国立大医学部窮状
研究予算が少ない国立大学の医学部が悲鳴を上げている。政府から支給される研究費が東京大や京都大に集中しているうえ、消費税率の引き上げや円安による研究材料の高騰で思い通りの研究が進められないからだ。このままでは将来の地方医療に悪影響を及ぼしかねないと懸念を強めている。 (千葉支局・柚木まり)
千葉大医学部で糖尿病の原因遺伝子を研究する三木隆司(たかし)教授(51)はここ数年、遺伝子を取り出す機械を動かせないでいる。「本当は使いたいけど、試薬が高すぎて」。便利な機械を目の前に手作業を繰り返す。
実験室で補助員を雇う余裕がないため、自ら1000匹の実験用マウスの世話をする。実験器具代を節約しようと、論文の比較項目を五つから一つに減らした。
千葉大だけではない。「研究費節約のため1、2匹のマウスで実験している」「論文掲載に求められる十分なデータをそろえる費用がない」。昨年10月、国立大学医学部長会議で、地方の大学から研究資金不足の窮状を訴える声が相次いだ。
各大学は口をそろえて政府に「科学研究費補助金」(科研費)の増額を求めた。先駆的な研究や実績が少ない若手研究者の育成支援などを目的に、研究資金を助成する科研費は医学部の基礎研究のほぼ全額を賄っているからだ。
国会審議が始まった2015年度予算案の科研費は前年度より13億円多い2318億円。文部科学省の担当者は「科学研究の重要性が評価された結果だ」と強調するが、13年度の額に戻っただけ。首都圏の大学病院長は「文科省の言い分はまやかしだ。基礎的な研究への投資は改善されていない」と批判する。
各大学の実態を調べた名古屋大の高橋雅英医学部長は「文教予算が削減される中、科研費の現状維持は評価できる」としつつも「各大学の申請数や採択率、必要経費に対する充足率などを注視していく必要がある」と注文をつける。
科研費は全体の2割弱が東京大と京都大に配分される。「実績があり、1件当たりの研究規模も大きい」(国立大関係者)ためだ。特に、医学系の科研費は全分野の4分の1を占める。13年度の医学系の科研費は東京大が約16億円、京都大が約18億5千万円。これらは千葉大全体の科研費と同水準で、医学系の科研費は2大学以外で「残りのパイを分け合う」のが実情だ。
三木教授の研究室は糖尿病が専門なのに、理系学部の出身者ばかりで、医学部出身者はいない。「魅力を感じられないのだろう。研究経験がある医師が減ることは医療レベルを確実に下げる」。研究費用の「格差」は医療の質にもつながると主張する。
基礎医学研究と異なり、臨床医学研究の場合は、製薬会社など企業からの寄付金で研究を賄うこともできる。用途を限定しない寄付金は、研究者にとって使いやすく、多くの臨床研究に用いられる。
しかし一昨年、千葉大や名古屋大など5大学が製薬会社ノバルティスファーマと、高血圧の治療薬(ディオバン)の効果を確かめる臨床研究をした際の論文で、ノ社の社員(当時)が臨床研究データの解析に関与していたことが発覚。ノ社は5大学に計11億円余りを寄付し、産学のもたれ合いが問題化した。
全国の国立大医学部は昨年の病院長会議で、寄付の受け入れ基準を厳格化した。今後、民間の寄付を利用する研究者は減るとみられる。千葉大病院の山本修一院長は「民間企業の資金に依存してきた体制を見直す時にきている。研究がやりづらい環境は回り回って人材不足を招く」と嘆く。
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