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アサド政権を大批判でも「シリア情報省」と「朝日新聞」
 あっぱれな記者魂と言うべきか。朝日新聞の記者がシリアに入国し市民の声をレポートしている。だが、記事の後にある但し書きによると――。

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 朝日新聞がシリア第2の都市・アレッポの様子を報じたのは2月1日のことである。

〈実態を探るため、支配地域との間でバスの運行が続く北部アレッポヘ、首都ダマスカスから向かった。
 情報を精査して移動経路に「イスラム国」の影響が及んでいないことを確認した〉

 記事からは緊張した空気が伝わってくる。「イスラム国」から逃れてきた住民から公開処刑の様子が明かされ、地方都市・バーブのヘッロ市長が子供の洗脳の実態を語る。この“潜入取材”に外務省も懸念を示したほどだが、たしかに迫真のレポートだ。

 だが、最後に妙な但し書きがある。

〈アレッポでの取材は朝日新聞が独自で行った。ヘッロ市長の取材のみ、シリア情報省経由で実現した。いずれの取材も情報省の職員が立ち会ったが、検閲は受けていない〉

 情報省の役人がぴったりついているのだ。元シリア大使の国枝昌樹氏が言う。

「シリアに入って取材するときは情報省が窓口になるのです。だから、役人が帯同するのは通常のこと。案内役みたいなもので、彼らは治安当局や自治体の長と連絡を取り、その場所が安全かどうかを確認しながら案内するのです」

 なるほど、シリア政府に水先案内を頼んで取材相手も見つけてもらったというわけである。だが、朝日がシリア政府のことをどう書いていたかご存じか。

〈時間の余裕はない。国際社会はシリアのアサド政権に対し、あらゆる手段で包囲網を狭めるべきだ。同時に、政権の崩壊を見据え、新体制の輪郭づくりを急がねばならない〉

〈米欧は、アサド政権の関係者の資産凍結や原油取引の禁止など、国連の枠外で科している制裁をさらに強める必要がある〉(2012年7月21日付の社説)

 まるでアサド政権は悪の権化と言わんばかり。さんざんコキおろしておいて、取材の手助けをしてもらう理由も記事にはない。朝日新聞OBの本郷美則氏が言うのだ。

「朝日は“アラブの春”以来、反アサドでした。しかし、今回は窓口にしたほうが都合がいいと判断したのでしょう。記事自体は大したものですが力が支配している場所でどちらかに与(くみ)して取材するのは慎重にやらないといけません。情報省の役人がいる前で、どれだけ本音が聞けたのかも気になりますね」

 あの時は書きすぎてゴメンネと、もう一文入れておいたら分かりやすかったのに。

「特集 日本に宣戦布告! 『イスラム国』狂気の残響」より
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