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2014年2月25日
読売新聞
大阪市中央区の難波宮跡で出土した柱材2点が、年輪に含まれる酸素原子同位体の比率から年代を決める新手法によって、7世紀前半のものとわかり、大阪府文化財センターが24日、発表した。1年単位での年代測定が可能な手法としては年輪の幅を利用する年輪年代法が知られているが、この手法は樹種を問わずに測定できるのが特徴。遺跡の年代決定で初めて成果を上げたことで、今後の本格活用が期待される。
新手法は、総合地球環境学研究所(京都市北区)の中塚武教授(地球化学)が開発した「酸素同位体法」。年輪のセルロース(繊維素)に含まれる酸素原子の同位体(重さが異なる原子)2種類の比率が、降水量に比例した残存率を示すことを応用し、約2500年間の指標を作成。1年単位での測定を可能にした。
柱材は2004年の調査で出土。1点(直径約31センチ、長さ約126センチ)はコウヤマキ製で、もう1点(直径約28センチ、長さ約60センチ)は樹種不明。難波宮は飛鳥時代(7世紀)と奈良時代(8世紀)の前後2時期あるが、どちらの時代のものか、特定できていなかった。
今回、最も外側の年輪はそれぞれ612年、583年と判明。伐採年を示す樹皮は残っていなかったが、部材の加工状況から、いずれも600年代前半に伐採され、前期難波宮北限の塀に使用されたとみられる。
年輪年代法は年輪幅のデータがそろっている杉、ヒノキにしか使えないが、酸素同位体法で栗、コナラなど10種類ほどを調査したところ、同年代なら同じ同位体残存率を示すことを確認。広葉樹など、対象が大きく広がることになる。
3月15日午後1時半から、大阪府河南町の府立近つ飛鳥博物館で成果を報告する。
年輪年代法を日本で確立した光谷拓実・奈良文化財研究所客員研究員の話「年輪年代法とは全く違う根拠から精度が高い年代が割り出せる素晴らしい手法。併用すれば信頼度を飛躍的に高めることができ、考古学・歴史学研究に大きく貢献するだろう」
酸素同位体法とは?…降雨量の変動と照合し判断
Q 酸素同位体法はどうやって年代がわかる?
A 晴天が続いた年は、葉から軽い酸素同位体を含んだ水が蒸発しやすく、葉に残る重い酸素同位体の比率は高くなる。逆に、降雨量の多い年は蒸発しにくく、その比率は低くなる。この変動をパターン化したものをグラフにし、試料の年輪に残る同位体比率と照合、年代を判断する。
Q ほかの年代測定法は?
A 年輪年代法は、気温などで年ごとに異なる年輪幅を使って指標を作り伐採年を特定するもので、これも1年単位で測定が可能。年輪面が確認できれば、遺物を傷つけずに測定することも可能だ。だが、紀元前から現代まで連続する年輪幅のデータがあるのは杉とヒノキに限られている。このほか放射性炭素の半減期を利用する手法に改良を加えたAMS◎法があるが、精度が向上しているものの、結果に数十年の幅が出る。
Q どんな役に立つの?
A 時期がわからない遺跡の実年代を割り出し、歴史の常識を覆す成果につながる可能性を秘めている。また干ばつなどの気候変動も復元でき、歴史上の出来事との関係究明にも応用が期待される。
◎AMS=Accelerator Mass Spectrometry