「これからライブ・コンサートに携わるみなさんは、音楽の一番重要な部分を担う人たちでもある」
ミュージシャン 高野寛氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座 採録

「音楽ファンである気持ちをずっと持ち続けて欲しいなと思っています」

高野寛氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座
 最後に、みなさんが音楽の仕事をしようと思っているのと同時に、音楽ファンだと思うんですけど、音楽好きな方にお願いといったら変かな・・・是非憶えておいて欲しいことがあります。さっきから何度も言っているように、僕らの活動というのはもちろんファンに支えられているわけですね。そのファンは、今は主にインターネットで情報を集めている。僕らからするとフィードバックがあるとすごく嬉しいんですね。例えば、ライブが終わった後のTwitterの感想ももちろんですし、iTunesやAmazonのレビュー、Facebookのいいねボタン、そういったものがたくさん返ってくるとやっぱり手応えを感じます。それはライブをやったときの拍手や歓声をもらったのに近い感覚かもしれません。

 みなさんのそういったフィードバックが循環して、ネットの繋がりを深めて、盛り上げていって、そこから活動が次に繋がっていくので、せっかくみなさん音楽の仕事を志しているのならば、ただ漠然とネットを見るだけではなくて、是非気に入ったものに対してどんどん自分からフィードバックして、好きなアーティストをひいきしてみてください。ほんのちょっとした一手間です。選挙と同じで、一人一人のそんな積み重ねでアーティストが支えられているということを是非憶えておいてください。

 あともう一つ、アーティストもスタッフも同じなんですが、できるだけいい音楽にたくさん触れて、できるだけたくさん感動して下さい。やはりいい音を知っている人、いい耳を持っている人というのはいい仕事ができます。耳のいいスタッフに支えられて、いいミュージシャンが育ちますし、一流のものを作れる。それはCDでもステージでも一緒です。そういう音楽ファンである気持ちをずっと持ち続けて欲しいなと思っています。

 25年以上ミュージシャンをやってきて痛感しているのは、音楽の仕事というのは割に合わないです、ある意味(笑)。同じ時間働くんだったら、他にいい仕事があるんじゃないかと(笑)。例えば、コンサートのスタッフだったら朝早く会場入りして、設営して、遅くまで時間を掛けて撤収する。そして次のコンサートに向けてそれを片付けている。その労働時間はとても長いですよね。それはミュージシャンも同じで、ステージに立っている時間以外も、普段からずっと曲のことを考えていたりします。でも、なんでそんなしんどいことを続けられるのかというと、それはやっぱり、音楽が楽しいからなんですね。時間とかお金に換えられない何かが、音楽にはあるからやっていけているんだと思います。

 音楽の仕事に携わる人にも色々な人がいて、お金儲けのために音楽をやっている人もいるかもしれませんが、長く続けるということを目指すのであれば、音楽が好きであるという気持ちを一番中心に持って、それを忘れないでいれば、いい出会いがあって、いい仕事ができるんじゃないかなと思っています。

高野寛氏「ライブ・エンタテインメント論」特別講座