カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの製造を請け負う中国企業2社の工場を、香港の非政府組織(NGO)が潜入調査し、労働環境に深刻な問題があるとの報告を先月に発表した。
ファーストリテイリングは報告の一部を事実と認める一方、2016年3月末までにすべての取引先工場の労働環境に対する監査を実施すると表明した。
法律上、ファーストリテイリングに海外下請け会社の労働環境を整える義務はない。ただ、放置すればユニクロのブランドに傷がつきかねない。
NGOの報告を頭ごなしに否定したり無視したりせず正面から受け止めて対応したのは、危機管理の面で適切だったといえよう。半面、NGOの指摘を受けて対策を打ち出す形になったのは、世界規模でビジネスを展開する企業として恥ずかしい印象もある。
グローバル企業の海外下請け工場では、労働環境に問題があると疑わせる出来事がしばしば起きている。有名なのは、米アップルの製造を請け負う台湾の鴻海精密工業の中国子会社で5年前、従業員の自殺が相次いだ事件だ。
結果としてアップルは、下請け工場の労働環境の改善に乗り出さざるを得なくなった。こんな前例をファーストリテイリングは知らなかったのだろうか。
国境をまたがるサプライチェーン(供給網)がグローバル企業の経営効率を高め高収益を支えてきたのは確かだ。だが下請け企業が多く立地する途上国では、地元の当局も企業経営者も労働環境の向上に必ずしも積極的ではない。
そんな現実をグローバル企業の経営者はしっかり見据え、対策をとる必要がある。
政府の姿勢も問われる。米国は外国と自由貿易協定を結ぶ際、労働環境への目配りを求める条項を盛り込むようつとめてきた。対して日本は自由貿易交渉で重視してきたとは言いがたい。もっと前向きの取り組みが求められる。