入試改革で早くも予備校に変化
2月17日 16時10分
人気講師が大教室で受験テクニックを講義し、受講生は必死にノートに書き取る…。
予備校といえばそんな光景を思い浮かべる人も少なくないと思いますが、そのイメージががらっと変わるかもしれません。
いま、大学入試を抜本的に改革しようという検討が文部科学省で進められています。
「国語」や「数学」といった単一の教科の試験だけでなく、複数の教科にまたがる問題を出題するなど、知識の活用や思考力をみるものに転換しようというのです。
こうしたなか、大手予備校では複数の教科を組み合わせた講座やテストを導入する動きが相次いでいて、新たな入試への対応が早くも始まっています。
社会部の松井裕子記者が解説します。
“教科横断” “総合力”予備校の講義も変わる?!
「河合塾」はことし高校生を対象に、複数の教科を組み合わせた新たな講座を始めました。
そのひとつ、「世界史」と「現代文」を組み合わせて学ぶ講座では、「現代文」の講師が「世の中の事象は、世界の歴史や科学、それに美術など、さまざまな教科にまたがっている。それを論じるのが現代文だが読み解くには他の教科の知識を活用する必要がある」と教科を横断して学ぶ意味を説明していました。
また、知識や教養を総合的に活用して問題解決につなげる力を身につけようという講座も開いています。
取材に訪れた日は、自分たち若者が“さとり世代”と呼ばれることについて、根拠を示して賛否を明らかにすることがテーマでした。
参加者はグループに分かれて若者の購買意欲の低下を指摘する新聞記事や高校生を対象にした意識調査などさまざまな資料を参考にしながら意見を交わしていました。
高校2年生の女子生徒は「今後、入試でもこういう力が問われると思い参加しました。先生が黒板に書いたものをノートに写す知識だけの授業でなく、頭も使うし考える力がつきそうです」と話していました。
“大学入試改革”で何が変わるのか?
こうした「複数の教科にまたがる知識の活用」や「総合力」は、文部科学省が進める「大学入試改革」で新たに求められている力です。
中教審=中央教育審議会が去年12月、知識の量を問うことに偏りがちな今の試験から知識の活用や思考力をみるものに転換する必要があるとして、抜本的に改革するよう答申しました。
大学入試センター試験を廃止して複数回受験できる新たなテストを実施し、「国語」や「数学」といった単一の教科の試験だけでなく、複数の教科にまたがる「合教科・科目型」、「総合型」と呼ばれる問題を出題することなどを提言しています。
また、各大学の個別入試は小論文や面接、集団討論などを行って生徒の能力を総合的に評価し多様な学生を確保するよう求めています。
改革のねらいは、(1)基礎的な知識や技能の習得、(2)思考力など知識を活用する力、(3)他者と協働して主体的に学ぶ態度、この3つの力を入試で問うことで3つともバランスよく身に付けさせることだとしています。
文部科学省はセンター試験に代わる新しいテストを平成32年度から実施することを目指して検討を進めていて、対象となるのは今の小学6年生からとなる見込みです。
高まる保護者の関心・新たなテスト実施の動きも
保護者の関心も高まっています。
「駿台予備学校」では、新たなテストの対象となる今の小学6年生(この春新中学生となる子ども)の保護者からは入試改革についての問い合わせがすでに相次いでいるということです。
このため、毎週開かれている中学部の説明会では、入試改革の動きや予備校の今後の対応について説明しています。
さらに、入試改革に対応していくため、今月、プロジェクトチームを立ち上げ、高校生向けに、教科横断型のテストをことしから実施することを決めました。
例えば次のような問題です。
「6つの俳句の中から(1)松尾芭蕉の句で、(2)詠まれた場所が最も北の句を選べ」と、国語と地理の理解を合わせて問うものです。
中には、芭蕉の句でないとされているものや、句の意味を理解していないと詠んだ場所が分からないものも含まれています。
正解は、山形県の最上川を詠んだ句です。
「駿台教育研究所」の坊野宏一事務長は、「予備校としては対応力を試されることになると思うので、『新たな入試ではこういう問題が作られるのではないか』と予測しながら早めに動き始めている」と話していました。
この他の予備校でも、「英語」については「聞く・話す・読む・書く」の4技能を計るとする入試改革の方向性に沿って、会話を重視した講座に力を入れているところもあります。
みなが“変革”を求められる?
大学入試に詳しい「リクルート進学総研」の小林浩所長は「暗記した知識を再生するだけの入試を受け大学に入ることがゴールだった時代は終わり、知識を活用する力を身に付けて入学後も能力を高めることが求められ、偏差値だけで学校選びができない時代が来る。少子化で予備校や塾の再編も進んでおり生き残りをかけてカリキュラムを変えていく動きは広がるだろうし、多面的な力をどのように育成していくか、予備校だけでなく学校教育全体が変化を求められることになる」と話しています。
予備校で開かれた保護者向けの説明会では、最後にこんなスライドが表示されました。
「いたずらに心配する必要はありません」。
確かに、大変な力を求められているようで保護者にとっては不安かもしれません。
ただ、取材を通して印象的だったのは、新しい講座に参加していた高校生たちがとても楽しそうで、「これからの時代に必要な力だ」と前向きに捉えていることでした。
教育現場全体に影響を及ぼす抜本的な大学入試改革、文部科学省はことし中に具体的な内容を示すことにしています。