両立したいのなら、「信頼残高」を意識すること――好きなこと、仕事のために諦めなきゃダメ?【後編】

  
  仕事に加えてもう一つ何かに全力で打ち込むためには、他のものを犠牲にする覚悟が必要――。そう語るのは、エンジニアとして仕事に取り組みながら、2014年12月まで「謎解きアイドル『パズルガールズ』」というアイドルグループで活動していた堤沙也さん。

 「周囲の多くの人の支えがあったからこそ、仕事とアイドルを両立できた」と語る堤さんは現在、アイドルを卒業しwebエンジニアの仕事に専念している。”仕事も好きなことも全力で”という働き方を1年以上実践してきた彼女に、当時を振り返ってもらった。




――これまで仕事と両立しながら続けていたアイドル活動を卒業したのはなぜですか?

 私が卒業する数か月前から、アイドル活動がかなり本格的になっていて、外部からの出演オファーなども頂くようになりました。私が加入した当時は会社員と両立をしている先輩メンバーもいたのですが、組織というのは変化するもの。もはや両立が不可能なレベルにまで近づいてきていました。また、同じ時期に無茶な生活で身体にも限界が来て、体調を崩してしまったという理由もあります。

 そこで一度立ち止まって、客観的に自分を振り返ったんです。1年以上のアイドル活動のために、私には手放してきたものもたくさんあった。これからは今まで以上に、エンジニアという職業にコミットしていきたいと考えるようになりました。だからこのタイミングで、アイドルの卒業を決意しました。


――現在はアイドルを卒業され、エンジニアの仕事に専念している堤さん。二つの仕事にコミットする働き方を終えた今、この働き方について思うことはありますか?

 何か二つの物事を得たいのなら、どこかで人に頼らなければいけなくなる。環境に恵まれていて、周囲の人と信頼関係が築けていることが必要だと思います。つまり、その人の「信頼残高」によるところが大きいでしょうね。

 両立の働き方を実践する前に、まず「周りの人に対してどれだけの信頼残高があるのか」を意識する必要があります。もちろん、働き始めてからも信頼を失わざるを得ない状況はたくさん起こるので、その中でいかに双方に信頼を“預金”し続けていくかを常に意識しないと、本当に大切な何かを失うかもしれません。

 私も、信頼を失ったなあと思うことはたくさんありましたし、「健康」という最重要事項を顧みることもできていませんでした。この働き方にはリスクもあるし、嫌な思いをしたり傷つかないように働いたりすることは、ほぼ不可能に近いでしょう。ですが、それを覚悟してでもやりたいことがあるのなら、チャレンジした方がいいと思います。私はこの働き方に対して、「やらなければよかった」と思ったことは一度もありません。


――現在は一つの仕事に専念できる環境にありますが、アイドルとの両立をしていたことで、現在の働き方に何か変化はありましたか?

 時間の使い方が上手くなりましたね。アイドルと両立していた時期は、どうやっても時間が足りませんでした。「マルチタスク」を行うことはいいのですが、当時の私は「マルチフォーカス」してしまっていたんですね。どちらかの仕事にフォーカスを当てられていたら、二つのことをやっていてもタイムマネジメントできるはず。でもそれができていなかったから、かなり無理な時間の使い方をしていましたね。

 その経験があるから、一つのことに専念できるようになった今では、時間のありがたみがわかる。使い方にも、以前より気を配るようになりましたね。無駄な時間を省き、本当に必要なことにフォーカスして時間を使うようになりました。


――最後に、一つの仕事に専念できる環境になった今、堤さんが今後仕事に取り組む際の目標があれば教えてください。

 アイドルと両立していた時は、どんなに頑張ったつもりでも両方に100%コミットすることはできなかった。だから、二つのことをしていて失った分の時間や成果を、これから真摯に取り戻していきたいという思いはあります。時間の大切さがわかった今、まずは「的確なところに効率よく力を注ぐ」時間の使い方を目指し、最大の成果を挙げていきたいですね。

堤沙也(つつみ・さや)さん プロフィール

1990年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。都内のwebサービス全般を扱う企業で、webエンジニアとしてサービスの設計や開発に従事。主に扱う言語は、Ruby,Python,PHP。エンジニアとして働く傍ら、2014年12月まで「リアル脱出ゲーム」を制作・運営する株式会社SCRAPプロデュースの「謎解きアイドル『パズルガールズ』」のメンバーとして、イベントの運営出演、ライブ活動などを行っていた。

