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『comico』がゲーム会社から生まれたのは必然?事業部マネージャーに聞くゼロベースの思考術と新しい文化の作り方

2015/02/18公開

 

「『comico』はスマホでの最適化を意識し、ゲーム事業でのノウハウを取り入れることで、多くの新人作家の作品を読者が育んでいるサービスです」

右から左に読み進める一般的な漫画とは異なる縦スクロール型の読み方や、サービス開始時点から新人作家のオリジナル作品だけでラインナップするなど、独自の路線で事業をスタートさせ、注目を集めるスマートコミックサービス『comico』。

日本出版販売が主催する『全国書店員が選んだおすすめコミック2015』で6位を記録し、単行本の発行部数が40万部のヒットとなった『ReLIFE』や、『comico』として初のアニメ化作品となる『ナルどマ』など、注目を集める作品が続々と誕生。2015年1月には800万ダウンロードを記録するなど、新しい漫画文化を築いているという声もある。

書籍をWebにローカライズするこれまでの電子マンガとは異なる路線を歩んだ『comico』の裏側を、comico事業部マネージャーの吹田沙矢さんに聞いたところ、既存コンテンツをゼロから考えて再構築し、最適化を図る重要さと、異業種の考え方を取り入れる発想力を聞くことができた。

常識を忘れて「スマホ最適化を意識する」

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スマホ最適化と異業界のノウハウを組み合わせたことで、『comico』は今のカタチになったと語る吹田沙矢さん

そもそもゲーム会社であるNHN PlayArt(以下、NHN)がコミックサービスを出した理由について吹田さんはこう話す。

「新しい事業を創造しようとしたときに、既存のゲーム事業と親和性が高く、最も近い位置にあるものがコミックだと考えました。マンガは日本が誇るコンテンツですし、生活密着メディアと化したスマートフォンで、今までの電子コミックには無い新しいサービスを作ろうと考えたのです。そこでまずは、スマホでマンガを読む際の利用シーンを考えました。

例えば、寝る前、電車の中、テレビを見ている時などです。どういうシーンでどういう操作方法だと最も読みやすいのか?この点を分析しました。そして、一般的な紙の漫画という発想を頭から外して考えた時に、スマホを操作する際の指の動きはやっぱり縦がよいのではないかという結論に達しました。ピンチアウトして画面を広げる手間や文字の読みにくさなどの課題を解決し、スマホに最適化したモノづくりをしようと思いましたね」

一般的な漫画の読み方は、右から左に読み進めるもの。当然、多くの読者が子供のころから馴染みのある目線の動きであり、この「常識」を否定した発想を持つことは難しい。

しかし、スマホに最適化するという目的を持ったことで、イノベーティブな発想が生まれた。そしてもう一つ、大切にしたことがあるとのことだ。

「どなたでも作品を投稿できるようにすること、そして、作家さんと読者がつながるようなサービスでありたいなと思っていました。こういった考えから、『comico』はデジタルのトキワ荘というコンセプトを掲げてスタートさせることにしました」

1952年から1982年にかけて存在したトキワ荘という木造アパートには、手塚治虫氏、藤子・F・不二雄氏、藤子不二雄Ⓐ氏、石森章太郎氏など、日本漫画の歴史を作っていた才能ある漫画家たちが集まっていた。新人漫画家が切磋琢磨できる環境を、スマホで再現することを意識したという。

「漫画を描きたいと思う人は、日本中さまざまな場所に大勢いらっしゃると思います。そんな方たちにインターネットがつながる環境ならどこからでも作品を投稿でき、チャレンジできる場所を作りたいと思いました。そこから読者に支持される作品であれば『comico』の公式作家として契約し、毎月20万円以上の原稿料をお支払いするシステムを導入しました。そうした環境を整えることで、『comico』で活躍する作家さんたちが互いに刺激を与え合い、成長して欲しいという思いを込めました」

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5作品アニメ化が発表されるなど、現在注目が集まっている『comico』

自分と似た境遇の人たちが集まる場所。そこには作品を発表できる喜びもあるが、さらにもう一つ、作家のモチベーションを刺激する仕組みとして、読者がコメントを残せる機能を用意している。

従来は編集部が預かっていた読者からのメッセージは、『comico』の場合、作家自らダイレクトに目にすることとなる。そこには、作家と読者が近い距離に感じられるようにしたいという狙いがあるそうだ。

「スマホに最適化したサービス、デジタルのトキワ荘、作家と読者の距離を近づけて共感性を作る。この3つをコンセプトに『comico』は生まれました」

地道なスカウト活動で金の卵を探す

コンセプトが決まり、『comico』で作品を発表してもらえる作家を見つけるフェーズへ。現在はIP関連の仕事を主に行っている吹田さんは当時、可能性を秘めた作家探しに奮闘していたという。

「当時は作品投稿機能がなかったので、作家さんたちのスカウトから始まりました。ブログで漫画を公開している方にご連絡を入れたり、イベント、専門学校に足を運んだりしました。『comicoの者です。漫画描きませんか?』と言っても、リリースもしていないサービスではピンときませんよね?そこは少々骨が折れました」

