はい、あーん。
僅か五七五の中に人生の機微をうたう川柳。
今、若者から高齢者までじわじわ拡散しています。
シルバー世代に的を絞った還暦川柳コンテスト。
規模は年々拡大し応募は過去最高を記録しました。
シルバー川柳と題した本は累計60万部を超える大ヒット。
さらに最近は、女子会やオタク非正規で働く人の川柳まで。
うまくいかない現実を明るく笑い飛ばすことばに共感が広がっています。
歴史をひもとくと川柳はかつて権力者に抵抗するための武器でもありました。
さまざまな世代に広がる川柳。
今夜は、悩み多き時代を生き抜く知恵に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
俳句と同じ五七五の十七音。
季語は不要で誰でも気軽に作り手になれるのが川柳。
庶民の文芸と呼ばれています。
日々の暮らしや将来に対する不満や不安が尽きない厳しい今やりきれないこと理不尽なことを考えているうちに浮かぶ本音のことば。
ニュースになっていることをネタに権力を笑う人もいれば自分の心と向き合い心の内の何気ない感情や家族、仕事への思いを拾い上げてユーモアたっぷりに作られる川柳。
くすっとした笑いを周囲に提供し人々の共感を呼んでいます。
加えて高齢者によるシルバー川柳から、女子会川柳オタク川柳などおなじ境遇の人どうしの川柳を集めることで共感の輪がさらに広がっています。
川柳といえば、笑いを誘うユーモアを思い浮かべがちですが江戸時代に誕生したこの庶民の表現は戦時中には厳しい言論統制が敷かれる中反戦の意思を表す手段として川柳を詠む動きが全国で草の根的に広がりました。
以来、社会的な弱者が権力に抵抗し反骨精神を表す武器としても大きな役割を果たすようになりました。
今の世相を映し社会に近いといわれる文芸の何が老いも若きも引き付けているのか。
詠まれている川柳とともにご覧ください。
これ、ありますね。
若い女性の共感を集めているのは、女子会川柳です。
「片付かないデスクの上も人生も」
職場でのストレスや恋愛の悩みなど、働く女子の心をぎゅっとつかんでいます。
今、川柳は社会の多様化に合わせるように広がっています。
働く女性に向けた女子会川柳にパートなど、非正規労働者のアルバイト川柳。
中でも急拡大しているのがシルバー世代の川柳です。
福井市内で活動する高齢者の同好会では、月に1度自作の川柳を披露する句会を開いています。
「会ってすぐじゃあまた来るねと帰る孫」
「耳遠くトーク弾まず妻遠く」
皆、この1、2年の間に川柳を始めた初心者ですがその魅力にどっぷりつかっています。
還暦川柳コンテストには過去最高5000通もの応募が殺到しました。
入賞した川柳はみずからの老いを明るく自虐的に笑う作品が多いのが特徴です。
例えば、こんな感じ。
もう十分長生きしたよな?母さん。
そうですね。
もういつお迎えが来てもいいですね。
おい、時間だよ。
ああ。
分かったよ。
じゃあ今週中に振り込むからね。
なんだ周平か?
ええ、なんだかまたお金が必要みたいで。
ええ?なぜ今、多くの高齢者がみずからの老いを川柳に詠んでいるのか。
よくいらっしゃいました。
どうぞどうぞ。
コンテストに毎年応募しているという富田満さん67歳です。
これまでに30句以上を投稿し4年前、最優秀賞を受賞しました。
「おーいお茶叫んで自分でいれに行く」という句ですね。
かつて商社マンとして仕事に明け暮れていた富田さん。
定年後は暇を持て余すようになりました。
楽しみは孫に会うことぐらい。
そんなときに出会ったのが川柳のコンテストでした。
じゃあ、もう一回やります?
お願いします。
毎回変わる川柳のお題に自分を試す目標ができたといいます。
それでは自信作が生まれた情景をみずから演じたドラマと共に一句。
あれ?どこにいったんだろうなぁ。
おーい、おーい。
どうしたの?
ここに置いてあった書類どこやった?
あなた、この間しまったじゃないですか。
えー?そうだっけ?どこにしまったっけな?
