劉暁波氏のノーベル平和賞受賞「2」101213
=民主主義と「失敗国家」第106回=
1.中国人の劉暁波(Liu Xiaobo)がノーベル平和賞を受賞した。これに対し中国政府は彼を釈放もしないし、妻も事実上の監禁状態においている。ノーベル賞を受け取りにいくことも出来ないと報じられている。 これをわが国のマスコミは、大人気ない大国の振る舞いは中国の信頼性を失わせ、いずれ自分の首を絞めることになるだろうと笑っている。
1.ではどんな理由で中国政府は劉暁波氏の受賞に反発しているのだろうか?
(なお、ノルウエーの平和賞の授賞への中国政府の反対の理由については過去記事 「劉暁波氏のノーベル平和賞受賞「1」」 で紹介した)。 朝日新聞は11/5、
「中国メディアが劉氏を一斉批判」 という記事の中で次のように報じた。 「・・人民日報傘下の・・「環球時報」は1日、・・劉氏は「米情報機関と関係する組織から資金を受け取っていた」「(天安門事件後に逮捕された際)号泣して助けを求めた」などと、強い調子で批判」。 朝日新聞ではこれだけでなく、他にも様々な中国政府の劉暁波氏への非難を紹介しており、なるほど中国政府はこのようにあくまでも劉暁波氏への「弾圧」と「言い掛かり」を続けるつもりなのだなと妙に納得させるものを持っていた。
1.ところが、この朝日記事を読んだ当時は私はまったく知らなかったのだが、実は朝日の報道は結果的に考えると「トンデモナイ」ものであった。念のため付け加えると、先の朝日記事には事実に反することは書かれていない。だが一連の朝日報道には重要なことが伏せられていた(若しくは抜け落ちていた)のである。
つまり劉暁波氏が「中国は今後300年間外国によって植民地支配されるべきだ」と主張していると、中国政府がそう主張して非難しているという重大な事実が抜けていたのである。
1.新聞が公平に中国政府の側の主張も取り上げていたならば、「そんなとんでもないうそを言うから中国はだめなんだ」と判断する人もいるだろうし、「本当にノーベル平和賞を受けたような人がそんなことを主張していたのだろうか?事実を調べてみよう」と考える人もいるだろう。このように人々の知る権利を保障するところに西側の自由体制の優位性と西側の新聞の優位性があったはずだ。
ところが、欧米では中国政府が何といって劉暁波氏を非難しているかは報道された。だが日本では朝日を読んでいる人は知らされなかったのだ。朝日以外の新聞はどうだったのだろうか?
私が本日問題を知ったのはたまたまインターネットで「ワシントン・ポスト」のHPの過去記事を読み、欧米では中国政府が何といって劉暁波氏を非難しているかが報道されているばかりではなく、まさに劉暁波氏が「中国は今後300年間外国によって植民地支配されるべきだ」と主張していると報道されていることを知ったためである!
