「マクロスライド」:初適用 低年金層対策、置き去り

毎日新聞 2015年02月08日 09時30分(最終更新 02月08日 12時15分)

年金振込通知書に目を通す田中実さん=東京都足立区内で2015年1月22日午後0時48分、金秀蓮撮影
年金振込通知書に目を通す田中実さん=東京都足立区内で2015年1月22日午後0時48分、金秀蓮撮影

 4月以降、公的年金はこれまでのように増えなくなる。物価が上昇に転じ、デフレ下で凍結されてきた年金抑制策「マクロ経済スライド」が初めて機能するためだ。今後も物価の上昇基調が続けば、若者が将来受け取る年金はひと息つく半面、低年金のお年寄りは打撃を受ける。にもかかわらず、セットで進めるはずの年金の底上げ策は先送りされようとしている。

 ◇月6万円 「1%抑制でも死活問題」

 「家計は今までもギリギリ。物価が上がっても年金がほとんど増えないのでは生活できない」。東京都足立区の都営住宅で1人暮らしをする田中実さん(78)は、物価が2.7%増なのにマクロ経済スライドによって年金は0.9%増にとどまることに肩を落とす。

 毎月の収入は約6万円の国民年金(基礎年金)と、5万〜6万円のパート代。以前は家賃や光熱費を払っても余裕があったのに、消費増税や値上げのあおりでスーパーに行く回数は減り、商品は「本当に必要か」と吟味してから買い物カゴに入れるようになった。

 パートは週3回。真冬の今も、朝から夕方まで室温8度の冷蔵室で野菜を詰める作業だ。生活費だけでなく、趣味の囲碁と手芸教室に通う費用をひねり出すため10年前から頑張ってきた。それが今やパート代の多くは生活費に消える。

 田中さんはいずれ働けなくなる時に備え、毎月少しずつ蓄えてきた。だがそれもできなくなった。収入減を思うと、風邪をひいてもパートは休めない。「年寄りは体を壊して早く死ねということか。年金額が低い人にとっては、1%の抑制でも死活問題です」

マクロ経済スライドによる厚生年金の標準的な所得代替率の推移
マクロ経済スライドによる厚生年金の標準的な所得代替率の推移

 2014年度の国民年金は満額で月6万4400円。15年度はマクロ経済スライドが響き、6万5008円と608円増にとどまる。スライドの期間は43年度まで約30年続く。この間、年金の伸びは物価や賃金の伸びに追いつけず、実質価値が下がり続け、現役との収入格差も広がる。とりわけ国民年金は今より3割も目減りする。

 マクロ経済スライドの影響は、障害年金で暮らす人にも及ぶ。さいたま市の実家に1人で住む統合失調症の女性(48)は、精神障害者として月6万4400円の障害基礎年金を受けている。千葉にいる両親が蓄えを崩して光熱費や食費の一部を助けてくれ、どうにか生活できているという。

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