外国人技能実習制度の見直しに関する報告書を、法務省と厚生労働省の合同有識者懇談会がまとめた。制度のもとで賃金不払いやパスポート取り上げなどの問題が生じ、内外から批判を招いた経緯がある。報告書は、監視の強化などは盛り込んだものの、実習生の環境を抜本的に見直すまでには至っていない。

 制度は「日本で働いて知識や技術を身につけ、母国に帰って生かす」という国際貢献を目的に掲げる。しかし、問題を根絶できなければ、外国人を受け入れる国際貢献にはならない。廃止を視野に入れるべきだ。

 この制度のもとで現在、約16万人が滞在。期間は最長3年、69職種に及ぶ。実習生は、数カ月の講習を経た後は法令上、労働者と位置づけられている。

 だが、労働法令が守られない問題が続き、労働基準監督署が寄せられた情報などを元に実習先を調査したところ、2013年には1844カ所(実習先全体の約6%)で違反が見つかった。法務省からは、パスポート取り上げなどの人権侵害事例も報告されている。同省によると、実習先からいなくなった実習生が13年に約3500人を数えている。

 米国務省は「強制労働がある」と批判。日本弁護士連合会も「(実習先の)変更が想定されておらず、支配従属的な関係が生じやすい」と指摘している。

 報告書は①監視強化のための組織を新設、実習先への立ち入り権限を持たせる②新組織に人権侵害などの通報窓口を設け、必要に応じて実習先の変更を支援する③問題を訴える実習生に実習先が不利益を与えた場合の罰則を整える、といった対策を打ち出した。

 今回の見直しには、条件付きで実習期間を5年に延ばせるようにすることも盛り込まれた。同時に4年目以降は職場を移ることも認めている。しかし、実習先で段階的に技能を習得する制度の目的から「(実習先を)自由に変更できるようにすることは困難」とした。

 報告書案で実習生の立場が変わるのか。外国人支援団体からは「実習生は帰国させられることを恐れて、やはり何も言えないのでは」との声もあがる。

 制度の見直しにあわせて対象分野を介護にも広げることも打ち出された。政府はこれまでの検討を踏まえて、今国会に法案を提出し、15年度中に実施することをめざす。

 問題を解消しないまま、制度を拡大してよいのか。国際貢献になるのか。国会で十分な審議を尽くしてほしい。