市街地から近い「新稲の森」を開放地域貢献を通じて市公認MTBフィールドを設置 活動広げる「箕面マウンテンバイク友の会」
山を走るマウンテンバイク(MTB)は地域社会とどう共存すべきか? 昨年、東京都では登山道へのMTB乗り入れ禁止が取り沙汰されて論争を呼ぶなど、MTBの利用は常に多くの問題をはらみ、ハイカーらとの共存は長年の課題だ。そんな中、「箕面マウンテンバイク友の会」は、大阪府箕面市の山を走るMTB愛好家が、山道保全やマナー啓蒙の活動を通じて行政側と折衝し、ついには市所有の山林を借りるまでとなった。その約2年に渡る活動の経緯と、市公認MTBフィールド「新稲(にいな)の森」の解放日の様子を紹介する。
(文・写真 中尾亮弘)
広さは甲子園球場の1.3倍
1月24日、箕面市の中心部から近い「新稲の森」に、MTBに乗るサイクリストたちが大勢集まった。この土地は市が管理し、箕面マウンテンバイク友の会に貸し出されている、箕面市公認のMTBフィールドだ。その敷地面積は甲子園球場の1.3倍にも及ぶ。
街を一望できる高台の敷地には、コブが連続するパンプトラックと、ダート走行ができるMTB体験コースの2種類のコースが設けられ、この日はベテランライダーから子供までがMTBに乗ってコースを走った。また、シクロクロスバイクやロードバイクに乗ったサイクリストも来場し、同時に行われたスペシャライズドの試乗会でMTBを体験し、その楽しさを感じていた。
「パンプトラックが去年の11月に完成し、12月に解放するつもりでしたが、予定していた日が雨で実施できなかったので、今日が実質的なお披露目となりました」と話すのは、箕面マウンテンバイク友の会代表の中川弘佳さん。来場者に挨拶をしながら、「箕面の山をMTBで走るために、ゴミ拾いといった活動を通じて行政と結びつき、この場所を借りることができました」と、これまでの活動を振り返った。
日頃走る山を継続して使うために
箕面マウンテンバイク友の会の活動が始まったのは2011年。きっかけは、MTBダウンヒルレーサーでもある中川さんが、国内公式戦「Jシリーズ」で年間シリーズチャンピオンを獲得し、居住する箕面市から「箕面市長表彰」を受賞したことだった。
日頃MTBで走る箕面の山を、今後どうしたら継続して使用できるか。受賞の際に中川さんが話したことが市関係者を動かし、箕面山麓保全委員会との協力を得て2012年、当初は4人のメンバーで「箕面マウンテンバイク友の会」が立ち上がった。
まずマナーブックを作成して配布した。続いて保全委員会と共同で、山道の保全活動に乗り出した。これはマウンテンバイクが走りやすい道にする、というものではなく、雨で掘れた路面を木の枝等を使って埋めていく、文字通り地道な保全活動だ。山のクリーンハイキングにも積極的に参加し、ゴミ拾いや、山の中に捨てられたバイクの回収を行った。
「MTBが走ると路面が痛んだりする、と思われています。だから、われわれは整備をさせてほしい。だけど山の整備は勝手に出来ないので、地元の方と会話をするところから始まりました。そのおかげで、活動がじわじわと広がっていったと思います」
マナーブックでハイカーへの接し方について啓蒙するとともに、サイクリストの存在をハイカーに知ってもらうことにも取り組んでいる。
「今までハイカーとの大きなトラブルはありませんが、小さなクレームは山麓保全委員会等から聞いています。私たちが配布したマナーブックで啓蒙活動をしていますが、会のメンバーが山中の各所で立つ事はできません。だから看板を立てさせていただけるようお願いし、2月1日に認められたので設置しました。通行はハイカーが優先ですが、山を歩くハイカーの方たちにもMTBがいる事を認識してもらい、われわれの存在を分かってほしいと思っています」
マナーブックにはいろいろなマナーが可愛いイラストで描かれてあり、ハイカーからも親近感が湧くように感じられる。
「細かいルールを設定しても、ハイカーにとってはMTB自体が怖い。だからハイカー目線の取り組みをしています。挨拶や徐行、また鈴をつけていると鳴ることによって気づきやすいといったことを啓蒙しています」
公募で借りた土地 山の保全にも協力
2012年5月、箕面市が新稲の森の利用方法について公募を始めたことを、友の会の活動を通じて知る事になった。
「ここの土地は利用方法について宙に浮いていて、市から『公募をするからどうですか』というお話をいただきました。他に公募に立候補する団体がいなかったため、借りる事ができました」
2014年の4月より、新稲の森を利用しての活動が始まった。6月にはメーカーから試乗車を借り、MTB体験会を開催した。
