【スピーカー】
株式会社デジタルブックプリント 経営者 福田久美子 氏
【動画もぜひご覧ください!】
The Fish on Your Plate: Is it Really Fresh? | Kumiko Fukuda | TEDxTohoku
大学受験の費用を出してもらえなかった
福田久美子氏(以下、福田):皆さんは本当においしい魚を食べたことがありますか? 「昨日の夕ご飯が魚だったよ」っていう方はたくさんいるかもしれませんが、でも実は皆さんが食べている魚、本当の味を知らないかもしれませんよ。
父親の実家は屋号を「伝左衛門屋」といいます。伝左衛門屋はイカ釣り漁船を持ついわゆる網元でした。
私が子どもの頃には朝になると大漁旗をいっぱい立てたイカ釣り漁船がたくさん入ってきて、大人には一升瓶の酒を、子どもや家族にはお菓子を振舞われ、とても楽しくて賑やかでまるでお祭りのようでした。
また、おばあさんと明け方5時くらいに籠いっぱいのシラスをリヤカーに載せて「シラスはよござんすかー」「シラスはよござんすかー」と売り歩いたこともありました。
その後イカもあまり獲れなくなりましたので、私が就職で東京に来る頃には父親は3人の子どもたちを育てるために、石積みの船に乗り兼業のかたちで漁師は続けておりました。
漁師で生計を立てていた頃は必要な生活費には程遠く、下手すると、ひと月収入がゼロということもありました。
まったく収入のない月があったりするものですから、両親はしょっちゅうケンカをしていました。「親のようにはなるまい」そう思って一生懸命勉強して進学校に入ったんですけれども、進学するための受験代も出してもらえることができず泣く泣く就職することになりました。
受験の費用も出してもらえない? そんなこと信じられない。と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、漁師って本っ当に稼ぐのが難しいんです。籠いっぱいの魚を市場に出しても1000円、2000円は当たり前。ときには100円、200円。そういうこともザラなんです。
さて、18歳のとき私は進学を諦めて就職のために上京しました。都会には田舎になかったファストフードや憧れのビフテキなど魅力的なメニューがたくさんありましたので、しばらくそんな食生活が楽しくて田舎の魚のことはすっかり忘れていました。
東京においしい魚はなかった
1年後、母方の伯父に入学金を貸してもらって夜学のコンピューターの専門学校に入り、そこで知り合った主人がソフトハウスを経営することになりましたのと、私の妊娠をきっかけに、私も会社の経営に携わるようになりました。
その後、自分でも会社を立ち上げました。必死で働いたおかげで生活にゆとりもできて、少しは贅沢な食事ができるようになりました。でも魚は全然ダメです。スーパーで買う魚はもちろんのこと、居酒屋の刺身もちょっとお洒落な割烹なんかでも、魚は全然おいしくないんです。
田舎に住んでいた頃は3食刺身みたいな生活だったんで「もう魚はいいや」なんて思っていたんですけれども、またおいしい魚を東京でも食べたいと思うようになりました。父が獲ってきた魚を食べて当たり前に感じていたその味は、実は何でもありそうだったけど都会にはなかったんです。
イカの刺身が白かったときの衝撃。イカの刺身は透明だと思って育ちましたから、またあのイカを食べたいと思うと何千円もするような生きたイカを買うしかないんです。
それから父が獲ってきてタダで散々食いしていたウニやアワビ、イクラやカニ。そんなものが手に入るような値段ではありません。そのときやっと自分が特別な環境にいたんだなということに気付かされました。
でもおかしいですよね? そんな贅沢なものを獲ってた父がなんで貧乏だったんでしょうか。そんでもって、なんで田舎で食べてた魚はおいしいのに東京ではおいしくないのか。
私はどうしても大槌のおいしい魚を食べさせたいと思ったので、「三陸磯の味伝左衛門」をオープンすることにしました。
しかし、お店はオープンしたものの、大槌の魚を東京で提供するのは難しかったんです。産直の魚などあまり扱ったことのない都会の料理人にしたら地元の魚なんて見たことのない、知らないような魚だったりするわけで、扱い方も料理の仕方もわからないのだと思います。
原価やメニューを任せられている料理長にしたら、そんなのもっての外ですよね。「サイズがバラバラだったんだよ」「たくさん来過ぎて原価圧迫してる」「昨日頼んだけど時化で魚届かないじゃないか」。そんな言い訳をされて気付くといつも大槌からの魚は仕入れられなくなっていました。
それに「今日届いた魚そんなに新鮮じゃないよ」と言われると何も言えません。魚を地元と同じ鮮度で取り寄せないと、私の知っている本当のおいしい魚料理は地元以外では提供できないんです。
魚の値段が高く、鮮度が低い理由は流通にあった
さて、漁師が魚を売るときは安い、買うときには高い。地元じゃおいしいのに都会ではあまりおいしくない。その理由は流通にあります。
漁場で獲れた魚は食卓に上がるまでにたくさんの人が関わっています。その人たちがそれぞれ商売をするので、値段も上がりますし時間も経ってしまうので鮮度も落ちるわけです。
