戦後70年。この歳月の重みを意識せざるを得ない国会の論戦が、本格的に始まった。

 安倍首相は先週の施政方針演説で、経済再生や社会保障改革、教育再生などを挙げ、「戦後以来の大改革に踏み出そう」と打ち上げた。

 「戦後以来」の本質は何だろう。経済再生など喫緊の課題よりも、70年間築き上げてきたこの国のありようを変えることに、最終的な狙いがあるのではないか。首相がかつて繰り返した「戦後レジームからの脱却」や改憲への意欲を聞けば、そう受け止めるのが素直だろう。

 それが妥当なのか。代表質問や今後の予算委員会などを通じ、野党は首相の真意を引き出し、議論を深めるべきだ。

 首相はすでに「積極的平和主義」の名のもと、日本の外交・安全保障政策を根本的に変質させようとしている。集団的自衛権の行使容認、他国軍を支援する開発協力、そして武器輸出原則の緩和が「三本の矢」だ。

 衆院の代表質問で民主党の岡田代表は、いままで以上に自衛隊を海外で活動させることに疑問を示し、「日本の自衛と世界の平和。めざすものが違う二つをひとつにしているところに、積極的平和主義の危うさがある」と指摘した。

 これに対し首相は「能動的な平和外交が積極的平和主義だ。指摘はあたらない」と一蹴。一方、集団的自衛権の行使が想定される例として、公明党との間で意見が割れている中東・ホルムズ海峡での自衛隊による機雷除去を挙げた。

 停戦前の機雷除去は、武力行使にあたる。立法府としてこれを認めるのか。与党協議に参加している公明党も、国会での議論から逃れられまい。

 内政に目を向けると、急速に広がる所得格差もまた日本社会を変えようとしている。共産党の志位委員長は「首相の経済政策がもたらしたのは格差拡大だけだった」と迫ったが、首相は「格差が拡大しているかは一概にいえない」とかわした。しかし、いまの税制や雇用制度のもとで、不平等はないと言い切れるのだろうか。

 議会多数派が内閣をつくる議院内閣制の日本では、政府が出す法案や政策を野党が変えさせるのは難しい。それでも論戦を通じて政府案の問題点をあぶり出し、国民に判断材料を示すことは野党の重要な役割だ。

 これは首相が牽制(けんせい)する「批判の応酬」では決してない。「戦後」が曲がり角にさしかかろうとしているなか、この国会における与野党の責任は重い。