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【社説】

エアコン問題 残念だった低投票率

 自衛隊基地周辺の小中学校にはエアコンが必要だ。埼玉県所沢市で実施された住民投票はそう結論を下した。市長は重く受け止めねばならない。残念だったのは低投票率に表れた関心の薄さだった。

 対象となったのは、航空自衛隊入間基地に近い市立の二十八校だ。自衛隊機の騒音を防ぐため、教室に密閉性の高い二重窓を取りつけた防音校舎になっている。

 夏場に窓を開けるとごう音が飛び込み、閉めると猛暑に見舞われる。冷房設備がないと授業に支障が出るという子どもや保護者の言い分は、ぜいたくではあるまい。穏やかに学ぶ権利の保障を求めているにすぎない。

 同様の騒音公害に悩まされている近隣の入間市や狭山市では、エアコンの整備が進んでいる。義務教育現場の不平等はできる限り正したい。本来は国が前面に立って解決を図るべき問題だろう。

 所沢市は九年前、防音校舎二十九校にエアコンをつける計画を決め、一校には設置済みだ。行政サービスの継続性や教育環境の公平性を踏まえれば、計画の中止という藤本正人市長の決定はやはり強引すぎたのではないか。

 元教員としての経験を通して培った教育理念や、東日本大震災や福島原発事故から学んだ教訓を地域住民と共有したい。市長にはそうした思いが強くあったようだ。

 福島を犠牲にし、自然に負荷を与えてまで、快適さや便利さを優先する生き方を見直すべきだと主張する。その考え方はうなずけないものではないし、苦しい財政事情も分からなくはない。

 しかし、市議会は従来の計画通りエアコンをつけるよう求める決議案を可決したり、保護者の請願を採択したりした経緯がある。市長にはさまざまな異論に耳を傾ける謙虚さがあったのか。

 地方自治の営みは、首長と議会という両輪に支えられて機能する。もっとも、民主主義の実現にとって公選の二元代表制がいつも万能とは限らないからこそ、住民投票の仕組みが担保されている。

 法的拘束力はなくても、エアコン設置に賛成する声が多数を占めた事実は重い。市長には説得力のある対応を期待したい。

 落胆させられたのは、31%余りと低迷した投票率だ。市町村合併や原発建設とは違い、個別具体の争点だったとはいえ、教育や基地は地域全体に関わる重要な問題だ。住民は税金の使われ方にもっと関心を払い、社会参加の意識を高めねばならないのではないか。

 

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