「ここは市から無償で借りています。だから営利目的での運用はありません。ただ、私たちがここで活動するにあたって、運営費というものが必要となります。メーカーの試乗会といった取り組みは、参加した人たちに利益が還元されるので特に求めることはありませんが、ショップ向けのメーカー展示会といった場合には寄付という形をお願いしています。このような広大な敷地は私たちの運営費では賄えませんので、これからは多くの寄付を募っていきたいです」
体験会をきっかけに入会する人もあり、現在、活動に賛同する友の会メンバーは70人に増えている。
「4人から始まった会ですが、2年経った今だと、『掃除をします』と声をかければ15人は集まります。これからは山の植樹や伐採といった山林整備も、保全委員会の方と検討中です」
繰り返し走れるパンプトラックでテクニックの上達を
敷地内では、まずパンプトラックの造成が行われた。
オフロード走行テクニックの要素が詰まったパンプトラックは、ダウンヒルレーサーの阿藤寛さんが設計している。直線のコブと曲がるためのバームで構成され、短い距離ながらも走らせるとなると実は難しい。初めて走る人はぎこちない動作で、なかなかスムーズには走ることはできない。
「子供から上級者まで走れることがコンセプトです。誰でも遊べる場所になっていけばいいなと思っています」
貸し出されている土地は住宅用地にあたるため、造成には細かな制約がある。土砂を他の場所から持ち込むことができないため、敷地内の土を掘って使う事になるのだが、混じった石を除くなど、大変な手間がかかっている。そしてようやく完成したパンプトラック。阿藤さんのデモランはプロならではの攻めた走りで、見学したギャラリーから歓声が上がった。
「このパンプは自分のリズムで走るイメージを最小限の土で作って、面白いレイアウトにしています。実際、バームのこなしも難しいし、コブも見た目より難しい。乗り馴れていくと、つながりを楽しめるようになります」
印象的なのは、2歳半くらいの自転車に乗り始めたばかりの子供たちが、楽しそうに繰り返し走る姿だ。コブは小さな丘のようで、上りきれないこともしばしば。でも、慣れてくればスムーズに走りだす。
「朝から見ていて、どの子供たちも明らかに上達しています。やっぱり楽しさが大事かなと。楽しんで没頭できる空間ですね。繰り返す事ができるのが大切で、山を走っても同じ場所を何回もトライする事はできない。大人でもなかなか上手くなれない。パンプトラックは山を模した箱庭的なコースです。だから上達が早い」
こうした場所は、スポーツとしての自転車を楽しむためにとても効果的なのだ。
「行政がまだパンプトラックの意義を理解するのに時間がかかると思います。でもこれだけの人が集まっているのを見れば、ニーズがあると理解してもらえる。そういうところからパンプトラックの意味を広げていけたらと思います」
山手側の敷地内では現在スラロームコースとショートダウンヒルコースが造成中で、将来はここも解放される予定。クロスカントリー向けの周回コースも考案中だ。
一般市民がMTBに触れるきっかけを作る
中川さんは、MTBフィールド解放日の盛況ぶりに手応えを感じた。
「ここをどんどん解放して実績を作り、これだけの人たちが楽しんでいることを、箕面市から認められるようになりたい。そうすれば、一般の人たちやロードバイクに乗る人たちも集まってきます。MTBという枠にとらわれないのもいいな、と思っています」
最近では、活動を参考にしたいと愛媛県今治市役所の職員が新稲の森を視察に訪れた。
「愛媛県ではいま、しまなみ海道がブーム。今治市の方は今後、MTBも普及させていきたいと考えているそうです」
会の活動と行政の連携において重要なのは、取り組みが市民に対する利益となる事だ。森の使用と解放は、そこが目的となっている。
「今後は月一回をメドに解放していきます。市役所からすれば、解放は半年に一回くらいでいいのでは、とびっくりされていました。でも、市民が普段楽しめるかどうかが重要なのです」
今後はさらに活動を広く伝えることに取り組む。
「12月の解放日の際には友の会での繋がりや、会のWEBサイトを見た人だけをターゲットにしていましたが、今回は市民の方に知ってもらおうと、箕面市が発行している『もみじだより』という広報誌に告知を掲載させていただきました。また他にも、市民の方にどう伝えるか考えています。そうすることで、友の会に対する行政や市民からの信頼を高めていきたい」
この日は約100人が訪れる盛況ぶりで、来場者の対応に追われた中川さん。これからスポーツバイクに乗りたいという女性も現れた。一般の市民がMTBに触れるきっかけを作ることができたのだ。
最後には、パンプトラックを走るタイム計測が行われ、大人から子供までが、頑張って走る人に声援を送った。この場所が、地域社会から長く支持されてほしいと感じた。