こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。
前回は「ワンダーフェスティバル2015」で実感した日中のキャラクター力の違いをお伝えしました。
「寄生獣」は中国ではNG…ワンダーフェスティバルで見た日中キャラ力の差
今回は引き続き、中国の貧困なキャラクタービジネスについて書いていこうと思います。
現在、中国政府は、アニメを成長産業と位置づけ、アニメのイベントなども開催しています。ですが、中国におけるアニメというのは、「子どもが見るもの」という認識が一般的。『喜羊羊与灰太狼(シーヤンヤンとホイタイラン)』のように、10歳以下を対象とした国産アニメの中には、ヒットしているものもありますが、それ以上の年齢を対象としたアニメの現状は、お寒いものばかりです。
露骨に日本のアニメをパクッたものや、反日ドラマのアニメ版ばかりです。子供だましの作品は作れても、ある程度の年齢以上の子たちを満足させるような作品が生み出せていないのです。それはアニメに限らず、漫画やゲームなど、すべてのエンターテイメントにおいて同様に言えます。
学生恋愛はNG、暴力描写もNG
それには幾つか理由がありますが、一番は、規制の問題でしょう。
ある程度の年齢になると、子どもたちは、『ラブプラス』のような恋愛ゲームをやったり、『進撃の巨人』のような暴力描写のあるアニメを見たくなりますよね。でも、中国では、学生は勉強するものという位置づけだから、学生恋愛はNG。そして、過激な暴力描写も子どもの精神に悪影響を与えるとしてNGなのです。
習近平政権になってから、ますます、この規制は酷くなっています。例えば、ゲームにおいては、胸元が大きく開いた巨乳のお姉さんキャラや、ミニスカートの美少女キャラなどが「破廉恥でけしからん」ということでNGになりました。
ネット上では、腐女子向けのBL小説なども流行っていましたが、中国では「同性愛は犯罪、精神病」という認識。そのため、こうした作品も続々と取り締まりを受け、なおかつ、BL小説をアップしていたサイトの管理者が、エロサイト運営の罪で逮捕されました。
こんな息苦しい国において、いったい、どういうキャラクターが生まれてくるというのでしょうか?
日本に来て驚いたのは、キャラクター文化の豊かさです。SUICAのような電子カードにも、さりげなくかわいらしいペンギンが描かれていたり、現在は「ゆるキャラ」のようなキャラクターが至るところにあふれています。しかも、ゆるキャラの中には、間抜けな顔の「くまモン」や、エキセントリックな動きをする「ふなっしー」のようなものまでいて、驚かされるばかりです。
これが中国であれば、「県の顔」となるようなキャラクターであれば、「かっこよくて人々に親しまれるものでなければならない」と考えます。だから、キャラクターも無難なものしか生まれてこないのです。「くまモン」や「ふなっしー」のような案を出したら却下されることでしょう。
このように、アニメを成長産業と位置付けている中国ですが、やっていることは真逆のことばかり。とてもキャラクター文化が根付くような土壌はありません。このままではいつまで経っても、中国のアニメ会社は、日本や韓国のアニメ会社の下請けという位置づけのままでしょう。
(構成/杉沢樹)
著者プロフィール
漫画家
孫向文
中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)