日本の農業の競争力をどうやって高め、産業として自立させていくか。農地の集約・大規模化や農協改革も重要だが、いろいろな分野で民間企業の力や知恵をいかす意識改革が欠かせない。コメなどの品種開発もそのひとつだ。
「ササニシキ」や「ひとめぼれ」の開発で有名な宮城県の古川農業試験場は昨年、コメを大量消費する企業が参画する品種開発を始めた。外食や食品企業は既存の品種から選ぶのではなく、開発段階で「こんなコメがほしい」という要望を反映できるようになる。
外食などの企業が調達するコメの量は年間300万トン程度に及び、国内需要のおよそ4割を占める。古川農業試験場の取り組みは遅すぎるくらいだ。
コメの品種開発はこんなコメを作るべきだとして、戦後から一貫して国が主導してきた。その色彩はいまだに濃い。しかし、コメの国内流通は自由化し、需要は絶えず変化している。品種開発も企業の力を借りて進めるべきだ。
そのために都道府県は公的な農業試験場だけでなく、民間企業が開発した品種も積極的に普及を後押しする対応を考えてほしい。
住友化学は昨年9月、コメの生産・販売事業への参入を発表した。バイオベンチャーから買収した品種を農家に生産委託し、味の良さと生産コストの低減を両立したいという。企業の意欲を新品種の普及にもっとつなげるべきだ。
単位面積あたりの収量を増やす多収性品種の開発にも取り組んでもらいたい。政府は飼料米で収量を増やす品種開発に力を入れる。ただ、減反政策が本格導入されて以降、主食米の多収性品種の普及は事実上、制限されてきた。
三井化学グループが開発した「みつひかり」は通常品種に比べて最大5割ほど収量が増える。政府は2018年に減反廃止の方針を決め、生産コストを下げる政策を進めている。主食米でも多収性品種を活用すべきだ。農業改革には従来の固定観念を抜け出す自由な発想が欠かせない。