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[vol06] 韓流と日流の交流で生まれる「環流」 大事に、韓国で日本文化専門誌『Boon』創刊

今年1月、韓国で日本文化専門誌『Boon』が創刊された。発行元は米ランダムハウスの韓国法人を前身とするRHK(アール・エイチ・コリア)で、書籍の発行点数・売上規模とも業界トップクラスを誇る大手出版社だ。「月に一度は日本に出張する」「日本酒や焼酎が大好き」というヤン・ウォンソク社長は、かつてランダムハウスアジアの会長を務め、日本の出版関係者とも親交が深い。2年前、新雑誌創刊に向けて社内に日本文化コンテンツ研究所を設置し、自ら所長に就任した。

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写真左から、RHK日本文化コンテンツ研究所のクォン・ヒジュ副所長、ヤン・ウォンソク社長、企画委員長で建国大学日語教育科のパク・サムホン副教授

「最近は韓日関係が悪化していますが、本を通じて両国の国民が理解しあえる部分があるような気がしました。出版社として文学をはじめとした日本の文化コンテンツを正しく紹介することで、韓国内で日本についての理解が深まれば、両国の関係改善に少しは役立つのではないかと思ったのです」(ヤン社長)
雑誌のタイトル『Boon』は、日本の文化、文学の「ブン」の音と「おもしろい、愉快な」という意味の英単語「Boon」を組み合わせたもので、楽しく文化や文化に接することができるようにという期待と希望がこめられている。
コンテンツの屋台骨を務めるのは、雑誌『Boon』編集長のクォン・ヒジュコンテンツ研究所副所長と、建国大学日本語教育科のパク・サムホン副教授だ。様々な大学で日本文化について教鞭をとるクォン副所長は語る。
「ヤン社長がこの雑誌を企画していた2年前から、実に様々なアイデアを伺いました。私としては歴史的な問題から危惧もあり、ターゲットと思われる学生たちは日本文化に多くの関心を抱いてはいるものの、商品として成立するだろうかという心配がありました」。周囲の心配をものともせず、ヤン社長が「大手出版社だからこそ社会に貢献すべきだ。両国関係の助けとなり、平和に貢献できる部分がなければならない」と強く主張し、自ら研究所を作り、雑誌のタイトル、表紙のコンセプト、内容までを固めていったという。
「社長の情報と、私たちが大学で講義をしながら感じる学生たちの要望をまとめて、創刊号を発行することになりました」創刊号の表紙には、海中でガラスのマスクをかぶった女性が魚を見つめる絵が描かれている。純粋な状態で新しい文化に触れる様子、また、「生命体が生まれる最初の段階から始めてみよう」という意味を込めて、母親の子宮の羊水を象徴する「水」を背景に定めたという。現在の主な読者層は25歳~ 35歳の女性。創刊号への反応は上々で、「創刊号は完売する見通しです。ファッション誌や旅行雑誌とは違い、少し難しいジャンルなので心配していましたが、売れ行きには満足しています」とヤン社長は言う。
創刊号の目玉は宮崎駿や東野圭吾の特集だ。さらに、樋口有介の「金魚鉢の夏」が日本の『小説新潮』と同時連載され、日本で読まれている小説を韓国でリアルタイムに共有するという初の試みが行われている。アニメや小説だけでなく、歴史や日本での文化イベント情報まで記事内容は幅広い。研究所で企画委員長を務めるパク教授は語る。
「日本が韓国に与えた多くの文化的な影響を『日流』と言いますが、その次に『韓流』が生まれました。文化をやりとりする中で、ちょっとした火花が生まれるのではないかと思います。私たちはこれを『環流』と名づけて、コンセプトに定めました。一方的に日本のものを見るというのではなく、韓国で日本の文化がどのように消費され、認識されているか、その文化が再び日本にどんなメッセージを投げかけることができるか、という観点から記事の内容を決めています」こうした文化的な交流は日韓関係において、どのような役割を果たすだろうか。ヤン社長は希望を語る。

「韓国のどの世代にも日本の文化に関心を持っている方々がたくさんいます。弊社発行の旅行ガイドブックも、東京、大阪、九州などは常にかなりの部数が売れています。東日本大震災の後も多くの韓国人が日本旅行に行きましたし、今もそうです。政治的な面でお互いの胸を痛めたり、傷つけ合ったりすることのない世界になればと思います。日本の方々が韓国の文化や食べ物を好きになり、韓国人も日本の文化や食べ物を好きになって、ただ自然に生きていくということ自体が美しいのではないでしょうか。山の中の小川のほとりに静かに座っていると、水の流れる音と風の音が聞こえますよね。そのように、両国間の文化や交流は、静かに座って耳を傾けてみれば、すべて聞こえてくるものです」

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『Boon』は隔月発売で価格は9000ウォン。創刊号の編集後記は、この言葉で締めくくられている。「お元気ですか? 私は元気です」

韓国で人気を博した日本文化コンテンツ

韓国で正式に日本の大衆文化が開放されたのは1998年のこと。この年、鈴木光司の『リング』の翻訳版が発行され、日本の現代小説が注目を集めるきっかけとなった。同年12月には北野武監督の『HANA-BI』が公開され、映画祭以外で初めて日本映画が劇場上映された。これ以前から韓国では日本のコンテンツが浸透しており、日韓基本条約締結から2年後の1967年、地上波で初めて日本のアニメ『黄金バット』が放送された。70年代に入ると、『鉄腕アトム』『鉄人28号』『妖怪人間ベム』『マジンガーZ』『キャンディ・キャンディ』ほか数多くの作品が人気を集めたが、当時は日本的な描写は削除され、登場人物の名前も韓国名に修正されていたため、これらの作品が日本のアニメとして認識されることはなかった。
79年には釜山に初めて日本式カラオケが輸入され、80年代中盤にはソウル・江南だけで400軒近いカラオケ店があったという。西城秀樹、山口百恵、薬師丸ひろ、少年隊、安全地帯、サザン・オールスターズなどの歌が愛され、88年のソウルオリンピックでイメージソングを歌った少女隊がブレイクした。90年代に入るとXJAPAN、TUBE、安室奈美恵などが人気を得た。一方、漫画雑誌『アイキュージャンプ』では『ドラゴンボール』の連載が始まり、10万部程度だった発行部数が60万部までアップ。1992年からは『少年チャンプ』で『スラムダンク』の連載がスタート、98年にはケーブルテレビでアニメも放送され、空前の大ヒットとなった。また、99年11月に公開された映画『Love Letter』は100万人超の観客を動員し、中山美穂の「お元気ですか?」というせりふが大流行。その他の岩井俊二監督作品にも注目が集まった。
近年は『ONE PIECE』『HUNTER×HUNTER』などの漫画がヒットし、『進撃の巨人』はポータルサイトDaumの2013年検索語ランキング1位を獲得。漫画『深夜食堂』はミュージカルも制作され、好評を博した。『となりのトトロ』などのアニメ映画、『アンパンマン』『クレヨンしんちゃん』など、子ども向けの作品も広く受け入れられており、幼いころから日本のコンテンツに触れる機会が多い。