エジプトのラファール戦闘機購入にまつわる話
13日のこと、フランス2を見ていたら、ダッソーのラファール戦闘機が初めて海外に売れたのでとても嬉しいというニュースがあり、軍事産業の海外展開が嬉しいなんて、なんだかなあという感じがしていた。しかも売り先はエジプトだというので、さらに、なんだかなこりゃという感じがした。
ネットで確認できるかなと調べてみると、フィガロに早々に掲載されていた(参照)。
このニュース、日本国内では報道されているのかなと、そのおりさっと調べてみたが見当たらなかった。が、少し間を置いてみるとAFPで見つかった。「仏ラファール戦闘機、初の輸出へ エジプトに24機」(参照)である。とりあえず全体がわかりやすい事実のみのニュースなので引用する。
【2月13日 AFP】フランス政府は12日、ラファール(Rafale)戦闘機24機とフリゲート艦1隻を、52億ユーロ(約7050億円)でエジプトに売却する予定だと発表した。
フランソワ・オランド(Francois Hollande)仏大統領は、「ラファール戦闘機が初の輸出契約を獲得した」と声明で発表した。国防省筋がAFPに語ったところによると、ジャンイブ・ルドリアン(Jean-Yves Le Drian)国防相が16日、エジプト・カイロ(Cairo)を訪問し、アブデルファタフ・サイード・シシ(Abdel Fattah al-Sisi)大統領と契約書に署名する予定。
仏航空機メーカー、ダッソー・アビアシオン(Dassault Aviation)が製造したラファールは仏空軍がリビアとマリで使用してきたほか、イスラム過激派組織「イスラム国(Islamic State、IS)」に対するイラクでの空爆にも参加している。
ダッソー・アビアシオンは2012年からインド政府とラファール戦闘機126機の販売をめぐり交渉しているがこれまでのところ大きな進展はない。ラファールは2013年、ブラジルの次期戦闘機選定で、スウェーデン・サーブ(Saab)の戦闘機「グリペン(Gripen)NG」に敗れていた。(c)AFP
話題のポイントの一つは、フランスとしてはなんとかラファール戦闘機を売りたくて、インドやブラジルにアプローチしていたがかなわず、エジプトでようやくかなったということである。
ただこのニュースだと、いつ頃、フランスとエジプトとこの商談が持ち上がったのか、また、外貨のないエジプトがどうやって購入するのかということがわからず、気になる。
フランスの報道をざっと見るとだいたいはつかめるが、調べたら在仏日本商工会に記事があった。「ダッソーのラファール戦闘機、初の輸出契約を獲得」(参照)である。先の関心の一部に以下のように触れている。
この契約の実現に向けた交渉ではファイナンスの確保が焦点になった。エジプトの財政状況が厳しいことから、当初計画の契約規模を縮小した上で、フランス側がファイナンスへの協力を約束した。具体的には、コファスが取り扱う公的輸出信用の枠で契約額の半額(前渡金除く)をカバーすることに同意。融資契約は、おそらく仏銀行(クレディアグリコルが幹事行となり、ソシエテジェネラルとBNPパリバが協力する見通し)が率いる銀行団(12機関以上が参加か)との間で結ばれるという。引渡し日程では、8月に予定されるスエズ運河拡張式典に間に合うように、ラファール2機をまず引渡し、次いで2018年から本格的な引渡しを開始する計画。
「契約規模を縮小」というのは購入できる額を考えてのことだろう。詳細の意味は私には読み取れないが、印象では、フランスがとにかくラファール戦闘機売却の実績を作るように配慮したということだろう。
その後、日経に記事があった。「エジプト、仏戦闘機24機購入 イスラム過激派に備え」(参照)である。これを見て私はちょっと驚いた。
表題からもわかるように、この日経のニュースでは「イスラム過激派に備え」というふうに話題が彩られている。
その前に当初の契機についてはこう報道している。
仏メディアによると、2014年秋にパリを訪れたエジプトのシシ大統領がオランド大統領にラファールをはじめとする最新鋭兵器の購入を持ちかけたという。
ということで、動きがあったのは、昨年の秋のことだった。
以上の経緯を踏まえて、「イスラム過激派に備え」というのはどうだろうか。
