Webコミックサービス「comico」で連載中の『保留荘の奴ら』
天国や地獄に行くことを保留された人が集う「保留荘」で繰り広げられる
殺人鬼たちの共同生活を描いたギャグコメディは、
公式作品ランキングでも常に上位を走る超人気作品です。

作者で、漫画家でありながら女子大生でもある「ココなし。」さんに
人気作品誕生の舞台裏はもちろん、気になるキャンパスライフについても伺いました。

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●殺人鬼の壮絶な人生を知り、描きたいと思った

―――『保留荘の奴ら』は、comicoでは大変人気のある作品ですね。
絵のタッチから作者は男性の方だと思っていたのですが、女性と聞き驚きました。
これまでにどんな作品を描いていらっしゃったのですか?

ココなし。さん: 「月刊コミックガム(ワニブックス)」で『オトメの免疫反応』という
読みきり漫画を描かせていただいたことがあります。
私は、今は大学生ですが、その前は、高卒の資格が得られる漫画の専門校に在籍していました。
専門校では、漫画編集者の方に作品を見ていただく審査会があり、
そこで声をかけていただいたのが、青年誌の「月刊コミックガム」様でした。
そのとき、少女漫画の編集の方にも作品を見ていただきましたが、
「あなたの絵は青年誌向け」と3社から言われ、自分の描く絵は、女性向けではないことに気づかされました。
『オトメの免疫反応』は読者が男性のため、担当の編集さんと相談し、
女性キャラクターは思いっきりセクシーに描きました。
『保留荘の奴ら』のメインキャラクターの1人、定世のグラマラスなボディラインは、
ここで鍛え上げられました(笑)。

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▲月刊コミックガム(ワニブックス)に掲載されたデビュー作『オトメの免疫反応』


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▲セクシーなボディラインが魅力の定世


―――「保留荘」で繰り広げられる殺人鬼たちとの共同生活という
ユニークな設定が光っています。どうしてこの作品を描こうと思われたのですか?

ココなし。さん: 私は、怖いものを検索するのが好きで、世界を騒がせた殺人鬼のことも
興味を持って調べていました。
人一倍怖がりな性格なのですが、「嫌だ、嫌だ」と言いながらついつい見てしまうんです。
殺人鬼たちは、私たちと同じ人間ですが、行ったことを知ると、とても人間ができることとは思えない、
その振り切れた人生を自分なりにアレンジして描きたいと思いました。
殺人鬼を複数登場させたのは、ふつうの日常を描いたストーリーに突然殺人鬼が登場したら、
当然違和感がありますよね。
しかし、周りが殺人鬼ばかりだったら、むしろこれがふつうになるのではないかと思ったことが、
『保留荘の奴ら』誕生のきっかけとなりました。


―――登場人物には、モデルはいますか?

ココなし。さん: はい。歴史上の殺人鬼をモデルに、自分流にアレンジを加えています。
気になった方がいましたら、ぜひ調べてみてくださいね。


―――7話に渡って(20~27話)描かれた「定世」の過去は、
涙なしでは読めませんでした。

ココなし。さん: 両親の愛情を十分に受けて育った定世ですが、
とある不幸な出来事をきっかけに人生が暗転。
遊女となり店を転々とするも、ついには耐え切れなくなり逃走していたところを小宮に保護されます。
小宮のもと、少しずつ自分を取り戻していく定世は、吉田のもとで給仕係として働くことになります。
次第に吉田に惹かれていく定世ですが、吉田には婚約者がいるにも関わらず浮気相手もおり、
さらに、定世のことも好きだといいます。
その状況に我慢できなくなった定世は、吉田を独り占めするため、自分の手で吉田を殺めてしまいます。


―――定世は殺人を犯したあと、吉田が残した指輪と婚姻届を見つけます。
吉田は、偽名で働いていた定世の本名をしきりに知りたがっていましたが、
婚姻届に定世の名前を書くためだったとは驚きました。

ココなし。さん: 婚姻届と指輪の描写は、私のオリジナルですが、絶対に描こうと決めていました。
あの場面では、吉田が定世に名前を聞いたとき、婚姻届を書き始めているのですが、
気づいた方はいらっしゃいますでしょうか? 
また、定世が吉田と会ったとき、すでに指輪をしていたという裏設定があり、
吉田の左手はできるだけ映さないようにしていました。本当に遠まわしな男ですよね。


―――先に気づいていたら、定世は殺さなかったと思うとやりきれませんね。

ココなし。さん: そうですね。定世の過去は、作者の私ですら描くのが苦しかったです。
読者のみなさんからも、「読むのがつらい」「重すぎる」などの声をいただきましたが、
誰でも過去があり今があるので、キャラクターを知っていただくためには、過去は描かなくてはと思いました。
そうはいっても、これはあくまでも過去なので、「保留荘」に住んでいる現在の定世は、
過去を消化し乗り越え、前を向いています。
もちろん記憶がよみがえってきてうなされてしまうこともありますが、
毎日泣いて暮らしているわけではないので、「保留荘」のパートは、楽しく読んでいただけるとうれしいです。
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▲「保留荘」の住人たちの線画


●学生であることに甘えたくない。でも、学生でも漫画は描ける

―――現在は、漫画家であると同時に大学生ですが、
どんな生活をされているのでしょうか?

ココなし。さん: 3年生なので、大学の授業はもうそれほど多くはなく、水、木、金の3日間のみです。
作品は、時間があるときに少しずつ描きますが、やはり学校がない土、日、月に集中して描くことが多いです。


―――大学のお友達は、「ココなし。」さんが
漫画を描いているということは、知っていますか?

