社説:核のごみ 最終処分に近道はない
毎日新聞 2015年02月19日 02時30分
日本には現在、原発で燃やした後の使用済み核燃料(核のごみ)が国内に約1万7000トンある。原発を動かせば、さらに増えていく。動かさなくても、今あるごみは最終的に安全に処分しなくてはならない。
にもかかわらず、日本の政策は核のごみの最終処分に対する真剣さが足りなかった。福島第1原発の過酷事故を経て活発になった議論を受け、経済産業省の作業部会が特定放射性廃棄物最終処分法に基づく「基本方針」の改定案を大筋で了承した。技術的にはこれまで同様、容器に密封し地下に埋める「地層処分」を基本とするが、いくつか変更がある。
まず、自治体が自主的に手を挙げる公募制から、科学的に適性が高いと考えられる候補地を国が示す「国選定方式」への変更だ。公募制だと適性を調べる前から地元に摩擦が生まれる。地域の利害や賛否とは別に科学的根拠に基づく適地を示すことには意味があるだろう。
ただし、選定方法を変えただけで最終処分場がすんなり決まるはずはない。なにより大切なのは、地域住民をはじめとする関係者が納得して合意できる選定プロセスだ。
「改定案」は、早い段階から住民が参加し、情報を共有しつつ合意形成をはかる「対話の場」の設置を盛り込んだ。こうした場の重要性はいうまでもないが、問題は、どのように運営するかだ。
合意形成の難しさは、世界に事例がある。原発保有国の中で最終処分場が決定しているのはフィンランドとスウェーデンだけだ。ドイツでは政府が以前に選んだ候補地が一昨年、白紙に戻った。選定過程に疑問が生じたためだ。米国でも地元の反対で最終処分場計画が中止され、フランスでも候補地で論争が続く。
日本は国際的な事例を参考にしつつ、日本に合ったやり方を探らなくてはならない。その際に大事なのは、情報の透明性であり、政府や科学者に対する信頼感だろう。「改定案」には核のごみが最終処分場に搬入された後も回収できる「回収可能性」が盛り込まれた。将来、新たな処分技術が開発される可能性はあるが、その期待が合意を後押しするとは思えない。候補地への経済的利益の提供も納得を得るには不十分だ。
ひとつ、助けになるとすれば、核のごみの増加を抑制することではないだろうか。政府が脱原発依存の道筋を描くことで、ごみを増やさないことを明確にすることが、合意形成にプラスに働くと考えられる。日本学術会議は電力会社が配電地域ごとに暫定保管施設を確保することも提言している。これも、核のごみ問題を誰もが自分の問題として考えるのに役立つのではないか。