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ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

1章 出会い(ダイジェスト版)

始まりの日(対面~月下騎士会~吸血鬼ハンター)

 この小説の主人公は多岐(たき) (たまき)
 ゲームの主人公のルームメイトさ。
 え?そんなキャラクターいたか、だって?
 いたよ?しかも名前もちゃんと表示されるキャラクターだし。

 ……あ~、でも結構、モブみたいな扱いで影が薄い地味な存在として書かれてたから覚えていないのかもね。
 絡んでいるイベントも少ないし、結構死亡フラグが立ちやすいキャラクターだしな。
 序盤にご退場する系のモブ。そう思っててもらっても構わないかな。

 兎に角、多岐環は聖利音のルームメイトさ。
 金持ちが通う学校として有名な裏戸学園で珍しく家が貧乏な奨学生。

 でも普通、奨学金って普通家庭の経済事情で進学が困難であって、優秀な学生を援助するものじゃない?
 でも環は進学校としても有名な学園内でさほど成績が振るわない学生。
 でも、その代わり生活態度だけは真面目に過ごそうとしている、身長が少し高いだけで、特別特徴のない少女。
 そんな彼女が小説の主人公さ。

 環はゲーム主人公である聖利音と出会った瞬間、思い出すんだ。
 それは自分のいる世界が、乙女ゲームの世界だってこと。
 彼女はその記憶が小説なんかでよくある、前世でやったゲームの知識と思った。
 そして自分の立ち位置の悪さにも気づいたんだ。

 君もやったことがあるなら知ってると思うけど『吸血鬼✝ホリック』って、進め方によっては主人公や攻略対象も死ぬ。
 場合によっちゃ学園崩壊エンドなんて言う、全滅エンドもあるよね?
 多岐環はそんな世界のモブキャラみたいな容姿と背景持ち主。それなのに名前がついていて主人公のルームメイト。
 どう考えても最後まで無事でいる可能性が低い。
 思い出したゲームの記憶に、環は自分が思いっきり死亡キャラだと思ったわけだ。
 そこで彼女は考えた、蘇った記憶で自分の生き残る道を模索しよう、と。

 とはいえ、彼女にも普段の生活というものがある。
 それを崩すわけにはいかないし、なにより彼女には大きな縛りがあった。
 それは自分から学校をやめられないこと。
 彼女はシングルマザーの貧乏な家庭に育った。語るも涙な話だね。

 母親思いの彼女は本来進学する気はなかった。
 でも、奨学金の話が中学の恩師から告げられ、環は裏戸学園に進学することを決めたんだ。
 奨学金だけでなく全寮制で生活の面倒も見てくれる裏戸学園の待遇は何より魅力的だったからね。

 そんな事情から、環は自ら簡単に学園をやめるという手は使えなかったんだ。
 だから、まず彼女はこの学校から逃げて死亡フラグを避けるという方法を早々に捨てた。
 まあ、これで逃げられたら、話がここで終わるから話の流れてとしてはいいよね。

 逃げられない彼女は寮で聖利音と初めての対面を果たす。
 記憶を取り戻した際、環はすぐに失神してしまったから、実質この時が本当の対面なわけだ。
 か弱そうに見えてしっかりした意思を瞳に宿す利音を見て、環は思うわけだ。
 環は学園から逃げられない代わりに、できるだけ聖利音を避けようと。
 実際彼女の周りは死亡フラグだらけだからね。
 イベントも危険なモノが多いし、主人公補正とかないモブなんかひとたまりもない危険なモノが目白押しだ。

 だけどゲーム主人公と出会ってすぐに環は知るんだ。
 聖利音がとんでもないトラブルメーカーだってこと!

