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【コラム】

筆洗

 「ロックンロールはたぶん、君の苦悩を解決しないかもしれない。それでも、苦悩ごと、君をダンスさせるんだ」。ザ・フーのピート・タウンゼントがロック音楽について語っている▼苦悩と困難が絶えず押し寄せてくる青少年期のための音楽であろう。したがって人生とうまく折り合える方法を覚えた大人には暴力的な叫び声にしか聞こえない。ロックとは「大人」が聞けば顔をしかめ、それを聞く子どもを見れば、思わず心配してしまう種類のものである▼この人たちの音楽も若い世代を熱狂させた。そして「大人」の神経を逆なでしたはずである。シーナ&ロケッツのシーナが亡くなった。敬称は付けない。それが流儀だろう▼初めて見たのは一九八〇年の「夜のヒットスタジオ」だったはずである。艶(なま)めかしさ、格好良さ、危険さが心をロック=揺さぶった。苦悩ごとダンスさせた▼最後にその声を聞いたのは昨年九月の土曜の夜だった。会社を出る。日比谷野音から漏れる、しゃがれた声に足を止める。まだやっていてくれるんだ▼<王貞治が6番を打つ日/ぼくは 革命的な詩をかいているだろう/詩をかきながら 煙草(たばこ)をふかし/この日常性にいらいらしているだろう>。長谷川龍生さんの「王貞治が6番を打つ日」。熱狂をくれた運動選手の衰えとロックンローラーの死は世話になった世代をひどく動揺させる。

 

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