「ご確認いただく」を相手に使っても良い?
明日までにご確認いただけますか。
このように、相手が行う動作である「確認」に対して、「いただく」という謙譲語を付けるのは間違いなのではないのか、と考える人は結構多いようです。結論からいうと、これは正しい用法であるとされています。
「ご確認いただく」から敬語を取り除き、常態に戻すと「確認してもらう」になります。
ここで、「確認する」のは相手ですが、「確認してもらう」のは自分です。
つまり、「ご確認いただく」の主語は自分なのですから、謙譲語で自分をへりくだっていることになり、この敬語は正しいのです。
さて、この敬語が正しくないと思われることが多いのは、なぜなのでしょうか?
以下、その理由を考えてみましょう。
まず、次のような用例の場合、これを正しくないと感じる人は、ほとんどいないでしょう。
先輩からもらった → 先輩から頂いた
おいしく食べた → おいしく頂いた
これらの例の場合、動作がひとつであり、「もらう」とか「食べる」の主語が自分であることが明白なので、誤解の余地がないと思います。おいしく食べた → おいしく頂いた
次の用例はいかがでしょうか。
確認してもらえないか → 確認していただけませんか
冒頭に挙げた例と比べて、こちらは、まだ誤解されることが少ないのではないでしょうか?この例では、「確認する」と「いただく」というふたつの動作があり、それぞれ主語が相手と自分になる、という構図は、冒頭の例と同様です。
でも、この例の場合、「確認する」と「いただく」の間に、助詞の「て」が挟まれているので、その切れ目が分かりやすく、冒頭の例よりも誤解が少ないように思います。
相手に作業を依頼する時の敬語の形式として、「くれる」を尊敬語にした「くださる」もあります。
これを使うと、次のような表現になりますね。
ご確認ください
ご確認くださいますか
これらの場合、「確認する」のも「くれる」のも、主語が相手なので、誤解の生じる可能性はほとんどありませんね。ご確認くださいますか
でも、近年では、「くださる」より「いただく」の方が好まれる傾向にあるように思います。
敬語に対して、より丁寧な印象を加えるために、相手に作業を要求するのではなく、相手に依頼するという自分の動作の可否を尋ねることで、より婉曲な表現にして、敬意の度合いを高める、というのが、この「いただく」という形式が広まっている理由ではないか、と私は考えています。
抽象的で分かりにくいですね。具体的に説明していきましょう。
まず、相手に確認させる、というスタンスで考えれば、次のような命令になります。
確認しろ
これでは喧嘩になりますね。そこで、「くれる」を付けて、相手が確認することで自分が恩恵を受けるのでありがたい、という意味を加えます。確認してくれる
これを命令形にして、確認してくれ
最後に、これを敬語にして、次のような表現になります。確認してください
ご確認ください
ご確認ください
さらに、疑問形にすることで、相手が確認することが絶対ではなく、確認しない可能性もある、という余地が加わり、さらに丁寧になります。
確認してくれるか
敬語にすれば、次の通りです。確認してくださいますか
ご確認くださいますか
ご確認くださいますか
すでに、かなり丁寧になっていますが、ここまでのレベルだと、あくまでも、相手の「確認する」という動作に主眼が置かれています。
相手が確認することによって、自分が恩恵を受けるのだ、という方に主眼を置いて言葉を作ると、次のようになります。
確認してもらう
それを希望している、という言い方だと次のようになります。確認してもらいたい(もらいたく思う)
敬語にすれば、次の通りです。確認していただきたいです(いただきたく存じます)
希望の形にするのではなく、疑問の形にして、確認してもらえない可能性も示唆することで、婉曲にして、丁寧な表現としたのが次の形です。
確認してもらえるか
確認していただけますか
否定疑問にすると、確認してもらえないことを前提として話していることになり、より婉曲になります。確認してもらえないか
確認していただけませんか
これらに対して、さらに丁寧語の助動詞「です」を付けていくことも考えられますが、それについては、次の記事を参照して下さい。
【「ませんでしょうか」「ますでしょうか」「ますですか」】
このように、より婉曲にする方向に進む敬語の流れの中で、「いただく」という表現が好んで使われるようになってきているではないかと、私は感じています。
「確認していただく」という敬語表現は正しいのですが、「相手の動作に謙譲語を使っている」という誤解から、この表現を嫌う人もいるので、注意が必要です。
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