 乙女ゲームの主人公って得てして、どこか空気読めない子が多いよね。
 全部がそうじゃないとは思うけど、基本学園のアイドルとかを攻略対象にしているから、空気読んでちゃ恋できないってことなのかもしれない。
 基本主人公=プレイヤーだから主人公の性格付けって曖昧なことが多いから、ゲームしていると気づきにくいのかもしれないね。

 そんなわけで、聖利音はまさに環にとって死神みたいな存在だった。
 行く先々で、環が望まないイベントを引き起こし、隙あらば死亡フラグにしか見えない行動を繰り返す。

 例えば、出会って早々のイベントだ。
 寮の玄関で学園に住み込みで働く寮母に利音を紹介された環は、彼女に頼まれ、利音に寮を案内する。
 案内に疲れて寮の食堂に行けば、少し目を離した隙に利音は複数の女子生徒に囲まれていた。
 状況を把握するべく離れた場所から、様子をうかがうと、利音を囲むのは暮先(くれさき)愛理香(えりか)とその取り巻き。

 暮先愛理香は覚えてる?
 攻略対象である蒼矢透会長の許嫁にして、利音のライバルキャラクターだよ。
 世にも珍しい女吸血鬼でもある彼女が指摘するには、どうやら利音は蒼矢にファンクラブでもないのに声をかけたらしい。
 それを誰かに見られたらしく、忠告に来たというのが彼女たちの言い分だった。
 不安そうにしながらも、利音の瞳はただ怯えるだけではない。

 その様子をハラハラしながら見守る環は、彼女たちの会話にゲームのことを思い出す。
 恋愛に関しての記憶も多く蘇り、攻略対象たちの気障な言い回しにげんなりする環。
 その際、思わず漏れてしまったある言葉。<古き日の花嫁>。
 その言葉をたまたま通りかかったとある攻略対象に聞きとがめ、声をかけられてしまう。

 これは自業自得と言わざるを得ないけれど、声をかけられたことによって驚いた彼女は思わず大きな音を立ててしまう。
 それによって隠れていた事がその場の全員に知られて青ざめる環。
 そんな彼女にさらに利音が追い討ちをかける。

 あたしを助けるために、わざと音を立ててくれたんだねー、って。

 考えても見てよ。
 そんなことを言われたら環の行動は利音を助けるためで、愛理香に反抗しての行為だと取られてもおかしくないよね?
 そんなわけで環はめでたく愛理香に敵認識されてしまうわけだ。

 けれど、そこで話はまだ終わらない。
 環に声をかけたのはたまたまそこを通りかかった紅原(くれはら)(まどか)だった。

 紅原はわかるよね。
 うん、そう。
 攻略対象の赤毛に眼鏡のちゃらいの、であってる。
 さらにいえば関西弁でいかにも軽そうなイメージと言えばいいのかな。

 でもいかに軽そうに見えても学園の生徒会に相当する組織のメンバーだ。
 彼の前で、一人を複数で囲んで脅していた暮先と取り巻きは、気まずそうに顔を見合わせる。
 紅原の執り成しもあって、その場の暮先たちとの対立は一旦収まる。

 捨て台詞を残して去る、暮先たちだったけど、彼女たちがさった後、紅原は残ったままだった。
 妙に絡んでくる紅原に、できるだけゲーム関係者に関わりたくない、逃げたい環。
 しかし、そんな環を知ってか知らずか、利音は紅原に勝手に自分と環の名前を告げる。
 それに青ざめる怒る環だが、次の利音の言葉に怒りも吹っ飛ぶわけだ。

 なんて言ったと思う?
 え?もったいぶるなって?……はいはい。

 ―――なんと、利音は紅原を初対面でいきなり「円君」と呼んだんだよ。

 舞台となる裏戸学園には普通の学園にないものがある。
 校訓に学生生活を通して実社会の社会性を身につけるとされている学園では、本人の才覚や家柄によって分けられる身分制度がある。
 月下騎士会を頂点としてするその階級は大まかに言えば四つ。

 えらい順に言えば、月下騎士、近衛、貴族、市民。

 月下騎士は説明はいらないよね。月下騎士会に所属する生徒の属する階級だ。
 現在この階級に属するのは会長の蒼矢透あおやとおる
 副会長の緑水絆(りょくすいきずな)
 会計の紅原円。
 書記庶務の黄土(おうど)統瑠(みつる)翔瑠(かける)の双子だね。

 ゲームをやってるなら知ってると思うけど、全員言わずもがな攻略対象だ。
 吸血鬼の家系で大きな病院や企業を運営する六色家、『黒部』『蒼矢』『緑水』『黄土』『桃李』『紅原』の家の出身者のみがなれる役職で、彼らは選挙でなく指名制で選ばれる。