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何があっても仕事とアイドルは捨てられなかった――好きなこと、仕事のために諦めなきゃダメ?【前編】


 自分の好きなことができるのは、学生の頃まで。大抵の人は、社会人になると他のことには目もくれず、その仕事をとことん究めようとするはず。だが、中には「仕事は大切。でも、自分の好きなことにも全力で取り組みたい!」と思っている人もいる。

 今回のインタビュー相手は、都内のweb系企業でエンジニアとして働く傍ら、2014年12月まで「謎解きアイドル『パズルガールズ』」(以下、パズルガールズ)というアイドルグループで活動していた堤沙也さん。「二つを両立することで、得るものも、失うものも多かった」と語る彼女は、「仕事とアイドルの両立」という働き方を実践する中で何を感じたのだろうか。


――現在のお仕事の内容、そしてアイドル時代の活動内容について教えてください。

 web系企業にて、webエンジニアをしています。入社して2年間はスマホアプリを担当する部署にいましたが、3年目の春から、また別のメディア事業をやっている部署に移りました。アイドル活動にかかわらず、ずっとエンジニア職で仕事しています。

 アイドルの活動としては、パズルガールズというアイドルグループに、2期生として所属していました。観客参加型の「リアル脱出ゲーム」を企画・運営する会社がプロデュースするグループという位置づけで、発足当初はリアル脱出ゲームでの演者などが主な活動でしたね。本格的なライブ活動が始まったのは、私が加入して1年後ぐらいでした。


――仕事をしながらアイドル活動……。聞くからにハードスケジュールなイメージですが、両立していた時期の一日のスケジュールについて教えてもらえますか?

 一番過酷な時期だと、起きるのは朝5時過ぎ。6時ぐらいに家を出発して、まずは7時から9時ぐらいまで、アイドルのライブの朝練に参加します。それが終わると、9時半から19時半ぐらいまで仕事。仕事が終わればすぐにイベント会場に移動して、23時半ぐらいまでイベントに出演したり、会議に参加したり、撤収作業をしたり……。全て終わって終電で帰るのが0時45分ぐらいでしたね。それに加えて、土日もリアル脱出ゲームのスタッフをしたり、ライブに出演したり……という日々を送っていました。


――そんなに自らを追い込んででも、「両立」という選択をした理由は何ですか?

 もともと、アイドルではなく声優を目指していたんです。でも、大学進学と同時に通い始めた声優の専門学校で、プロの世界の厳しさを味わい、一度は挫折しました。でも、社会人になってから同世代のアイドルの舞台を観に行った時に、「今しかできないことにもう一度挑戦したい」と、改めて思ったんです。

 もちろん、webエンジニアという仕事は大好きです。でも、それと同じぐらい私は歌と踊りが好きだった。会社や仕事が嫌になったのではなく、プラスαの欲望が出てきた、という感じですね。そのタイミングでたまたま見つけたのが、パズルガールズのメンバー募集でした。

 オーディションに受かってからは、アイドルへの想いが強かったので、ありったけの時間や想いを懸けて活動してきました。でもその反面、webエンジニアという仕事も手放したくはなかった。二つの職業を持つことで大変だったこと、苦しかったことは数え切れないぐらいありますが、どちらかを捨てることはどうしてもできませんでした。


――社会人の働き方として、“その仕事の専門領域を突き詰めていく”というのが一般的なイメージだと思います。その中で、堤さんのように“仕事もアイドルも全力でやり切りたい”という方は珍しいのでは?

 そうですね(笑)。二つの物事に必死で取り組んできた今、結論として思うのは、「どんなに優れた人間であっても、二つのことに全力を注ぐことは無理」だということ。もちろん、工夫して一定の成果を上げることはできると思いますが、物理的に難しいことも沢山あります。色々な人に迷惑をかけたし、その人達の協力があってこそ、1年半仕事とアイドルを両立できました。

 例えば、アイドルの活動について昼間に会議が入っている場合も、会社員は仕事なので参加することはできない。平日の夜にイベントがある場合は、慌てて定時退社。仕事がバリバリできる人間だったらよかったのですが、当時社会人2年目の私は何をやっても中途半端だったなと、今ではすごく反省しています。

 あと、二つの何かを掴もうとすれば、他のことを切り捨てなければいけなかった。人付き合いによって生まれる信頼関係など、本当に多くのものを犠牲にしないといけない。仲が良い会社の同期からの誘いなども、アイドルになってからはほぼ断わらざるをえませんでした。たくさんの人の優しさを受ける反面、人の信頼もたぶん失いながら、両立という道を進んできました。


――仕事とアイドル活動を両立する中で、アイドル活動が仕事面に好影響をもたらすことはありましたか?

