何があっても仕事とアイドルは捨てられなかった――好きなこと、仕事のために諦めなきゃダメ?【前編】


 自分の好きなことができるのは、学生の頃まで。大抵の人は、社会人になると他のことには目もくれず、その仕事をとことん究めようとするはず。だが、中には「仕事は大切。でも、自分の好きなことにも全力で取り組みたい!」と思っている人もいる。

 今回のインタビュー相手は、都内のweb系企業でエンジニアとして働く傍ら、2014年12月まで「謎解きアイドル『パズルガールズ』」(以下、パズルガールズ)というアイドルグループで活動していた堤沙也さん。「二つを両立することで、得るものも、失うものも多かった」と語る彼女は、「仕事とアイドルの両立」という働き方を実践する中で何を感じたのだろうか。


――現在のお仕事の内容、そしてアイドル時代の活動内容について教えてください。

 web系企業にて、webエンジニアをしています。入社して2年間はスマホアプリを担当する部署にいましたが、3年目の春から、また別のメディア事業をやっている部署に移りました。アイドル活動にかかわらず、ずっとエンジニア職で仕事しています。

 アイドルの活動としては、パズルガールズというアイドルグループに、2期生として所属していました。観客参加型の「リアル脱出ゲーム」を企画・運営する会社がプロデュースするグループという位置づけで、発足当初はリアル脱出ゲームでの演者などが主な活動でしたね。本格的なライブ活動が始まったのは、私が加入して1年後ぐらいでした。


――仕事をしながらアイドル活動……。聞くからにハードスケジュールなイメージですが、両立していた時期の一日のスケジュールについて教えてもらえますか?

 一番過酷な時期だと、起きるのは朝5時過ぎ。6時ぐらいに家を出発して、まずは7時から9時ぐらいまで、アイドルのライブの朝練に参加します。それが終わると、9時半から19時半ぐらいまで仕事。仕事が終わればすぐにイベント会場に移動して、23時半ぐらいまでイベントに出演したり、会議に参加したり、撤収作業をしたり……。全て終わって終電で帰るのが0時45分ぐらいでしたね。それに加えて、土日もリアル脱出ゲームのスタッフをしたり、ライブに出演したり……という日々を送っていました。


――そんなに自らを追い込んででも、「両立」という選択をした理由は何ですか?

 もともと、アイドルではなく声優を目指していたんです。でも、大学進学と同時に通い始めた声優の専門学校で、プロの世界の厳しさを味わい、一度は挫折しました。でも、社会人になってから同世代のアイドルの舞台を観に行った時に、「今しかできないことにもう一度挑戦したい」と、改めて思ったんです。

 もちろん、webエンジニアという仕事は大好きです。でも、それと同じぐらい私は歌と踊りが好きだった。会社や仕事が嫌になったのではなく、プラスαの欲望が出てきた、という感じですね。そのタイミングでたまたま見つけたのが、パズルガールズのメンバー募集でした。

 オーディションに受かってからは、アイドルへの想いが強かったので、ありったけの時間や想いを懸けて活動してきました。でもその反面、webエンジニアという仕事も手放したくはなかった。二つの職業を持つことで大変だったこと、苦しかったことは数え切れないぐらいありますが、どちらかを捨てることはどうしてもできませんでした。


――社会人の働き方として、“その仕事の専門領域を突き詰めていく”というのが一般的なイメージだと思います。その中で、堤さんのように“仕事もアイドルも全力でやり切りたい”という方は珍しいのでは?

 そうですね(笑)。二つの物事に必死で取り組んできた今、結論として思うのは、「どんなに優れた人間であっても、二つのことに全力を注ぐことは無理」だということ。もちろん、工夫して一定の成果を上げることはできると思いますが、物理的に難しいことも沢山あります。色々な人に迷惑をかけたし、その人達の協力があってこそ、1年半仕事とアイドルを両立できました。

 例えば、アイドルの活動について昼間に会議が入っている場合も、会社員は仕事なので参加することはできない。平日の夜にイベントがある場合は、慌てて定時退社。仕事がバリバリできる人間だったらよかったのですが、当時社会人2年目の私は何をやっても中途半端だったなと、今ではすごく反省しています。

 あと、二つの何かを掴もうとすれば、他のことを切り捨てなければいけなかった。人付き合いによって生まれる信頼関係など、本当に多くのものを犠牲にしないといけない。仲が良い会社の同期からの誘いなども、アイドルになってからはほぼ断わらざるをえませんでした。たくさんの人の優しさを受ける反面、人の信頼もたぶん失いながら、両立という道を進んできました。


――仕事とアイドル活動を両立する中で、アイドル活動が仕事面に好影響をもたらすことはありましたか?

