりを分断する手段を考案するよう努力・検討する。
ということが言われているわけですが、これでも上の記事によれば「場合による」ということになり、一般的なドクトリンとしては採用できないような気が。
かくしてやはり
ワイリーのような状況対応型というか、順応型のほうがよいということになりますね。
そしてこれに必要なのは、なんといっても「相手」を知るためのインテリジェンス。現政府が「日本版CIA」の創設に意欲的な姿勢を見せているのも、ISISのような新たな脅威を知っておかなければならないという意味では当然なのかもしれませんが。
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