健闘の甲斐あって、サービス開始時には56人の作家が集まった。800万ダウンロードを迎えた現在では、『comico』で連載する作家は100名以上に達している。毎日新しい作品の投稿が相次ぐなど、自然循環のサイクルが生まれているそうだ。

一方で、既存の漫画とは違った表現となる縦読み漫画に作家たちは対応できたのか?という疑問が浮かぶ。当時を振り返り、吹田さんはこう話す。

「今、思い出してみると、よく描いていただけたなぁ、というのが正直な感想になります。既存の漫画とは違った表現に挑戦する上にフルカラー。全てがチャレンジといった状況です。中にはイラストレーター出身で漫画を連載するのが初めてという方もいました。作家さんの中には正直大変、という声も挙がっていましたが、そういった状況をフォローするために、『comico』の編集部が動いてくれましたね。本当に時間を掛けて相談に乗っていました。今振り返ると、『comico』の核となる大切なところが生まれていたのかもしれません。作家と編集部が一緒になり、サービスを作り上げてきたと言えます」

画力は後から追い付いてくる。縦読みの表現はそもそも未知の領域。この考えを持っていたため、作家とともにサービスを成長させていきたいというスタンスで取り組んできたそうだ。

「読んでいただいている方には伝わっていると思うのですが、最初は4コマ漫画のような魅せ方をしていた作品が、今ではダイナミックな表現に挑戦するなど、各作家さんが個性を光らせています。作家の成長を感じることができることも『comico』らしさですね」

異業界に踏み出す際に、習慣の違いを意識することが重要

『comico』は作品の書籍化やアニメ化など他メディアへの展開をスピーディーに行っている。異業種のパートナーと仕事を進めることは簡単ではなかったと吹田さんは振り返る。

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習慣の違いを意識しつつも、『comico』らしさを大切にしてきたと語る

「まず、本を手に取って、レジに持っていく。この動線は、アプリやデバイスの中で完結する私たちの業界とは大きく異なるところです。そして、Webサービスやアプリの場合は作ればすぐにリリースできますが、アニメや書籍の場合はとても時間が掛かります。

例えば誤字があった場合には、ささっと修正すればいいという発想は通用しません。業界の習慣の違いに慣れるということが、第一に感じたことでした」

β版をリリースして、ユーザーの声を聞き、正式リリースを行う。そんなインターネット業界が積み上げてきた常識は、100%の状態で作品を納品する異業種から見ると非常識であると吹田さんは言う。

出版社や印刷会社、映像会社とやり取りを行う中で、一つ一つ覚えていく必要があった。他メディアに展開する際、この点は心にとめる必要があるとのことだ。

一方で業界にアジャストする必要はあるが、ブレてはいけないと吹田さんは強く語った。

「成功する確度を上げるやり方を追求しつつスピードは爆速。この意識は強く持っています。そして、何より面白くないと意味がありません。しかし、異業種の方々は速度やとらえ方が異なりますので、足並みをそろえるために交渉を重ねるなど力を注ぎました。

通常の3倍ほどのスピードで『ナルどマ』のアニメ化が決定した時もそうです。あまりの展開に冷や汗を流すような場面もありましたが、インターネット企業発という新参者が考えているやり方を貫き、新しい発想を発信することが業界を盛り上げ、読者に喜んでもらえるサービスにつながると信じています」

IPを生んで育てる場所。シンデレラストーリーを目指す

『comico』を運営する上で、作品は魂のようなもの。『comico』では作品を読者に届けるだけでなく、作家の生活の支援にまでサポートの幅を広げることは必然だったという。作家との費用対効果を超えた信頼関係を大切にしながら『comico』は運営されている。

サービスとして成熟する中で作品が増え、『comico』は新たな取り組みとして、LINEスタンプやローソンとのコラボを実施。アプリ内ではcomicoキャラクターコンテスト、オリジナルECストア「comico SHOP」などの施策を展開している。

「ユーザーを増やすこと以上に難しいことが、読者に楽しんでもらうことです。読者が作品を読むだけではなく、読者参加型の企画を取り入れることにより、もう一歩読者と深いお付き合いがしたいと考えています。もともとNHNがゲーム会社なので、ユーザーと一緒にイベントやサービスを盛り上げていくノウハウは持っていると自負しています。コミックという領域でゲームに携わっていた人材が知恵や企画力を活かしつつ、『comico』を運営しています。周囲からは斬新なサービスという評価をいただくことがありますが、私たちとしては当たり前のことを積み重ねてきた結果だと思っています」

そして『comico』の今後の展開について吹田さんは次のように語る。

「アニメや映画などの他メディア展開を視野に入れて考えています。これって作家さんたちのシンデレラストーリーになると思いませんか?こういう実績を作ることが目標であり、私の夢でもあります」

取材・文/川野優希(編集部) 撮影/竹井俊晴


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