 いじってもらうネタにはなりましたね(笑)。仕事というよりは、人生観が変わるきっかけをもらえたと思っています。アイドル活動のおかげで、これまでの人生の中では出会わなかった人達と出会うことができました。時には価値観の違いから、グループのメンバーとは分かり合えないこともありましたが、そこでいかに合意して上手く進めていくのか、ということも教えられましたね。

 あとは、ファンの方々にも教えられたことはたくさんあります。客観的に見たら、私は中途半端な形で活動していたように映るはず。それにもかかわらず、ずっと応援してくれていた人達もいたんです。決して正しいやり方ではなかったかもしれないけど、一生懸命必死でやっていれば、応援してくれる人はいる。それがわかった時にはすごく嬉しかったし、それに応えるために頑張ろうと思っていました。(続く)


後編:両立したいのなら、「信頼残高」を意識すること――好きなこと、仕事のために諦めなきゃダメ?【後編】
2月19日公開予定

堤沙也(つつみ・さや)さん プロフィール

1990年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。都内のwebサービス全般を扱う企業で、webエンジニアとしてサービスの設計や開発に従事。主に扱う言語は、Ruby,Python,PHP。エンジニアとして働く傍ら、2014年12月まで「リアル脱出ゲーム」を制作・運営する株式会社SCRAPプロデュースの「謎解きアイドル『パズルガールズ』」のメンバーとして、イベントの運営出演、ライブ活動などを行っていた。

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“新しさ”が今の仕事に与える好循環とは?――彼が「三足のわらじ」を履いて仕事するワケ【後編】


 企業の人事として働く一方で新会社を設立、社団法人の活動にも参加するなど「三足のわらじ」を履いて働いている、丸尾拓也さん。
 
 前編では、複数の仕事を手がけるパラレルキャリアという働き方を選択した経緯についてうかがった。では、実際に複数の組織に属してみて、彼の働き方はどのように変化したのだろうか?

 後編では、パラレルキャリアを実践する中で以前と変化した点や、複数の組織で働くために必要となってくることについてうかがっていく。




――実際に複数の職業に就いて働くことで、以前までの働き方と何か変わった点はありますか?
 
 インプットとアウトプットの機会が圧倒的に増えました。また、違う領域の仕事を手がけるメンバーと一緒に仕事を進めることで、他分野への興味の温度も上がり、「もっとこうしたい!」という思考のレベルが上がったと思います。これはアウトプットの質の向上に繋がりましたね。


――一方で得たインプットが、他方に好影響をもたらした事例がありましたら教えてください。

 採用の業務で得た経験やスキルはLean Channelを立ち上げる際に大いに役立ちました。実績や知名度がない中で、ITベンチャー企業の取締役や、Webメディアの運営メンバー、優秀なエンジニアが事業のパートナーになってくれたのです。

 一方で、自分の領域外のプロフェッショナルと過ごすことで、違う角度からの情報を自然とインプット出来たり、仕事の進め方の課題も見えたりしてきました。そうした中で蓄積された知恵は、採用担当として取り組む日常業務の質向上へ繋がりました。また、学生の相談に対して提供出来る選択肢の数も圧倒的に増えましたね。



――実際に複数の仕事で成果を出していく上で、どのような要素が大切になってくるとお考えでしょうか?

 自分の進む道の周りに柔軟な考え方や行動を起こせる土壌を創っておくことだと思います。手を拡げると、新しいモノ・コトとの出会いが増えてくると思うので、未知のことに対してもネガティブにならず「僕だったらどうやるかな?」という発想で取り組む姿勢を大切にしています。

 そして時には、一度決断して始めたことに固執せず、適切なタイミングで止めて違うアプローチを探すことも大事な要素ですね。 


――人事として採用にも携わっている丸尾さんですが、就活生や転職を考えている人にも、パラレルキャリアという働き方は勧めたいですか?

