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「トワイライト」ベッドメーク担当者の誇り ともに走った23年、万感…新しい旅へ

産経新聞 2月21日(土)14時38分配信

 新大阪駅に隣接する広大な車両基地がある。3月のダイヤ改正で姿を消す寝台特急「トワイライトエクスプレス」(大阪−札幌)の“ねぐら”となっているJR西日本の網干総合車両所宮原支所(大阪市淀川区)だ。「走るホテル」とも呼ばれる豪華列車はここで旅支度を整え、再び北の大地へと向かう。23年間にわたって寝台のシーツや毛布のセットを担当し、快適な旅を支えてきたジェイアール西日本メンテック係長の田中憲一さん(46)は「高級ホテルにも負けないベッドメーキング」が誇りだ。(大竹直樹)

 日本海の景色を独り占めできる大きな窓。ツインベッドにシャワールーム、応接ソファまで備えた2人用のスイートルームは、一流ホテル並みの内装で、大阪−札幌間の料金は大人1人4万6090円だ。

 「スイートは特に丁寧さが要求される。お客さまにいい夢を見ていただくための努力は惜しまない」

 田中さんはそう言ってシーツを広げると、しわをのばしながら手際よくベッドにかけていった。トワイライトエクスプレスはクルーが手を振って乗客を送り出すなど、細やかなサービスが特徴だが、ベッドメーキングも例外ではない。

 たとえば、毛布の端は2回折り込まれている。そのまま使えば、顔を出して眠ることができ、折り目をのばせば顔まで毛布で覆われる長さに調節されている。

 田中さんは「お客さまには気付いてもらえないが、気持ちよく寝てもらうための心配りです」とさりげなく語る。浴衣などのリネン類はすべて部屋の入り口に向かって折り目がくるようにそろえられている。これも「お客さまにきれいな方をみていただくため」だ。

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 田中さんがトワイライトエクスプレスのベッドメーキングを担当したのは平成4年。「当時はすぐにスイートの作業はさせてもらえなかった」と振り返る。

 作業は寝台車の1、2号車を3、4人が受け持ち、5〜9号車を6人でこなす。スイートルームは熟練のベテランが担当するが、それでも30分はかかる。

 今月3日、夜も明けきらぬ午前4時50分。宿直勤務で宮原支所に泊まっていた田中さんは跳び起きた。トワイライトエクスプレスが入線してきたためだ。

 1日午後に札幌駅を出発した列車は、積雪のため青森県内で立ち往生し、3日午前4時20分ごろ、約15時間遅れで大阪駅に到着していた。しかし、午前11時50分には大阪駅から再び札幌駅に向けて出発する。

 宮原支所を出る11時1分までに車両の整備や給水、車内の清掃などを終えなければならなかった。スタッフは急いでリネン用品を積み込むと、早朝から作業に取りかかった。乗客のファンらは、異例の車中2泊を楽しんだが「雪で列車が遅れるとJRも困るが、われわれも残業になります」。

 田中さんがベッドメーキングを担当した当初は、寝台特急「日本海」や寝台急行「銀河」も走っていたが、時代は流れ、トワイライトエクスプレスだけになり、それも3月で終わる。

 田中さんは「ともに歩んできた列車の廃止は、友人や彼女がいなくなるようで寂しい。引退後も体力の続く限り臨時列車などで走り続けてほしい」と話す。

 四半世紀の歴史に幕を閉じるトワイライトエクスプレスの名と伝統は、平成29年春に京阪神や山陰・山陽エリアで運行を始める豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス 瑞風(みずかぜ)」に受け継がれることになった。

 田中さんは万感の思いを込めて、希望を口にした。

 「新しいトワイライトエクスプレスも担当したい。今以上にすばらしいベッドメーキングをします」

最終更新:2月21日(土)22時2分

産経新聞

 

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