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 新聞記者はいろんな人に会って話ができるのがいわば職業的特権なのだが、ドイツのリヒャルト・フォン・ワイツゼッカー元大統領にお目にかかったのは望外というべきか、私にとって生涯忘れられない体験である。そのワイツゼッカーさんが94歳で亡くなってこの11日に国葬が行われた。

 第2次世界大戦で、ドイツが敗戦したのは1945年5月8日、日本の降伏は8月15日、今年はともに戦後70年である。私がワイツゼッカーさんにインタビューしたのは、戦後50年の企画記事を書こうとしていたときだったから、いまから20年前である。時代は変転しても、戦争と人間を深く見つめたワイツゼッカーさんの言葉は人々の心に刻まれて色褪(あ)せることがない。私も私なりにワイツゼッカーさんを偲(しの)びたい。

 ベルリンの中心部のワイツゼッカーさんの事務所は、小さく簡素だった。「わかりにくかったでしょう」と出迎えてくれた。2期10年の大統領の任期を終えて半年ほど、1994年11月18日のことだった。私はこんな質問から始めてみた。梶村太一郎さんというドイツ滞在の長い名通訳を通じてである。