 さらに近衛はそんな月下騎士を支える彼らの親衛隊の身分だ。
 月下騎士と呼ばれる存在にはファンクラブが存在している。
 彼らはもれなく大企業の御曹司だったりするし、吸血鬼という存在は美形が多い。
 さらには人でないために、記憶力もよく運動もできる。
 こんな存在がモテないわけがない。

 んで、よくあるファンクラブだ。
 ファンクラブにはそれを統括する親衛隊というモノが上位組織としてある。
 親衛隊は月下騎士によって選ばれた彼らを補佐し、それゆえに特権を与えられた。
 さらにここに彼女たちはもれなく吸血鬼の花嫁か女吸血鬼であるという但し書きが入る。
 彼女たちは希少な存在なので、特権で守っているというのが実は近衛の裏の存在理由だったりするわけだ。

 で次に貴族階級は、主人公たちが通う本科に対し特別科と呼ばれる別科に所属する生徒の階級だった。
 ほとんど関わることないし説明は割愛するよ。

 そして最底辺が、市民。
 これは利音や環が属する階級で、ここの階級が一番人数が多い。
 さらに環はその中でも底辺に位置している。
 階級の差は親の財力と本人の才覚で決まる。
 正直学園で一番の貧乏は誰かと言われれば間違いなく環と誰もがいう奨学生であり、本人も頑張っているけれど、上位ではない学力で彼女は最下層から抜け出すことはできないんだね。
 それはともかくそんな身分制度があるところで最下層の市民である利音が最高位である紅原に対し、みんなが呼んでいる「紅原様」でなく「円君」と呼べば制裁が待っている。
 そもそも、月下騎士会のメンバーにはファンクラブ以外は近づいてはいけないという暗黙の了解というものが裏戸学園にはある。
 その点においても利音はしてはいけないことばかりをやっているんだ。
 その上、名前で馴れ馴れしく呼べば、良くて、警告、悪くて退学か。
 それがわかっている環は慌てて、紅原から利音を引き剥がし、学園の説明をするも利音は納得しない。

 流石は空気読まない娘だね。
 寧ろ、様付けで呼ぶべきと忠告する環に「最低」と言い捨てる。
 紅原には「人間関係を身分で梱固められてかわいそう!」と自分が友達になると言い放ち、環を青く、紅原を驚きの表情に変える。

 だが、そんなの誰かに聞かれたらすぐに呼び出しと退学通告だ。
 身分制度は閉鎖的な学園内では絶対だ。
 慌てて、利音を連れて逃げたけど、一連の出来事で利音ともども環は紅原に目をつけられてしまったというわけ。

 さてさて、ゲームをやったことのある君なら知っていると思うけど、ゲーム中で利音が<古き日の花嫁>と知られるのは割と後半の出来事で、ルートによってはそもそも明かされないことすらあるよね。
 それほどなじみの薄い存在。
 そりゃそうだよね。
 <古き日の花嫁>は若い吸血鬼の間ではもうほとんどおとぎ話の中の存在だって認識で、そもそも知らない者もいるほど珍しい名称だ。
 本来ただの人間でしかない環が知るはずもない。
 それなのに何故かその言葉を口にした環に紅原は興味を持ってしまうのは当然。
 いやはや、環ってばうっかつー。

 紅原はその日の夜にそこで見聞きしたことを、月下騎士会の面々に話すんだ。
 環が口にした<古き日の花嫁>という単語から、まとう気配に気づき、利音がその存在だと紅原は悟っていた。

 吸血鬼の花嫁ってのは、なった瞬間から、異性を引き付けるフェロモンみたいな香りをまとう性質がある。
 下手するとそれの強化版である<古き日の花嫁>である利音が学園内での騒ぎの原因になりえる可能性があり、事前に月下騎士会に羞恥を測り、対策をねろうと思ったわけだね。

 紅原の説明に事態を重く見た蒼矢会長は、保護した方がいいかと考える。
 けれど、事実関係を正確に把握してから行動すべきと言う緑水副会長の言葉を受けて、注意して見守るってことで落ち着くの。
 <古き日の花嫁>であるという利音に興味津々な双子には念入り忠告する蒼矢に、双子は不満の声を上げるけど、取り合わない。


