黒田緩和の目標延期は当然、枠組変更には代償-加藤元IMF副専務理事 (1
(ブルームバーグ):国際通貨基金(IMF)の副専務理事を務めた加藤隆俊氏は、日本銀行の黒田東彦総裁が2%の物価目標の達成時期を先延ばしするのは「当然」だと言う。原油安など異次元金融緩和を導入した当時に比べ状況が大きく変化しているためだ。これまでの金融政策の枠組み自体を変える場合には代償は高くつくとの見解も示した。
現在は国際金融情報センター理事長の加藤氏(73)は19日のインタビューで、2%の物価目標は「ある程度のインフレ期待を維持するのに必要」だが、達成期限については日銀が掲げる2年程度を「ガチガチの目標と考える必要はない」と述べた。大幅な原油安は異次元緩和を導入した「2年前には想定できなかった」と指摘。環境変化に応じて「達成時期も変わってくるのは当然のことではないか」と語った。
日銀は1月に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)の中間評価で、エネルギー安によるインフレ率の押し下げ効果を2015年度に0.7-0.8ポイントと推計。消費者物価見通しを14年10月末時点の1.7%から1%に下方修正した。ただ、ドバイ 原油価格が1バレル=55ドルを出発点に、16年度までの見通し期間の終盤にかけて70ドル程度に緩やかに上昇していくと想定。16年度は2.1%から2.2%に引き上げた。
ニューヨーク原油先物相場は1月29日に1バレル=43.58ドルと14年6月の高値から約6割下落。その後も50ドル前後と四半期ベースでは09年3月末以来の低水準で推移している。日本の12月全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI )は、4月に実施された消費増税の影響を除くと0.5%程度で物価目標の4分の1。19日付の産経新聞は、日銀が物価目標の達成時期を先延ばしする方向で検討を始めると報じた。
激しい値動きに慣れるIMF幹部を04年から10年2月まで務めた加藤氏は、日銀だけでなく欧州中央銀行(ECB)なども量的緩和政策を採用し、各国の国債利回りは「かつて経験したことのないような水準にあり、民間の需要は限られている」と指摘。「入札の都度、値動きがかなり激しくなるが、それに慣れることも必要かもしれない。ボラティリティはこれからも高くなるリスクはあるだろう」と副作用に言及した。
日銀は2%の物価目標を2年程度で達成するため、マネタリーベース を積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入。14年10月末の追加緩和では、長期国債買い入れを従来の月6兆-8兆円から8兆-12兆円に増額した。年換算すると、政府が15年度に入札を通じて機関投資家へ販売する国債の市中発行額152.6兆円の最大9割超にも及ぶ額となる計算だ。
加藤氏は、それでも日銀が「金融緩和の基本的な枠組みを変えるのは、もっとコストがものすごく高い」と指摘。通貨安競争の懸念も浮上する中で「円安のために、という次元では考えないのではないか」との見解を示した。
「強いドル」の行方円の対ドル相場は日銀が異次元緩和を導入した13年に21%と1979年以来の下落率を記録。2014年12月8日には1ドル=121円85銭と07年7月以来の安値を付けた。ブルームバーグが集計した為替予想データによると、今年末の予想中央値は125円だ。
足元では中東やウクライナをめぐる地政学的リスクやギリシャの債務危機、早期の追加緩和観測の後退といった円高要因に加え、各国中銀が金融緩和を競う状況だ。
米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年10月末に量的緩和策を終了し、12月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、利上げ開始まで「辛抱強くなれる」との声明を公表した。原油安を背景にインフレ率の伸びは鈍化している半面、雇用情勢は改善している。イエレン議長は早期利上げに慎重だが、ブルームバーグが米金利先物の動向などを基に算出した金利予想の確率では、米国が今年9月までに少なくとも0.5%への利上げがあるとの観測が約5割となっている。
主要6通貨に対する強弱を示すドル指数 は1月26日に95.527と03年9月以来の水準に上昇。1月のFOMC議事録はドル高進行が輸出に対する「持続的な抑制要因になる」と指摘したが、米国の為替政策を所管するルー米財務長官はこれまでのところ、ドル高けん制を公言していない。
加藤氏は、円・ドル相場は現在、「比較的落ち着いた状況にある」が、米利上げの「タイミングをめぐってボラティリティが高まるのは懸念材料だ」と指摘。FRBが市場との対話戦略を「的確に運営し、市場がある程度の準備期間を持てて、利上げペースもある程度想定ができるようなガイダンスを出すことを非常に期待している」と述べた。
米国の為替政策については、「政策当局者の発言もその時々でいろいろと変化する」と指摘。「これまではユーロ圏と日本がおぼつかない状況だった」ので、ユーロ安や円安に「あえて異議を唱えないというのが米国のスタンスだったと忖度(そんたく)する」と語った。
ただ、米国での景気不透明感や多国籍企業の収益目減り、中小企業の輸出制約などドル高の影響を懸念する声が米議会に届いた場合には「米当局者発言のトーンが変わってくる可能性は十分念頭に置いておくべきではないか」と指摘。市場との「コミュニケーション戦略としては、変える場合でも一挙に変えるのではなく、徐々にニュアンスを変えていくのだろう」と話した。
加藤氏は米利上げ の余波で1994年12月に発生したメキシコ通貨危機に大蔵省(現・財務省)の国際金融局長として対処。円が対ドルで95年4月に、当時の戦後最高値1ドル=79円75銭を付けた後、財務官に就任した。榊原英資国際金融局長らと円高是正に取り組み、主要7カ国(G7)共同声明や日銀の利下げ 、協調介入などで同年9月には100円の大台に押し戻した。04年から10年にかけては日本人として二人目となるIMF副専務理事を務め、世界金融危機などを対応した。
加藤氏は、日本政府の「主要発言者も円安進行には良い面と悪い面があるとのトーンだ。裏返すと、今くらいの水準でどうしても困るという印象ではない」と語った。黒田総裁も「円安に関する発言では、それなりに色んな逆櫓(さかろ)を付けているような印象だ」と指摘。市場への影響を考えると「一貫して同じトーンで話すことが極めて重要だ。総裁もそれを痛いほど認識しているのではないか」と述べた。
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更新日時: 2015/02/20 14:13 JST