自衛隊の海外派遣をどこまで広げようというのか。安倍内閣は派遣を随時可能にする一般法を制定し、地理的制約もなくしたいようだが、海外派遣は抑制的であるべきだ。安易な拡大は許されない。
専守防衛に徹し、海外で武力の行使をしない平和国家としての歩みこそが、戦後日本の繁栄につながり、国際社会で高い評価と尊敬を得たことに異論はないはずだ。
しかし、安倍内閣が進めている安全保障法制の整備は、戦後日本の平和国家としての歩みを損ねる危険性を内包している。
まずは地理的制約の撤廃だ。安倍内閣は、日本周辺以外にも自衛隊の派遣地域を広げ、国際社会の平和と安定のために武力を行使している他国軍を後方支援できるようにしたいのだという。
支援内容にはこれまで除外されてきた武器・弾薬の提供も含み、対象は米軍に限らない。派遣に当たり国連決議も必要としない。
直接、武力の行使さえしなければ、自衛隊は世界中で、どんな活動でもできる、とでもいうのか。
安倍内閣は昨年七月の閣議決定で「現に戦闘行為を行っている現場」以外で自衛隊活動を認めた。
弾丸が飛び交う戦場に隣接する地域で武器・弾薬を補給すれば、他国軍の武力行使との一体化は避けられまい。それでも、武力による威嚇や武力の行使を、国際紛争を解決する手段としては放棄した憲法に違反しないと言えるのか。
同様に、自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法(恒久法)を制定する方針も見過ごせない。
自衛隊の海外派遣はこれまで、期限付きの特別措置法で対処してきた。インド洋で米軍など多国籍軍に給油活動を行うテロ対策特措法や、イラクでの人道支援や多国籍軍支援を可能にするイラク復興支援特措法がそれに当たる。
安倍内閣は、こうした立法手続きをその都度、経るのではなく、政府の裁量で自衛隊を期限なく派遣できるようにしたいのだろう。
しかし、日本の国民と領域を守る自衛隊の海外派遣は例外であるべきだ。国連のお墨付きがないのなら、なおさら抑制的であるべきだろう。本当に必要なら、その都度慎重に審議し、特措法で対応するのが日本の歩むべき道だ。
安倍晋三首相は、湾岸戦争やイラク戦争のような戦闘に参加することはこれからも決してない、と述べてはいるが、今回の安保法制整備は「アリの一穴」にならないか。自衛隊の海外派遣に歯止めが利かなくなってからでは遅い。
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