 その日はそのまま解散したけど、紅原はそこで蒼矢会長に呼び止められてしまう。

 会長に紅原はなぜ聖利音=<古き日の花嫁>ってわかったのかと聞かれた。
 冒頭の愛理香登場で分かっていると思うけど、利音はすでに会長とは接触済み。
 彼女を覚えていた会長が利音は普通の人間だと思ったのにどうして紅原がわかるのか、と指摘してくる。
 蒼矢は両親とも吸血鬼の純血であり、対して、紅原はほとんど人間と揶揄されるほど弱い吸血鬼だった。
 力の差は歴然としていて、吸血鬼関連で紅原にわかって蒼矢にわからないことなどあるはずはなかったからなんだ。

 でも紅原は口を割らなかった。理由は環の存在を隠したかったから。
 紅原は食堂での一連の騒動を語るも、最後まで環については語らなかった。
 利音に関しては危険から告げた方がよいと判断したものの、環の存在は一体何を意味するのか分からなかった紅原は意図的に存在を伏せたのだ。
 その守り方は会長の弱点にして大好物である「ぷっちりプリン」を引き合いに出してもも守ろうとした程だって言ったらどん程度かわかってくれるかな?

 え?どうしてそこでプリンが出てくるのかって?
 やだな、覚えてないの?蒼矢会長様は大の甘党。しかも子供舌で大好物は「ぷっちりプリン」だって。
 え?カッコつけのくせに、ギャップが激しい?そんなこと僕に言われてもね。
 これ考えたの僕じゃないし。
 とにかく、プリンを引き合いに出したおかげで会長様の尋問をかわせた紅原会計なのでした。

 え?なんで、そこまでして環の存在を秘密にしたかって?
 紅原は環の存在を面白いと感じて、その動向を密かに自分だけで追って楽しみたかったの。
 久々に出会った興味の惹かれる面白い存在を独り占めにしたい。そんな子供みたいな感情からだよ。

 あれ?なに、不服そう?
 一目惚れみたいな展開をもしかして望んでた?
 まさか。そんな都合良い話はないでしょ?
 いくらゲームの世界でもまさかモブ相手に一目惚れなんかしないよ。……この時はね。

 で、一方環はその時通信室にいて、吸血鬼に対抗するための武器を通販で買おうとする。
 まさか初日早々自分の死亡フラグを運んできそうな吸血鬼に目をつけられているなんて考えていないからね。
 通信室にはパソコンと公衆電話が置かれているけど、昨今携帯電話とか無線LANが飛んでる寮内で環以外には使う人があまりいない。

 通信室は、攻略対象の吸血鬼ハンターとのイベントがあって、ゲームにも登場してたけど覚えてない?
 覚えてない。あっそう。まあ、いいけど。

 でも人の出入りの滅多にない通信室だったから、環は結構油断してた。
 パソコンの通信販売で武器になりそうなものを買っていたら、普段使う者のほとんどない部屋に男子生徒が入ってくるのに環は気付かない。
 そして、わずかな物音をその男子生徒が立てたのでようやくその存在に環は気づいて、声を上げる。
 それは、なんとーーー。

 ……え?ハンターじゃないかって?
 ぶっぶー、違うよ。
 そんなわかりやすい前ふりしないって。

 入ってきたのは環のクラスメイトで霧島(きりしま)大翔(ひろと)って小さくってかわいい男の子。
 え?聞いたことないって?そりゃそうでしょ。大翔はこの作品のオリジナルキャラクターだからね。
 ゲームでは名前も絵もない完全なモブだよ。

 ゲーム関係者じゃないから環は彼と普通に会話して別れるんだけど、実は彼って攻略対象で唯一の人間、吸血鬼ハンターである平戸琢磨の従兄弟にしてルームメイトだったの。

 実は実は。
 環は対吸血鬼用の武器を買おうとしていたサイトって、吸血鬼ハンター協会のサイトでハンターのIDとパスワード使ったために、存在を知られてしまったのでしたー!
 結局初日に起こした行動がもとで、方々に目をつけられまくっている環は……。

 って、あれ?なんで席たっちゃうの?
 え?用事があるからこれ以上は話を聞けない?
 え~、じゃあ、また今度聞いてよ。約束だよ?
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[拍手してやる]

10/19 新しいSS拍手公開。合わせて二編倉庫に格納しました



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