 働き方は手段であり、成し遂げたい、譲れない目的が同時に二つ以上ある人にはオススメです。とは言え、まだメジャー感の高い働き方ではないのも事実。周りにこのキャリアを許容してくれる人たちがいるかいないかの違いは結構大きいので、この働き方を選ぶのであれば、「なぜ、どのタイミングで、何を経験したいのか」をきちんと周囲と共有しながら取り組むのがいいと思います。

丸尾拓也(まるお・たくや)さん プロフィール

株式会社ネクスウェイ人財開発室/Lean Channel株式会社代表取締役
2011年、新卒でネクスウェイに入社。入社後営業部門で月間MVP賞を獲得し人事部門に異動。採用担当として同社表彰多数。2014年6月にLean Channel株式会社を立ち上げ、「温かさを創る人になる。」をモットーに日々活動を続ける。

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“もっと”良くできないか、を突き詰めただけ。――彼が「三足のわらじ」を履いて仕事するワケ【前編】


 会社という組織の枠を飛び越え、様々なコミュニティに属して働く「パラレルキャリア」と呼ばれる働き方をご存知だろうか。これまでのキャリアにおける考え方を打ち破る、この働き方が注目を集めている。しかし、転職や独立という選択肢もある中で、なぜこの働き方を選ぶのだろうか?

 今回は株式会社ネクスウェイの人事として働きながら、Lean Channel株式会社を起業、さらには社団法人のプロジェクト(こちらは2014年12月まで)にも参加するなど「三足のわらじ」を履いて働いている丸尾拓也さんに、パラレルキャリアという働き方を選んだ理由についてうかがった。


――転職や起業という選択肢もある中で、なぜ複数の職業を一度にやろうと考えたのですか?

 それまで一つの組織にしか属していなかった自分を振り返った時、「現状のままでは、今いる組織の価値観でしか思考できない人になってしまうのではないか?」と思い始めた事がきっかけです。

 また僕の身近には、休日や終業後の時間を活用して組織を越えた別の活動をしている人が多かった。だから、現組織に「加えて」何か探求すべき課題を組織の外に持っている働き方を、あまり珍しいとは思っていませんでした。


――一つの価値観だけで働くことは、何がどのように問題なのでしょうか?
 
 問題というよりは僕の考え方ですね。何に対しても「“もっと”良くできないか」を考えたい性分なので、「一つの価値観だけ」で物事に取り組むということが僕にはマッチしなかった。さらに言えば、その“もっと”の範囲を「丸尾だからできるんだ」と言われるところまで突き詰めたいという想いが根本にあります。

 例えば、ネクスウェイで新卒採用担当をしていますが、僕自身新卒で入った会社ですので、良くも悪くも他社を知りません。数ある選択肢の中から一つを選ぼうとしている学生に、意図せず「自社寄り」の価値観でしか情報提供できていないことは彼、彼女らにとってフェアじゃない。せっかく会いに来てくれた学生に対して、提供出来ることが極端になってしまうと考えていたんです。


――その中で「こういう価値観も必要なんじゃないか」とイメージしてキャリアを組み立てていったのですか?

 必要な価値観については、自分で仮説を立て獲得していくことは難しいと思っています。しかし一方で、新しい人との出会いや経験の中ではそれが比較的容易になるのではないでしょうか。

 僕の場合は、社会に出るまでは知らないことが多く、「コレがやりたい!」という明確なものはなかったし、ただ純粋に「社会とか仕事って面白いものなんだ!」と捉えていました。なので、自分が社会に飛び出して出会ってきた“新しさ”が今まで持っていた価値観に加わり、結果的に引き算が成立して洗練されていったのだと感じています。

 なので、イメージをしてからキャリアを組み立てるよりも、新しいモノ・コトに出会う機会を積極的に創り出し、そこで感じられたことをきちんと咀嚼する時間を持つことを大切にしています。その中で形作られる答えがキャリアを組み立てる要素になっていますね。(続く)




丸尾拓也(まるお・たくや)さん プロフィール

株式会社ネクスウェイ人財開発室/Lean Channel株式会社代表取締役
2011年、新卒でネクスウェイに入社。入社後営業部門で月間MVP賞を獲得し人事部門に異動。採用担当として同社表彰多数。2014年6月にLean Channel株式会社を立ち上げ、「温かさを創る人になる。」をモットーに日々活動を続ける。

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選手と運営、2つの窓口になりたいんです――裏方業務に魅せられた、新米アメフト広報【後編】


 学生時代、部活動での主務の経験から裏方の仕事の魅力を知った飯島沙織さん。NPO法人相模原ライズ・アスリート・クラブが運営するアメリカンフットボールチーム「ノジマ相模原ライズ」のスタッフとして働き始めた1年目、彼女は特にコミュニケーションの部分に難しさを感じたそうだ。

 事務局は、様々な相手とのやり取りが求められるポジション。飯島さんは、”現場”で活躍している選手達とのコミュニケーションを特に重要視していると言う。仕事内容や役職といった、立場の異なる人とやり取りすることは、スポーツに限らずどんなビジネスマンにも求められる。彼女の働き方から、円滑にコミュニケーションをとるためのヒントを見ていこう。




――事務局スタッフとして1年目、仕事のどのようなところに難しさを感じましたか?