では産直ならどうでしょう? そんな問題は一気に解決しますか? しかし最近こんな事件がありました。
魚はいつ何が獲れるのかわからないので、送った魚の伝票をFAXしてもらうようになってるんですけど、17.5kg・約3万円のマグロが届くというんです。大変な仕入れです。
でも明日はマグロづくし、マグロ祭りだ。そう思って待ってましたら、届いてびっくりです。まず頭も尻尾もない。大きなサクになってます。しかも発泡スチロールの氷が溶けて鳥肉のように真っ白になってるじゃないですか。これこそまさにシーチキンですよね(笑)。
そもそもマグロは捨てるところがないので、身だけになってたら17.5kgの価値は全然ないですし、白くなってたら刺身にもなりません。
さすがに困って事情を説明したら「そんなことがあるはずがない、言いがかりだ!」って怒ってしまって、もう2度と魚は送らないって言うんです。なぜこんなことになってしまったのか。
皆さん宅配便の温度問題をご存知ですよね? 実はあれ以来、特にクール便での宅配はサイズと重さが非常に厳しくなり、規格外は一切受付けなくなっています。
そのため大きなマグロをそのまま送ることができず、しかもクール便で送れなかったので氷が溶けてしまった。そういうことになってしまった悲劇でした。
高機能保冷剤を搭載した「大槌復興絆便」が救世主に
お店を始めて10数年、そんな問題はちっとも解決しませんでした。そんなあるとき、取引先から「アイスクリームを70時間、一定の温度で流通させることができる高機能保冷剤を開発したよ」というお話がありました。
保冷箱は再利用をするのでとてもエコだと。しかもそれはクール便でなくて普通便で問題なく送れるというのです。
一般的な氷を入れた発泡(スチロール)での流通ですと氷代・発泡スチロール代がかかりますし、クールで送るので輸送代も高いです。サイズの問題もありますし全然融通がききません。
また魚は氷の温度、0度になってしまうと一気に鮮度が落ちてしまいます。また氷が溶けて水になって魚が浸ってしまったら……。そういうことがたびたびあるということもあります。海の魚が真水にあたるんですから、おいしくなくなるのは当たり前なんです。
私たちは「その技術を使えば魚を死後硬直させない温度で新鮮なまま流通させることができる。今までの問題を解決するのではないか」と考えて地元の大槌で実証実験をすることになりました。
私は「これはまさしく水産業の救世主だ」と思い、大手企業の力を借りながら大槌町の町長をはじめ、役場の方や水産加工場の皆様と町おこしの企画を練り始めました。大槌の魚をブランド化したい・もっと広く知って食べてもらいたい。そんな打ち合わせをしているときに、あの東日本大震災が起きました。
震災の状況については皆さんご存知だと思うので敢えては語りませんが、自分が漁師の娘だったこと、上京してIT企業を経営することになって、その関係で取引先の技術で震災前の町の復興に関わることができていたという偶然。それは自分にとって運命だと思いました。
そうして完成した箱に復興の思いを込めて「大槌復興絆便」と名付けました。この箱が大槌復興絆便です。
そしてこれが大槌から届いた新鮮な魚です。
新鮮でしょう? なんて、写真を見てもわからないと思うので昨日送った魚をお見せしたいと思います。
これです。どうでしょう?
(会場拍手)
遠方や海外にも送れる「動く冷蔵庫」
本当はもっと近くで見ていただけるといいんですけど。この箱はまさに「動く冷蔵庫」なんですね。新鮮な魚を送るだけじゃなくて、仕切ると大槌町の松茸。大槌は松茸も採れるんですけど、山菜だったりとか、岩手のブランド牛・ブランド肉。そんなものも一緒に送ることができます。
魚のサイズに合わせれば先ほど紹介したようなエピソード、サイズ問題とか温度問題も解決できるんです。しかも保冷剤は氷と違って70時間もありますから、今まで翌日に届けることしかできなかったエリア以外の、2日かかる遠方とかクールがない海外などにも使うことができます。
皆さん新巻鮭をご存知ですか? 知ってる方?
大槌は古くから南部鼻曲がり鮭の産地で、今から400年前に江戸、今の東京にこのおいしい鮭をどうやって届けるのかと考えて、塩干しする加工方法を思いついたんです。
実は大槌は新巻鮭発祥の地なんです。こうやって大槌は栄えたということです。江戸時代には塩干しする加工方法で、20世紀には氷で、そしてこれからは保冷剤で。このアイディアが大槌だけでなく日本全国、いえ世界においても漁業にイノベーションを生み出すかもしれません。
私はこれからも少しでも多くの方に、新鮮なおいしい魚を知ってもらい食べてもらえるように、流通のビジネスモデルを作り続けたいと思います。皆さんがますます魚が好きになって、たくさん魚を買ってくれて早くまた活気ある大槌漁港に戻りますように。
皆さんにもう一度心から言いたいと思います。(会場に向かって)「大槌の魚はほんとにうめえぞー!」。
ありがとうございました。
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