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【健康】

「お薬手帳」利用減る?薬局、意義を呼び掛け 診療報酬改定 持参しない方が安く

お薬手帳に注意点などを書き込みながら、患者に処方薬を説明する薬剤師の青木裕明さん=愛知県岡崎市で

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 医療機関で処方された薬の服用歴などを記録する「お薬手帳」。東日本大震災では、手帳を持つ被災者の治療がスムーズにいき、役割が注目された。だが四月の診療報酬改定で、手帳離れが起きかねない恐れが出ている。手帳を持っていかない方が、患者の自己負担額が安くなるからだ。薬局は手帳の意義と活用法をPRし、持参を呼び掛けている。 (山本真嗣)

 「一冊の手帳で、どこの医療機関でも利用できます」「飲み合わせや、同じお薬が重なっていないか確認できます」

 愛知県岡崎市の「お〜ろら薬局」経営者で、薬剤師の青木裕明(やすあき)さん(48)は二日、お薬手帳の使い方をまとめたA3判のポスター二枚を店内に掲げた。

 処方薬を記録し、服用歴を管理するための手帳には調剤日や薬名、用法、用量などを記入する。薬局で無料でもらえ、多くは記入内容が印字されたシールを貼る。医師や薬剤師は手帳を見て、薬の飲み合わせや複数の医療機関での重複投与、アレルギーや副作用歴のある薬の投与を防ぐ。

 同店は薬の記録だけでなく、患者から診察内容や現状もじっくりと聞き、服用法を助言。大切な点は赤ペンで書き、検査結果なども記入。疑問点を書き込む患者もいる。青木さんは「手帳は持ち主の健康状態を記録した分身」と話す。

 愛知県薬剤師会は、こうした利点や使い方をまとめ=表、会員研修などで活用している。

 東日本大震災では、手帳所持者に適切な医薬品を早く届けることができた。そこで二〇一二年度の診療報酬改定で、患者の服薬指導で薬剤師が手帳へ記載しないと、薬剤服用歴管理指導料(一回四百十円)を請求できなくしたため、多くの薬局で手帳が交付された。

 ただ、手帳を忘れた患者にシールを渡すだけでも認められたため、十分な指導をせずに無駄になっているケースも。厚生労働省が一三年度に実施した調査では、患者の八割近くが「手帳を活用している」と答えたが、四十歳未満の四割以上は活用していなかった。今回の改定では要件を厳密化。シールを渡すだけや、持病がなく複数の医療機関にかかっていないなど、「手帳を必ずしも必要としない」(厚労省)場合は、指導料を三百四十円にした。七十歳未満の患者の自己負担(三割)は百円(一円単位は四捨五入)で、手帳記載の場合(百二十円)より二十円安くなる。

 長年、自律神経失調症を患い、お〜ろら薬局に通う岡崎市の主婦(70)は「手帳で薬の飲み方を確認することもある。これからも続ける」。一方、脂質異常症で内科に通い、別の薬局を使う安城市の女性(66)は、診察後にシールをもらうだけで薬剤師の説明もほとんどないという。「手帳は使っていない。二十円でも安い方を選ぶ」と話す。

 医学ジャーナリストの松井宏夫さん(62)は「慢性疾患や持病でいくつも病院にかかり、何種類も薬を飲んでいる高齢者は多い。薬局で情報を一元管理できる手帳の役割は大きい。薬剤師は患者が負担に左右されず、健康第一に考えられる親身な説明が必要」と話す。

◇お薬手帳の注意点と使い方

・医療機関ごとに分けず、一冊だけを使い、全ての薬歴が分かるようにする

・処方を決める参考になるので、診察時に医師に見せる

・入院時も持参し、入院中の投薬も記入。点滴などの内容も記してもらうのが望ましい

・体調変化や医師、薬剤師への質問も書く

・不慮の事故があったとき、救急隊が参考にするので、常に携帯する

・患者の了解の上、医師、看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど他職種の人が情報を書き、参考にする

      ◇

 日本薬剤師会は東日本大震災でのお薬手帳の活用事例を調べ、ホームページで紹介している。

 宮城県南三陸町では、手帳持参者は過去の処方薬や併用薬の名前、用量、病歴などが確認でき、医師がカルテ兼薬歴として活用。薬の量や種類が限られる中、糖尿病や高血圧、心臓病などの患者に同じ効果がある薬を処方できた。

 避難所の統合や閉鎖で被災者が移転するケースも多く、同県石巻市では処方の変化を医師が把握するのに貢献。血圧の変化や患者自身が感じた自覚症状のメモ書き、後続の医師への申し送りなどが、情報共有ツールとして使われた。

 同会は近く手帳の意義を伝えるポスターを作製し、啓発する予定だ。

 

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