東日本旅客鉄道(JR東日本)がシニア向けに発売した割引切符に若年層からのため息が聞こえています。あまりにもシニアに有利であるというのがその理由ですが、何が背景にあるのでしょうか。
話題となっているのは、現在、JR東日本が売り出している「大人の休日倶楽部10周年」を記念した割引切符です。東北・関東エリア限定ですが、何と1万5000円で、4日間、新幹線を含めた全線が乗り放題になるという商品です。しかもJRだけでなく三陸鉄道や伊豆急行などもその対象になりますから、まさにどこにでも行ける切符というわけです。この切符は、 50歳以上の人を対象とした「大人の休日倶楽部」の会員であることが条件ですので、実質的に50歳以上の人しか利用することができません(ちなみに、大人の休日倶楽部には年額2575円~の年会費が必要です)。
このサービス内容が報じられると、シニアに対するあまりの好遇ぶりに、若年層を中心に落胆の声が寄せられました。期間限定とはいえ、1万5000円で乗り放題というのは、確かに破格の条件といってよいでしょう。
背景にある高齢者シフトと世帯の購買力
[図解]JRシニア向け割引切符に若者からため息、高齢者優遇は当然か?
若者にとっては何とも不愉快な話ですが、公共交通機関の利用者動向という点からすると、このような商品が出てきても何ら不思議ではありません。
日本は高齢化が急速に進んでいますから、新幹線をはじめとする幹線鉄道の利用者は年々、高齢者にシフトしています。少しデータは古いですが、国土交通省が2005年に行った調査では、過去10年間で全体の旅客数がほぼ横ばいで推移する一方、中高年の旅客数は極めて大きな伸びを示しています。50歳以上は10年間で1.5倍、60歳以上は同じく10年間で2.7倍に増加しました。これに対して20代の旅客数は23%も減少しています。利用者の半数が50歳以上という状況ですから、鉄道会社にしてみれば、彼等が最大の顧客ということになります。
購買力の違いも大きいでしょう。新幹線をはじめとする幹線移動の交通機関は運賃が高いですから、稼ぎの少ない若年層はおいそれと乗れるものではありません。また今の中高年は元気ですので、以前にくらべて旅行への支出が大きいという面もあると考えられます。
さらにいえば、鉄道というビジネスが典型的な設備産業であることも影響しています。設備産業は、事業の運営コストのうち、設備投資の割合が高いという特徴があります。これらはすべて固定費ですから、どんなに割引をしたとしても、数多くの顧客を乗せた方が鉄道会社にとっては得なのです。
最近では、あらゆるビジネスが高齢者をターゲットにしているわけですが、鉄道の場合には、コスト構造などの関係からこうした傾向が顕著になっているものと思われます。
(The Capital Tribune Japan)