エジプト側の思惑としてどれだけの意味を持つのかは、報道を見回してみた印象ではよくわからない。エジプトとしては、これまで米国に偏っていたエジプトの兵器を多元化する意味合いのほうが強いようにも思える。当然ながら、これを入手したエジプトでは対イスラエルの文脈でどのような意味を持つのかも気になる。
この「昨年の秋」の意味合いだが、報道で関連付けられたリビアを考える上で、リビアの情勢変化が気になる。
リビアでは昨夏以降、政府を主張する二勢力、旧制憲議会(トリポリ)と暫定議会(トブルク)との対立が激化し、石油の争奪戦を展開している(参照)。
このころリビア内で「イスラム国」シンパは増えてはいる(参照)が、この時点ではまだは、今回コプト教徒を惨殺した、「イスラム国」に忠誠を誓うリビアの武装組織は大きく台頭しているわけではない。
今回のラファール戦闘機をリビアの「イスラム国」対応と見るのは時期的に文脈が違うだろう。
また、リビアの該当勢力と「イスラム国」との関連は、殺害映像の受け渡しからも濃いと見られるが、同一視してよいかもよくわからない。だが、すでに報道の多くは、リビアの「イスラム国」、あるいは、「イスラム国」名称の言い換えで、その文脈で報道している。
こうしたなか、NHKも今日、「IS拠点空爆のエジプト 有志連合に支援を要請」(参照)この文脈で報道をしていた。
フランスから戦闘機購入も
エジプトは、過激派組織ISなどのテロ組織との戦いを推し進めるために、フランスからラファール戦闘機24機や艦船などの購入契約を結び、購入額は50億ユーロ以上に上ると伝えられています。
エジプト軍は、リビアでは16日からISの拠点に対する空爆に乗り出したほか、東部のシナイ半島ではISの支部を名乗る武装組織との掃討作戦を続けており、兵器の近代化が喫緊の課題になっていました。
フランスがラファール戦闘機を輸出するのは初めてだということです。
16日の時点で「フランスがラファール戦闘機を輸出するのは初めてだということです」というNHK報道には苦笑が伴うが、それはさておき、ニュースの文脈は「IS拠点空爆のエジプト」ではあるものの、要点は、「東部のシナイ半島ではISの支部を名乗る武装組織との掃討作戦を続けており、兵器の近代化が喫緊の課題になっていました」にある。ここでも「ISの支部を名乗る武装組織」とされているが、過去の経緯からすれば「ISの支部」の意味合いは低い。
話が複雑になってきたが、現エジプトはかつてのムバラク政権と同様、イスラエルと協調路線を取るために軍事化を推進し、外貨の減りに乗じてフランスがつけ込んだという構図だろう。もっとも、エジプトとしてのフランスからの戦闘機購入がこれがまったく初めてということではないし。
別の言い方をすれば、今回のエジプト軍のラファール戦闘機購入に、どの程度対「イスラム国」問題があったかはよくわからないが、すでに報道はその文脈が突出してきている、ということは注目してよいだろう。
ここで一見、補足的に見える話題だが、そもそもエジプトが、リビアを空爆していいのかということに関連して見ると、リビアのトリポリ側からは主権侵害の非難が出ているのが興味深い。「「主権侵害」とエジプト非難=リビアのイスラム系勢力」(参照)より。
【カイロ時事】リビアの首都トリポリでイスラム系勢力が独自に設置した「議会」のスポークスマンは16日、声明を出し、エジプト軍のリビア領内空爆について「主権に対する攻撃だ」と強く非難した。
ただ、空爆にはリビアでイスラム系勢力と対立する民族派が掌握する空軍部隊も参加。エジプトは、この民族派が東部トブルクで開設した議会をリビアの正統な立法府とみなしており、主権侵害には当たらないとの認識だ。(2015/02/16-20:56)
簡素に書かれているが、この民族派は暫定議会である。
この記事では触れていないが、トリポリ側はムスリム同胞団との関連があり、暫定議会は以前からエジプトの軍事介入を望んでいた(参照)。
つまり、今回の空爆は対「イスラム国」というより、リビア内に隠れたエジプトのムスリム同胞団への弾圧の一貫であり、実質、リビアにおけるエジプトの利権確保でもあるだろう。
各種の錯綜した問題を「イスラム国」の文脈で簡単に覆ってしまうという風潮も、なんだかなあという感じがする。
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