「これからライブ・コンサートに携わるみなさんは、音楽の一番重要な部分を担う人たちでもある」
ミュージシャン 高野寛氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座 採録

「ミュージシャンには小さな頃からの経験は重要?」「どのようにモチベーションを維持しているの?」

高野寛氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座
学生:高野先生は幼少の頃より音によく触れていたとお聞きしましたが、やはりミュージシャンには小さな頃からの経験は重要でしょうか?

高野:そうですね。他のスポーツなんかでも一緒だけど、大人になってからいきなりやろうとすると時間もかかりますよね。中には20歳からキーボードを弾き始めて一流のプレイヤーになったという人の話も聞きます。だけど、特に耳の訓練みたいなことは小さいうちにやった方がいいみたいですね。僕は幼稚園の時に、音楽教室に1年間だけ通っていたんだけれど、その時に和音の聞き分けみたいなことをやったのが役に立ったなと今でも思いますね。だけど、早いか遅いかではなく、その後の努力に関わってくるから一概には言えないですね。

学生:印象に残る音楽を作るとき、作曲から発表までどのくらいの時間がかかるのでしょうか? また、高野さんはどのような心境で音楽を作っていますか?

高野:曲が出来上がるときの気持ちとかきっかけは、本当に様々です。先ほど「Dog Year, Good Year.」という曲を歌いましたが、それは“ドッグイヤー”という言葉(移り変わりの速い月日、という意味のIT用語)を聞いたときに意味を知って、そこからインスパイアされて作った曲なんですね。「虹の都へ」は、最初にスキーウェアのCMソングの依頼がきたんです。それで、とりあえず16小節作ってくださいと。「新しいスキーウェアに紫外線を遮る機能があるので、太陽という言葉を入れてほしい」という注文がありました。そういう、完全に職業作家みたいな形で、依頼を受けて作ったんですね。そうしたら思いがけず良い曲になったので、それがシングルにまでなったといういきさつがあります(笑)。曲のでき方というのは本当に様々ですね。他にも10年以上前に作った曲を、急に最近思い出して、仕上げてアルバムに入れるということもありしました。僕はそういう風に色んな作り方をします。

学生:私は何かを作ったりするときは、それを楽しんでくれたり、喜んでくれる人のことを考えてモチベーションを保っています。ですが、期間が長いとか逆に短時間で終えないといけないときにモチベーションを保てないことが多くあります。高野さんはどのようにモチベーションを維持していますか?

高野:期間が短いというのは、例えば課題の提出が迫っているとかそういうことだよね(笑)。僕はいつも学生を見ていて大変そうだなと思っているんですけど、そこはやっぱりプロとアマチュアの違いがあって、プロになるということは、与えられた課題を期限の中でこなすことが最低限のルールなんです。それができないと次の仕事は来ません。なので、それこそ必死でやりますね。寝ないでやることもあります。モチベーションは、先ほどの話と重なるんですけど、音楽に関わることはすごく好きなので、大変でも、しんどくても、楽しいという感覚がどこかにあります。一所懸命に頑張って、物事が上手くいったときの喜び、よく頑張ったからこんなに上手く結果が出たんだと。それが次に繋がるということかもしれないですね。あとは繰り返しやっていると、だんだん早くできるようになります。例えば今日の授業は実はすごく不慣れな現場です。僕のやっているソング・ライティングの授業は講義じゃなくて実習なんです。こういう大勢の人の前で長時間話すことにそんなに慣れていなんです。結構練習してきたつもりだったんですけどね、時間が余ってしまいました(笑)。

学生:私の父親も大阪芸大出身でして、成功した人は、学生時代から努力の仕方とか本気度が周りの学生と全然違っていたと聞きました。高野さん自身は学生時代はどのように過ごされていましたか? 例えば作品をたくさん見るとか、オーディションをたくさん受けてみるとか、そういった努力や活動はされてましたか?

高野:僕は浪人して大阪芸大へ進んだんですね。その時はまだミュージシャンになろうとは思っていなかったから、1年間ギター絶ちをしたんです。そうしたら、本当に弾きたくて弾きたくてしょうがなくて、代わりにレコードをいっぱい買うようになって(笑)、結局意味がありませんでした。でも逆に自分がどれだけギターや音楽が好きかを再確認したんです。だから、本気度というか、好きという気持ちはやっぱり隠せない。大学時代もずっと練習していたし、曲を作っていました。その入り込み具合は他の子と違っていたかもしれません。僕よりギターが上手い人も何人かいたんですけど、その人達はプロにはならなかったですね。だから努力というよりは、そういう部分が自然と出てきたという感じがしています。

学生:高野さんはご自身の曲を作る以外に、他の方へ楽曲提供をしていますが、楽曲を提供する場合、特にどのような点に注意して作られますか?

高野:その人の声を頭の中にイメージしますね。二枚目の人から依頼が来たら、そういう詞を書きます。僕はそういう意味ではいまだに照れがあって、自分の曲だとあまり格好つけられないというのがあるんですけど、一度、キムタクが歌ったらどうなるかとシミュレーションして曲を作ったことがありますね。イメージする人の声とか、キャラとか、作りたいことによって変わってきますね。