老いを自虐的に笑う川柳が広がる現象を、笑いのプロはどう見ているのでしょうか。
どうも、こんにちは。
よろしくお願いします。
落語家、桂文珍さんはみずからを笑う行為こそ笑いの歴史の中でも奥深いものだと指摘します。
一方、シルバー川柳のもう一つの特徴は作り手の多くが男性でしかも、妻のことを詠った句が多いことです。
福島県いわき市に暮らす豊口卓さん72歳です。
妻の初子さんと義理の母親の3人で暮らしています。
かつて豊口さんは建設会社の現場監督として21年間も単身赴任。
子育てなど家のことは初子さんに任せっきりでした。
しかし定年後川柳を始めたのをきっかけに遠かった夫婦の距離がちょっと変わりだしたようで。
「女房に介護はさせぬと筋トレす」
気が付くと面と向かっては言えないことばも川柳でなら表現できるようになっていました。
この日、豊口さんは初めて初子さんに、川柳を披露しました。
川柳をてこにしてやっと気持ちを伝えられた豊口さん。
今夜はイラストレーターで、川柳の選者を長年務められた経験をお持ちの、山藤章二さんをお迎えしています。
気が付いたら、妻のことを、いくつもいくつも詠んでいたという、豊口さんでしたけれども。
今のビデオ、映像をずっと見てると、私の家をのぞかれているような、ということは平均的な老夫婦の過ごし方の日常の場面がたくさん出てきますね。
その中で一番最後の結集しているなと思ったのは、ボケたふりしてでも妻をそばに置く、ということによって、奥さんに対する愛情、感謝、やっぱり旧世代の日本男児は口下手ですから、まともに言えないことを、川柳という形を借りて、さりげなく言ったんで、これ普通の笑い飛ばす川柳と、ちょっとニュアンス、ちょっと違いますね。
初めてだね、こういう川柳で。
つまり長年の感謝の気持ちを、この形を借りると照れずに言えるということは、僕、ここで今、映像で拝見しててね、ああ、そうか、これもありだなと思って、今まで川柳っていうとおおむね力のある人、上に立つ人に対する、反抗というか、レジスタンスというかね、逆らう行為で、やや攻撃的な感じだったんですけど、これはもっとしみじみしていましたでしょ。
だから、あぁ、川柳も様変わりしたり、あるいは個人差によってね、からかう、なんか、そういうだけの機能じゃなくなって、おもしろい方向に広がってるなという感じしませんか?
今、本当にいろんなジャンルの川柳が生まれていて、非常にすそ野が広がってきつつあるという状況なんですけれども、長年、サラリーマン川柳の選者をされてこられた中で、今の川柳と、そのころとはなんか違いが出てきていますか。
15年ぐらい、15年、20年ぐらい、かなり長い間、サラリーマンという大枠でくくった句を何万と集まるんですよね、それの選者をやってましたので、当時はね、わりと、例えば、旦那さんが奥さんを呼ぶ、お前、お尻上げてなかなかソファから動かないとかね、それから必ず、寝る前に小言を言われるだとかね、妻という立場がパターン化してたんですよ。
わりと、奥さんの悪口を言うことによって、みんなの共感を得やすいんですよね。
ですから、出迎えてくれるのはポチしかいないとかね、状況が大体ワンパターンだからね、数だけはたくさん見ましたけどね、さほど突出して自分のユニークな世界を切り開くというのは、少なかったんですけど、むしろ、ここへきていろんな階層、空間を持った人たち、非正規社員だとか、ネット族だとか、あるいは女子会とかね、限定された共通認識を持った空間で、川柳を競ってるでしょ、そのほうが句のエッジが利いてるといいますかね、切っ先がとがってますね。
そのとがった川柳というのは、これはいい川柳、悪い川柳ってあると思うんですけど、その優れた川柳っていうのは、どういうものなんでしょう?