ココなし。さん: はい。いつも、「今週も見たよ」と声をかけてくれます。
また、友達は、珍しい体験をするとそれを話し、最後に「これネタにしていいよ」と言います(笑)。
みんな応援してくれて、うれしいですね。


―――大学とcomicoの両立は、やはり大変ですよね?

ココなし。さん: そうですね。私は、作品を描くときは、
もっとも区切りの良いところで1話を終わらせたいと思っています。
読者の方が、続きが気になってソワソワするのと、話が中途半端でもやもやするのは全く違うことですからね。
ただ、そうすると1話がどんどん長くなっていきます。
また、せっかくWEB漫画を描かせていただいているので、
他の作家さんがやったことがないような表現技法なども披露できるよう研究したいのですが、
いつも時間との戦いとなってしまいます。
とはいっても、学生ということを言い訳にはしたくありません。
comicoの作家さんのなかには、本業を別にもっていながら漫画を描いている方もいます。
学生ということに甘えず、学校にも、漫画にも全力投球していきたいと思っています。

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▲手書きのネーム


―――高いプロ意識をもって取り組んでいらっしゃるのですね。

ココなし。さん: 私は学生ですが、逆に言うと漫画は、学生でも描けるということなんですよね。
だから、もし、同世代の方のなかで、漫画家になりたい方がいましたら、
チャレンジして夢を叶えていただきたいです。
comicoでも、コンテストはよく行われていますよ。
学生で漫画を描いている自分は、同世代の漫画家を目指している方のちょっとだけ先輩でもあるので、
みなさんの背中を押す存在になっていけたら良いですね。


―――「ココなし。」さんを目標としている方、いると思いますよ!
それでは、反対にcomicoに参加して良かったことはありますか?

ココなし。さん: コメント欄やTwitterなどで「読んでいますよ」と声をかけていただいたときですね。
また、作品の感想をいただくことはもちろんですが、
登場するキャラクターを好きになってくださるのもうれしいです。
今のところ、主人公の「山田」と「アンドリュー」が特に人気があります。
みなさんの好きな理由を楽しく拝見しています。

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▲左から「アンドリュー」「山田」「アルヴァンス」


―――「山田」は主人公ですが、記憶喪失でどんな罪を犯して
「保留荘」に行くことになったのかがまだわからない謎のキャラクターですね。

ココなし。さん: これから描いていきますので、楽しみに待っていていただけるとうれしいです。
実は、主人公の山田は、もともとは登場しないキャラクターでした。
「アンドリュー」「アルヴァンス」「定世」「J」の4人で展開させていく予定だったのですが、
それだと全くまとまらなくて……一般人の目線が必要だと思い、急遽、「山田」を投入しました。
もちろん、ただの一般人が「保留荘」にいたら不自然なので、違和感がないキャラクターに作り上げていきました。


―――作品は、主人公ありきで作られていくイメージがありますが、逆だったのですね。

ココなし。さん: はい。「山田」のおかげで話が引き締まり、
「保留荘」は、暴走はするけどギリギリのところで抑えることができています。
「山田」には、感謝しています(笑)。


―――今後、新たなキャラクターが登場する予定はありますか?

ココなし。さん: これからも、メインはあの5人でいきますが、新キャラは、登場させたいと考えています。
直近ですと、きれいどころが登場する予定です。
「保留荘は、むさ苦しい!(笑)」と思っている方は、楽しみにしていてくださいね。
また、殺人鬼以外にもユニークなキャラクターが徐々に登場していきます。こちらもご期待ください!


―――それでは最後になりますが、作品からもっとも伝えたいことを教えてください。

ココなし。さん: 現実的な話ですと、殺人は絶対に駄目ということですね。
当たり前すぎてあえて私が言う必要ないかもしれませんが、
どんなに愛していても殺人は決して許されることではありません。
また、「保留荘に住みたい」という声を時々いただきますが、落ち着いてください! 
そこには殺人鬼しかいませんから。
それでも、住みたいと思うくらい「保留荘」に魅力を感じてくださっているのでしたら、
こんなにうれしいことはありません。
『保留荘の奴ら』はあくまでもギャグコメディなので、作品としては楽しくご覧になってくださいね。
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▲山田

【 インタビューを終えて 】
現在大学3年生の「ココなし。」さん。
大学卒業後は、comicoを続けながら就職するか、漫画1本でいくのかは、まだ考え中とのことですが、
お父様からは「就職できるとは思えない」と言われるそうです。
しかしながら、インタビュアーの私から見ると、常に笑顔でほぼ初対面の私にも思っていることを堂々と伝え、
自分の作品を作り上げることができ、さらに、自分に厳しい。
人事が、もっとも採用したいタイプではないかと思わずにいられませんでした。
漫画以外のさまざまな経験をすることも、早くから漫画1本に専念して極めるのも、
どちらもきっとその道を選んだゆえの良いことがたくさんあると思います。
ご自分がベストだと思う道を選択しいただきたいですが、
『保留荘の奴ら』は描き続けて、私たちを楽しませてくださいね。
「ココなし。」さん、ありがとうございました!


●作品紹介
保留荘の奴ら(連載中:毎週日曜日更新)
保留荘で繰り広げられる殺人鬼たちとのドタバタ共同生活コメディ。

●作家プロフィール
ココなし。

福岡県生まれ、東京都育ち。
漫画家、大学生。
小学校高学年のとき、少年ジャンプ(集英社)で連載していた『D.Gray-man』を見て、
こんな漫画を描きたいと思い、漫画家を目指す。
月刊コミックガム(ワニブックス)にて、
読みきり漫画『オトメの免疫反応』で漫画家デビュー。
趣味は、「ジョジョの奇妙な冒険」のアニメを見ること。
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