 全てが手探り状態で、キャンペーンを実施してもこちらが予想していたリアクションが返ってこなかったり、ホームゲームの運営でもまったくスムーズにいかなかったり……毎日そういうことの繰り返しですね。自分の準備不足を痛感しました。

 それと、難しいと感じたのはコミュニケーション。事務局スタッフの仕事は選手やコーチだけでなく、リーグ事務局や自治体、ファンの方々等、コミュニケーションをとる相手がすごく多いんです。その間に入っての調整が難しいと思う反面、上手く事が進んだ時にはやりがいも感じているので、やりがいと難しさは隣り合わせのような感じです。


――ライズの一員として活動を始めた1年目、選手や監督、スタッフ達といった自分と立場の違う人と上手くコミュニケーションをとる際に心がけていたことはありますか?
 
 「事務局の飯島」を覚えてもらうことが大切だと考えていたので、時間があればとにかくグラウンドに顔を出すようにしました。すると次第に、何か困った時の窓口として情報が集まるようになってきたんです。

 そうなると、様々なニーズや問題点に気づくことができる。現場ではできない本音の話が、事務局にとっては大切なことも多いんです。そういう話ができる関係を作りたいと思っているので、いかにチームと事務局の間に自分が介入して上手く回していくか、ということを意識していました。これはこれからも継続していきたいですね。


――異なる立場の人と上手くコミュニケーションをとることは、スポーツに限らず多くのビジネスマンにも求められるはず。仕事内容や、役職が異なる相手に対しても円滑にコミュニケーションをとるために、工夫していたことはありますか?

 今年は試行錯誤の1年だったので、自分が起こした行動や取り組みに対して色んな立場の人に意見を聞くようにしていました。その人が何を重視しているのかといったパーソナリティだけでなく、注意点や次回の改善策などアドバイスをもらえるので、気づきも多くすごくプラスに働きましたね。

 また、コミュニケーションをとる時は相手がリラックスできる空間の中で、ということを心がけています。例えば以前の職場では、よく喫煙室で相手に話しかけていました。私はタバコを吸いませんが、喫煙者にとっては喫煙室が心を落ち着けられる場所。プライベートな話もできますし、そこで話した話が後々良い方向にいくこともありましたね。このように、”どこで”コミュニケーションをとるか気を配ることも大切だと思います。


――では、このお仕事のどんなところにやりがいを感じていますか?

 やりがいは毎日感じていますね。事務局の仕事は、応援してくれるファンを増やし、選手のモチベーションが上がる空間を作り出すことです。例えば、今年のホームゲームで「スタジアムをチームカラーのオレンジで染めよう」というキャンペーンを実施したところ、あいにくの雨にもかかわらず、沢山のファンの方がスタジアムに足を運んでくれたんです。

 その光景を見て、選手達も「気合が入った」「絶対に勝ちたい」と強く思ったようでした。事務局の仕事はチームの勝利には反映しにくいものですが、応援してくれるファンの方でスタンドが埋まり、大声援が送られる場面を目にすることができた時にはやりがいを感じますね。


――最後に、現在のお仕事に対する考え方で、大切にしているものがあれば教えてください。

 「ピンチはチャンス」という言葉を大切にしています。どんなに苦しい状況でも、それを楽しんで乗り越えられたら、自分に返ってくるものも大きいだろうなと思うんです。だから、しんどいと思うことでもとりあえずやろう、と。逃げずに取り組めば、誰かが助けてくれるかもしれないし、なんとか乗り越えられるだろうと勝手に期待しているから、できないことがあってもあまりネガティブにならないんです。

 裏方の仕事では、一つ一つの仕事の積み重ねが大事。だから、まずは取り組んでみて、上手くいかなかった時に立ち止まって考える。そして反省を次に活かすようにしています。

飯島沙織(いいじま・さおり)さん プロフィール

NPO法人相模原ライズ・アスリート・クラブ クラブマネジャー
1983年生まれ。学生時代、早稲田大学庭球部で主務を経験したことから「スポーツチームの運営」に関心を持つ。一般企業に就職後、早稲田大学大学院に戻り研究を続ける中でライズの存在を知り、2014年より現職。市や自治体、リーグ等関係各所への対応をする傍ら、チームの広報としても活動中。

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