みんなに分からせる、みんなが、会場の8割方が、わーっていうような広める役目もあるし、それから、100人のうちの3人ぐらいしか、くすっと笑ってくれないんだけど、そいつは分かるやつで、ツーカーで通じる、あいつを笑わせてやろうというような、狙い撃ちする場合もあるんですね。
だから、わりとね、とんがらせながら、あるいは、鉛筆でいうと6Hぐらいをうんととがらせる書き方もあるし、4Bぐらいの丸くして柔らかな筆致を出す、描写もあるんですよね。
今、ここにきての変化はね、わりと、それこそ同じ仲間、狭い仲間の中で、通じ合うようなエッジの利いたとんがった方向がこれから来つつあるんじゃないですか。
そして分かる人には分かるけど、分かんない人には分かんないと。
そう。
川柳のおもしろさの一つの、意地悪な面だけども、一つの魅力はね、周りに分からず屋さんがいてくれる、ことですね。
例えばちょっとしたよりあいで10人ぐらい集まると、そのうち2人か、3人、お互いに同じような周波数持ってて、ユーモアセンス、持ってると、くすっと反応してくれるのはその2、3人でいいんですよ。
あとは、わりと分からないで、なんのこと言ってるの?とか、俺、しらねえぞとかいうような人が周りにいたほうが、選ばれた2、3人どうしで笑えるという優越感が醸し出されるんですね。
だからそれを昔の人は粋と称したんですけどね、知る人ぞ知るの美意識、それが粋なんですよね。
ただ、この川柳というのは、たかが川柳と思われがちなところがあるんですけども、歴史を振り返ってみると、たかが川柳とは、片づけられない奥深さを持っています。
川柳が誕生したのは今からおよそ250年前江戸時代の浅草です。
これが柳多留になります。
与えられた課題に対して五七五の句を考える文芸が大流行。
風景などを詠む俳句に対して川柳は暮らしの中の人情を表現する、身近なものとして人気を集めました。
選者だったのが柄井川柳。
後に川柳と呼ばれる由来となった人物です。
川柳が別の力を見せたのが日本が戦争へと向かった時代です。
戦争賛美一色の風潮の中権力を笑いにくるんで皮肉る反戦川柳が数多く作られました。
文芸評論家の楜沢健さんは反権力の性格を帯びたことで川柳は一層大衆の支持を集めたと見ています。
戦後は競争社会の激化とともに自虐的な川柳が生まれてきます。
80年代後半、脚光を浴びたのがサラリーマン川柳です。
その10年後に出現したのがOL川柳です。
女性の社会進出は広がり職場の不満や将来の不安を川柳に託すようになります。
派遣切りということばが生まれた2000年代後半にはワーキングプア川柳が。
さらに、婚活川柳ブラック企業川柳などますます細分化が進んでいます。
日本人の働き方や価値観が多様化したことで一つのジャンルの川柳だけでは多くの不満を受け止められなくなったのです。
しかし、スマホやネットを使えば誰とでもつながれる時代。
なぜ、川柳を通して同じ思いを共有したいと考える人が多いのでしょうか。
長年笑いのメカニズムを研究してきた関西大学の森下教授は川柳の笑いこそが人をつなぐ大きな力になっていると指摘します。
江戸時代にこうやって、いわば遊び道具として、発展して、そのあと、戦時中は権力にあらがう川柳、今は本当に笑いを共有しながら、本当に人間臭さっていうのが、にじみ出ているものなんだなあって感じますね。
独特のなんでしょうね、制度の、クオリティーの高さっていうのは、江戸時代に鎖国時代がありましたでしょ、外国から情報も娯楽も何も入らないときに、手近にある遊び道具っていうのはことばなんですよね。
あの時代によって、ずいぶん、狂歌、…、川柳、俳句、すべて、そういうことばに対するこだわり方、情熱の込め方によって、非常に優れたもの、二流も三流も含めて庶民が大変な数の参加をしましたね。
これは世界のぶんが文学、…、…文学、大衆参加言語文学見てね、ないと思います。
たった十七の音の中に万感を込めるわけでしょ、それでみんなに受ける、これ、受けなきゃどうしようもないですからね。
俳句のほうは受けなくても…でいいところもあるわけですが、川柳に関しては受けなきゃなんないという、高度なテクニックが必要ですね。
とんちとテクニックがね。
非常に高度だけれども、あまりたかが川柳と思われてるところもありますよね。
思われてます、そこが大事なところでね、高度で、怖い武器だぞと言いながらね、文化的地位は決して高くならないんですよ。
喜怒哀楽という感情の4つのまとめ方ありますけど、笑いって入らないんですよね。
笑ってるという、笑いというものは、ちょっとらち外という、上の見方はそうなんですよね。
そうするとね、俺たち仲間に、4つの仲間に入れないじゃないかというのが、逆にエネルギーとなって、それじゃ、もう一ひねりしてやろうという笑いに奉仕するのが好きな人は、ちょっとメンタルがちょっとひねくれておりましてね。
2015/02/16(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「自虐?反骨?川柳で今を笑う」[字]
「延命の 治療はするなと 書いて消し」。老いや病をユーモアあふれる表現で笑い飛ばす「シルバー川柳」。著名人・研究者の分析から、日本人と笑いの関わりについて考える
詳細情報
番組内容
【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】イラストレーター…山藤章二,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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