そこで大急ぎで中国政府系のメディアのHPを読んでみて、如何にわが国のマスコミが鎖国状態であるかを痛感したのである。
1.そこで「ワシントン・ポスト」でどう報じられているかからご紹介しよう。
この記事は”washingtonpost.com” の12/10記事で、”Washington Post Foreign Service”に属するアンドリュー・ヒギンズ記者によって書かれた ”How China branded Nobel winner Liu Xiaobo a traitor” (「いかにして中国はノーベル受賞者=劉暁波に国賊と焼印したか」) というものである。現在、この題名でグーグル検索にかけると上位に発見できる。 内容は次のとおりだ: 中国政府はたびたび香港のある月刊誌「開放」を引用することで劉暁波氏を非難している。
「最もしばしばこの弾劾のキャンペーンにおいて引用されるのは、1988年にこの雑誌へ劉が答えたインタビューだ。初めて香港を訪れ、この都市の繁栄・自由・公共秩序に目がくらみ、劉は往時の英国植民地が『植民地時代の百年間の後このようになったのだから、中国はこれほど大きいのだからもちろん植民地時代の三百年間を必要とするだろう。・・私は三百年間で十分かどうかに関して疑いを持っている』と冗談を言った」。 (Most frequently cited in this campaign of denunciation is an interview Liu gave to the journal in 1988. Visiting Hong Kong for the first time and dazzled by the city's prosperity, liberties and public order, Liu cracked that since the then-British colony had "become like this after 100 years of colonialism, China is so big it will of course need 300 years of colonialism. . . . I have my doubts as to whether 300 years would be enough." )
1.ところが事実はこのワシントン・ポスト報道よりもひどいのである。実際の香港月刊誌「開放」のインタビュー記事を読んでみよう。この記事もインターネットで次のURLで現在読むことが出来る
(我與《開放》結緣十九年 ◎ 劉曉波 http://www.open.com.hk/0701p26.html)。 このインタビューは1988年になされたのだが、劉暁波は二○○六年十二月十九日に再びこの雑誌に寄稿しており、その中で1988年のインタビューについて触れているのである。問題箇所を中国文字を日本漢字に変えてご紹介する。ただしPCで出せない文字があるため「」内に入れて”ヘン”と”ツクリ”を紹介している:
「金鐘問:「那甚麼条件下,中国才有可能実現一個真正的歴史変革「口+尼」」?
我回答:「三百年殖民地。香港一百年殖民地変成今天這樣,中国那麼大,当然需要三百年殖民地,才会変成今天香港這樣,三百年「多+句」不「多+句」,我還有懷疑」。 (問:「如何なる条件下で、中国はまさに一個の真正的歴史変革を実現する可能性を持つだろうか」?
答:「三百年間の植民地これなり。香港の一百年の植民地は今日のこの様子を変成した。中国はあのように大きい。当然三百年の植民地を要する。まさに今日の香港のこの様子を変成することが可能となるだろう。三百年で十分だろうか、私は未だ懐疑を有している」)。 1.劉暁波氏は中国が欧米の植民地となるべきことを主張している。そればかりでなく、中国全土が16か18の区域にばらばらに分解することも主張している。当然CIAの誘いもあるであろう。こういう人物を果たして中国人が賛美することが出来るだろうか?
中国が過去の100年間の日米欧の植民地支配でどれほどの苦痛を味わったか?香港も繁栄を棚から牡丹餅で与えられたのではない。激しい労働の苦痛、搾取があった。英国とその配下の暴力団の支配があり、幾多の何十万という人々が殺されて今日の繁栄の人柱となったのである。民主化されたのも英国から中国へ返還される直前であった。英国は民主化するつもりなどなかった。ただ直前に「民主化」すれば民族内部に不和が残されると計算しただけだ。
こういう植民地支配体制に戻そうという劉暁波氏は人類の敵である。ここに問題の核心がある。
私は今日の新聞・マスコミを憂う。欧米とまったく異なる報道がなされ国民に目隠しされているのは植民地のマスコミ一般に通じるものだ。
中国はあのように愚かだ、直に破綻するに決まっている、そう笑い安心している。だが中国が愚かでなかったらどうなるのか?日本人の方が馬鹿だったらどうなるのか?中国は着々と「途上国が民主化するには時間がかかる、先進国側の押し付けではいけない」と言って大部分の発展途上国を自分の側に、先進国から奪いつつあるのだ。途上国の心を着々と捉えているのだ。敵を知り己を知らば百戦して危うからず。逆もまた真なり。このままでは絶対に中国に勝てぬのではないかと危惧する。
太平洋戦争に突っ込んでいったのと同じ状態ではないか!
参考記事
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2015/1/28(水) 午後 0:38
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縄文人は白人だった!(’SAPIO’2014年12月号)141221
2014/12/21(日) 午後 7:47
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2014/11/7(金) 午前 2:54
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2014/11/6(木) 午後 9:04
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2014/11/6(木) 午後 6:33
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