安倍首相が衆院代表質問の答弁で、中東ホルムズ海峡での停戦前の自衛隊の機雷掃海について「国民生活に死活的影響が生じるような場合」には、集団的自衛権の行使で掃海が可能との見解を示した。

 日本が輸入する原油の8割はホルムズ海峡を通過しており極めて重要な輸送経路である▽ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合、かつての石油ショックを上回るほどに世界経済は大混乱し、我が国に深刻なエネルギー危機が発生しうる――。

 そんな説明の上で安倍首相は「我が国が武力攻撃を受けた場合と同様に深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況にあたりうる」と結論づけた。

 安保法制をめぐる与党協議は始まったばかりだ。公明党が慎重姿勢をとるなか、それを押し切るかのように自説を強調する首相の姿勢は疑問だ。まずは「死活的影響」とは何かを明確にする必要がある。そこをあいまいにしたまま、海峡での掃海を突破口にして、自衛隊の中東派遣と集団的自衛権の行使に道を開くべきではない。

 機雷がまかれた場合、想定されるのは日本の経済的な損失であろう。だがそれで、昨年7月の閣議決定に示された武力行使の新要件を満たすと考えるのは無理がある。

 新要件は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」としている。経済危機が直ちに該当するとは考えられない。

 国民生活に「死活的影響」が生じるケースも、およそ想定しにくい。過去の政府答弁では憲法9条について「外部からの武力攻撃によって国民の生命や身体が危険にさらされるような場合」に、必要最小限度の実力行使を認めてきた。

 それと同じくらい深刻、重大な被害だとすれば、ホルムズ海峡への機雷敷設によって、国民の生命や身体が危険にさらされる事態ということになる。

 日本の石油備蓄は約6カ月分ある。その間、外務省も経済産業省も手をこまぬいたまま、新要件の「国民を守るために他に適当な手段がない」状況に陥って集団的自衛権の行使に踏み切ると言うのだろうか。

 いま中東について世界が頭を悩ませているのは過激派組織「イスラム国」への対処だ。混乱をどう収め、日本としてどんな貢献ができるか。それが喫緊の課題である。想定しがたい危機を取り上げて、自衛隊の活動をめぐる拡大解釈を重ねることが政治の役割ではあるまい。