 いじってもらうネタにはなりましたね(笑)。仕事というよりは、人生観が変わるきっかけをもらえたと思っています。アイドル活動のおかげで、これまでの人生の中では出会わなかった人達と出会うことができました。時には価値観の違いから、グループのメンバーとは分かり合えないこともありましたが、そこでいかに合意して上手く進めていくのか、ということも教えられましたね。

 あとは、ファンの方々にも教えられたことはたくさんあります。客観的に見たら、私は中途半端な形で活動していたように映るはず。それにもかかわらず、ずっと応援してくれていた人達もいたんです。決して正しいやり方ではなかったかもしれないけど、一生懸命必死でやっていれば、応援してくれる人はいる。それがわかった時にはすごく嬉しかったし、それに応えるために頑張ろうと思っていました。(続く)



堤沙也(つつみ・さや)さん プロフィール

1990年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。都内のwebサービス全般を扱う企業で、webエンジニアとしてサービスの設計や開発に従事。主に扱う言語は、Ruby,Python,PHP。エンジニアとして働く傍ら、2014年12月まで「リアル脱出ゲーム」を制作・運営する株式会社SCRAPプロデュースの「謎解きアイドル『パズルガールズ』」のメンバーとして、イベントの運営出演、ライブ活動などを行っていた。

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“新しさ”が今の仕事に与える好循環とは?――彼が「三足のわらじ」を履いて仕事するワケ【後編】


 企業の人事として働く一方で新会社を設立、社団法人の活動にも参加するなど「三足のわらじ」を履いて働いている、丸尾拓也さん。
 
 前編では、複数の仕事を手がけるパラレルキャリアという働き方を選択した経緯についてうかがった。では、実際に複数の組織に属してみて、彼の働き方はどのように変化したのだろうか?

 後編では、パラレルキャリアを実践する中で以前と変化した点や、複数の組織で働くために必要となってくることについてうかがっていく。




――実際に複数の職業に就いて働くことで、以前までの働き方と何か変わった点はありますか?
 
 インプットとアウトプットの機会が圧倒的に増えました。また、違う領域の仕事を手がけるメンバーと一緒に仕事を進めることで、他分野への興味の温度も上がり、「もっとこうしたい!」という思考のレベルが上がったと思います。これはアウトプットの質の向上に繋がりましたね。


――一方で得たインプットが、他方に好影響をもたらした事例がありましたら教えてください。

 採用の業務で得た経験やスキルはLean Channelを立ち上げる際に大いに役立ちました。実績や知名度がない中で、ITベンチャー企業の取締役や、Webメディアの運営メンバー、優秀なエンジニアが事業のパートナーになってくれたのです。

 一方で、自分の領域外のプロフェッショナルと過ごすことで、違う角度からの情報を自然とインプット出来たり、仕事の進め方の課題も見えたりしてきました。そうした中で蓄積された知恵は、採用担当として取り組む日常業務の質向上へ繋がりました。また、学生の相談に対して提供出来る選択肢の数も圧倒的に増えましたね。



――実際に複数の仕事で成果を出していく上で、どのような要素が大切になってくるとお考えでしょうか?

 自分の進む道の周りに柔軟な考え方や行動を起こせる土壌を創っておくことだと思います。手を拡げると、新しいモノ・コトとの出会いが増えてくると思うので、未知のことに対してもネガティブにならず「僕だったらどうやるかな?」という発想で取り組む姿勢を大切にしています。

 そして時には、一度決断して始めたことに固執せず、適切なタイミングで止めて違うアプローチを探すことも大事な要素ですね。 


――人事として採用にも携わっている丸尾さんですが、就活生や転職を考えている人にも、パラレルキャリアという働き方は勧めたいですか?

