“宇宙人と戦う”新感覚歌舞伎2月18日 10時44分
宇宙人との戦いを描くという異色の歌舞伎が、東京・六本木で、今月上演されました。
若手人気歌舞伎俳優の中村獅童さんと市川海老蔵さんが、より気軽に歌舞伎に親しんでもらおうと企画しました。
脚本は「あまちゃん」でおなじみの宮藤官九郎さん、演出は若者に人気の映画監督・三池崇史さんという異例の制作陣で、新たな歌舞伎が生まれました。
興味ない人を振り向かせたい
六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事(ちきゅうなげごろう・うちゅうのあらごと)」と題した今回の舞台。
中村獅童さんの役は宇宙からの侵略者、その名も「駄足米太夫(ダーシベイダユー)」。映画「スターウォーズ」の世界がモチーフになっています。
この侵略者を迎え撃つ正義の味方を演じるのが市川海老蔵さんで、2人の戦いを中心に物語が進みます。
この歌舞伎を企画した経緯について獅童さんは、
「海老蔵さんが僕の楽屋に遊びに来て、これからまた新しい歌舞伎にチャレンジしていきたいねということで始めました。やっぱり歌舞伎に全く興味のなかった世代の人たちを振り向かせたいという思いが僕も海老蔵さんも強かった」と語りました。
2人を支えた現代劇のプロたち
新しい歌舞伎を作るため、獅童さんと海老蔵さんは、親交のあった宮藤官九郎さんと三池崇史さんに脚本と演出を直接依頼しました。その意図について獅童さんは、「現代の作家や映画監督の方たちにお願いして、どういう化学反応が起きるか。われわれでは思いつかない演出を期待して」と語ります。そもそも映画監督が歌舞伎を演出することも極めて異例です。
演出に当たった三池監督は、もともとアクションものなどで若者に人気の監督です。歌舞伎演出の依頼に、驚きながらも自由な発想で取り組んだといいます。
「いやいや、まじですかっていう印象でした。自分自身、初めて歌舞伎を演出するし、どきどきですよね。(それでも)劇場でお客さんが『おお、これは!』と驚く瞬間を作ることができればと思いました」(三池さん)。
今回の歌舞伎は、従来の古典の演目と違って、手本がありません。俳優たちも、浄瑠璃や三味線などさまざまな役割の人と2週間以上にわたり試行錯誤を重ねました。「通常の歌舞伎の稽古はだいたい3日、4日なんです。すでにあるもの、古典を演じているから。今回はそれがないところから始まっているので、非常に楽しい作業ですし、やりがいのあることです。江戸時代の歌舞伎も、きっとこういうふうに芝居作りをしていたんだろうと思いました」(獅童さん)。
自由な演出あふれた新たな歌舞伎
舞台は、楽屋で獅童さんと海老蔵さんがふだん着で会話するという歌舞伎としては意表を突く演出で始まります。舞台上で化粧をして、徐々に2人は歌舞伎役者の表情になります。
歌舞伎を初めて見る人にも、自然に物語に入り込めるようにという工夫です。
獅童さん演じる侵略者の登場シーンでは、三味線で「ダースベーダーのテーマ」が流れ、会場を沸かせました。
せりふでは、「アドリブかませやがって」など、宮藤官九郎さんらしい現代的なことばも満載で、自由な演出をちりばめながら、歌舞伎本来の魅力を感じさせる舞台になりました。
公演の手応えについて2人は。
「歌舞伎は古いものじゃない。いろんなものを巻き込んでいくのが本来の歌舞伎ではないか。そういう歌舞伎が生まれてきてもいいんじゃないかと思いました」(三池さん)。
「江戸時代の歌舞伎は、当時の最先端であり、流行の最先端でもある。当時のはやり物とかギャグをせりふに入れ込んだりとか、時代の最先端でいられるような『傾く(かぶく)』ということばもあるぐらいだから、若い人たちにもどんどん見ていただいて、かっこよさやおもしろさを伝えていくのがわれわれの仕事だと思います」(獅童さん)。
この歌舞伎公演は、8月に名古屋と大阪でも上演されます。