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=断面= 教育めぐる論戦低調

2014年12月11日 10時19分

新教材の「私たちの道徳」。教育改革の一環で道徳教育の強化が進んでいる
新教材の「私たちの道徳」。教育改革の一環で道徳教育の強化が進んでいる

■道徳教育の教科化、教委制度の見直し 学校現場、改革に懸念

 安倍政権が景気回復と並ぶ最重要課題と位置づける「教育再生」。政権復帰したこの2年で、道徳教育の教科化や教育委員会制度の見直しなど、戦後教育を大きく転換する政策を矢継ぎ早に打ち出してきた。しかし、今回の衆院選で教育問題をめぐる論戦は低調だ。学校現場からは、政治色の強い改革の行方に懸念が広がっている。

 夏休み直前の7月中旬、全国の小中学校に文科省から事務連絡が届いた。本年度から配布が始まった新教材「私たちの道徳」を休み期間中、自宅に持ち帰って家庭や地域で活用するよう求める内容だった。「霞が関から地方の学校にまで口出しするのか」。県中部の小学校の40代男性教諭は、かつてない経験に驚いた。

 「愛国心」を重視する安倍晋三首相が力を入れる道徳教育。「私たちの道徳」は従来の「心のノート」を全面改定、ページ数は1・5倍に増えた。授業での活用状況も調査するなど、「学校現場へのプレッシャーは強まっている」という。

 男性教諭は教材の中で「義務ばかりが強調されている」と感じている。「権利を主張するのが悪いことみたいに描かれている。これから国際化が進む中で多様な価値観を認め合うことが大切なのに」

 道徳は2018年をめどに、検定教科書を使う正式教科となり、子どもの「内心」を評価することになる。「モノ言わぬ人づくりに手を貸すことにならないか」。そんな不安を漏らす。

 全国学力テストの学校別成績公表の容認など賛否が分かれる政策も、「自民1強」の政治環境下で、ほぼ「素通り」の状態。いじめ問題を契機に教育委員会制度改革にも乗り出し、自治体の首長権限を強化した改正地方教育行政法が来年4月から施行される。

 「政治が現場を信頼せず、露骨に介入するようになりつつある」と県中部の中学校長。学力向上、いじめ問題、ICT(情報通信技術)教育など、学校現場だけでは解決困難な教育課題は確かに山積している。その一方で「政治家自身の意向が優先されている」危うさも感じるという。

 統計では子どもの6人に1人が貧困状態。家庭の経済状況が学力差を広げ、「格差」の固定につながると指摘される。「学力テストで競争をあおることには熱心なのに、成績下位の子どもたちの背後にある家庭環境には目を向けようとしていない」。福祉的支援を含めたきめ細かな対策は、現場の教師たちが担わざるを得ないのが実情だ。

 選挙戦では、野党側も少人数学級の拡充や高校無償化、奨学金見直しなど教育環境の整備などを訴えているが、「教育再生」の対立軸として争点化には至っていない。校長は言う。「人口減で少子化対策が重要なら、子どもをどう育てるかは欠かせない視点なのに…」

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