 働き方は手段であり、成し遂げたい、譲れない目的が同時に二つ以上ある人にはオススメです。とは言え、まだメジャー感の高い働き方ではないのも事実。周りにこのキャリアを許容してくれる人たちがいるかいないかの違いは結構大きいので、この働き方を選ぶのであれば、「なぜ、どのタイミングで、何を経験したいのか」をきちんと周囲と共有しながら取り組むのがいいと思います。

丸尾拓也(まるお・たくや)さん プロフィール

株式会社ネクスウェイ人財開発室/Lean Channel株式会社代表取締役
2011年、新卒でネクスウェイに入社。入社後営業部門で月間MVP賞を獲得し人事部門に異動。採用担当として同社表彰多数。2014年6月にLean Channel株式会社を立ち上げ、「温かさを創る人になる。」をモットーに日々活動を続ける。

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“もっと”良くできないか、を突き詰めただけ。――彼が「三足のわらじ」を履いて仕事するワケ【前編】


 会社という組織の枠を飛び越え、様々なコミュニティに属して働く「パラレルキャリア」と呼ばれる働き方をご存知だろうか。これまでのキャリアにおける考え方を打ち破る、この働き方が注目を集めている。しかし、転職や独立という選択肢もある中で、なぜこの働き方を選ぶのだろうか?

 今回は株式会社ネクスウェイの人事として働きながら、Lean Channel株式会社を起業、さらには社団法人のプロジェクト(こちらは2014年12月まで)にも参加するなど「三足のわらじ」を履いて働いている丸尾拓也さんに、パラレルキャリアという働き方を選んだ理由についてうかがった。


――転職や起業という選択肢もある中で、なぜ複数の職業を一度にやろうと考えたのですか?

 それまで一つの組織にしか属していなかった自分を振り返った時、「現状のままでは、今いる組織の価値観でしか思考できない人になってしまうのではないか?」と思い始めた事がきっかけです。

 また僕の身近には、休日や終業後の時間を活用して組織を越えた別の活動をしている人が多かった。だから、現組織に「加えて」何か探求すべき課題を組織の外に持っている働き方を、あまり珍しいとは思っていませんでした。


――一つの価値観だけで働くことは、何がどのように問題なのでしょうか?
 
 問題というよりは僕の考え方ですね。何に対しても「“もっと”良くできないか」を考えたい性分なので、「一つの価値観だけ」で物事に取り組むということが僕にはマッチしなかった。さらに言えば、その“もっと”の範囲を「丸尾だからできるんだ」と言われるところまで突き詰めたいという想いが根本にあります。

 例えば、ネクスウェイで新卒採用担当をしていますが、僕自身新卒で入った会社ですので、良くも悪くも他社を知りません。数ある選択肢の中から一つを選ぼうとしている学生に、意図せず「自社寄り」の価値観でしか情報提供できていないことは彼、彼女らにとってフェアじゃない。せっかく会いに来てくれた学生に対して、提供出来ることが極端になってしまうと考えていたんです。


――その中で「こういう価値観も必要なんじゃないか」とイメージしてキャリアを組み立てていったのですか?

 必要な価値観については、自分で仮説を立て獲得していくことは難しいと思っています。しかし一方で、新しい人との出会いや経験の中ではそれが比較的容易になるのではないでしょうか。

 僕の場合は、社会に出るまでは知らないことが多く、「コレがやりたい!」という明確なものはなかったし、ただ純粋に「社会とか仕事って面白いものなんだ!」と捉えていました。なので、自分が社会に飛び出して出会ってきた“新しさ”が今まで持っていた価値観に加わり、結果的に引き算が成立して洗練されていったのだと感じています。

 なので、イメージをしてからキャリアを組み立てるよりも、新しいモノ・コトに出会う機会を積極的に創り出し、そこで感じられたことをきちんと咀嚼する時間を持つことを大切にしています。その中で形作られる答えがキャリアを組み立てる要素になっていますね。(続く)




丸尾拓也(まるお・たくや)さん プロフィール

株式会社ネクスウェイ人財開発室/Lean Channel株式会社代表取締役
2011年、新卒でネクスウェイに入社。入社後営業部門で月間MVP賞を獲得し人事部門に異動。採用担当として同社表彰多数。2014年6月にLean Channel株式会社を立ち上げ、「温かさを創る人になる。」をモットーに日々活動を続ける。

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