金田一耕助vs明智小五郎 2015.02.11


の完成に満足そうな表情を浮かべていました。
(喜一郎)許さへんぞ…。
絶対に。
長彦!出てこい!
(喜一郎)長彦!どこや!?どこにおるんや!?
(女中)キャー!
(長彦)喜一郎!
(喜一郎)おんどれこら…。
やってええことと悪いことあるやろ!こら!
(長彦)何や!?おら!
(喜一郎)いつからや!?
(長彦)何がや!
(喜一郎)いつからなんや!?おら!おら!
(喜一郎)とぼけるなぼけ!・うわーっ!
(戸をたたく音)
(福助)おい開けえ!開けんか!
(初恵)何かあったんですか?
(福助)何かあったちゃうわ。
お前んとこの兄貴がとんでもないことしてくれたんや。
(初恵)兄が?
(福助)突然殴り込んできてうちの若旦那の顔に薬掛けて逃げよったんや。
どないしてくれんねん!
(玉緒)フン…何が探偵だ。
バッカじゃねえの。
(いびき)・
(足音)ハァ…。
(金田一)痛っ!おい金田一。
いつまで寝てるつもりだ?
(金田一)何だよ玉ちゃんか…。
おはよう。
もう昼すぎだよ!ほれ下宿代。
半年分全部もらってこいって母ちゃんに言われたんだ。
あっ!その仏頂面はまた団子屋のマサ坊とケンカしたな。
さしずめケンカの理由を推理するとだな…。
どうせ当たりやしないんだから結構。
こんなのまぐれだって母ちゃん言ってた。
偉そうに探偵事務所なんか開いちゃって。
仕事なんか来やしないだろ。
果報は寝て待てっていうの。
この電話だって借金して買ったのに借金取りの電話しかかかってこないじゃないか。
あのねかの明智小五郎先生だって最初は4畳半の下宿から実績を積み上げていったの。
僕だってそのうち大きな事件が舞い込んでくれば。
・玉ちゃん僕留守だからね。
そう言ってよ。
・もしもし。
ええ。
もちろん金田一はここにおります。
ちょっと…まずいってばそれ。
えっ?あっそういうことでしたら明智小五郎さんって有名な探偵がいますからそちらに頼んだ方が。
借金取りじゃないの?来た来た〜。
来た〜来た仕事が…。
(小林)来た〜電報が…。
あっすいません。
(小林)来た〜来た〜電報が来た。
(小林)来た〜来た〜電報が…。
あっ奥さま!先生から電報です。
(文代)あら小林君。
満州を出て下関に着いたそうです。
(文代)そう。
「タイリクノシゴトシュウリョウセリ」「シモノセキヲヘテキキョウス」ハァ…無事に着いたのね。
(小林)東京に戻るのは2〜3日後でしょうか?
(文代)まあ道中に何も起こらなければの話でしょうけど。
ありがとう。
(男性)君。
(従業員)はいお客さま。
(男性)すまないが1カ月分の新聞を読みたいんだ。
1カ月分?
(男性)やぼ用で満州にいたんでね日本の情報に飢えてるんだ。
いやほやけど1カ月分はちょっと…。
明智先生でしたか!いや…これは失礼しました。
すぐにご用意いたしますけえ。

(明智)かねだ…いっこうのすけ?
(アナウンス)大阪大阪です。
あった。
ごめんください。
(初恵)あの…。
(初恵)金田一耕助先生でいらっしゃいますか?あっ…はい金田一です。
(初恵)お電話した善池初恵と申します。
長旅ご苦労さまでした。
はい…。
えっいや…苦労なんてそんな。
今お店に伺おうと。
(初恵)店はそっちじゃなくてこちらです。
えっ?えっ!?本家…。
元祖…。
えっ?何これ?どうなってんだ?これ。
(使用人)ちょっ…ちょう待ってやお嬢はん!
(使用人)うっとこのお客さん横取りしようゆうんかいな。
(使用人)こんな店先で勧誘されたら営業妨害や。
(使用人)そやそや。
(初恵)そんなことしやしませんよ。
この方は私の個人的なお客さまです。
お宅と一緒にしないでいただけませんか?
(使用人)何やと?
(使用人)待て待て待て!お嬢に何してくれとるんや!
(言い争う声)金田一さんこちらへ。
ん?尾行!?ええ。
ここひと月ほど私を含めた店の者たちが何者かに後をつけられているんです。
それで先生にご相談を。
なるほど。
で何か心当たりは?確証はありませんが…。
鴇屋蛟龍堂はこの越歴丸という万病役を扱ってまして。
ああ…越歴丸なら僕も時々お世話になってますよ。
この薬の調合技術は先祖代々受け継がれてまして門外不出の秘伝で…。
つまりその秘伝を盗み出そうとしてるやからがいると。
さすが金田一先生。
そのとおりです。
その犯人を見つけ出せばいいんですね?それしきのことでしたらお安いご用です。
ところでこちらからも一つお伺いしたいんですが…。
はい。
善池さんと呼んだ方がいいでしょうか?それとも気軽な感じで初恵さんの方が?どちらでも構いませんけど。
ああそうですか。
では思い切って初恵さん…。

(芙佐子)失礼します。
母です。
(芙佐子)どうもご挨拶が遅れて申し訳ありません。
娘が急なお願いをしたようで。
いえとんでもありません。
このように歓待していただいて僕の推理も余計にさえ渡るってなもんです。
(芙佐子)さあどうぞ。
頂きます。
そういえばさっきは正直驚きましたよ。
まったくうり二つの店が向かい合っていたんで。
どちらも鴇屋さんですよね?元は一つの店だったんです。
ですが父の代にこのような状態になりました。
この鴇屋は明治に鴇屋万右衛門が一代で起こした薬問屋でございます。
(芙佐子)万右衛門は秘伝越歴丸を開発し鴇屋の名は全国にとどろくこととなりました。
そして病に倒れた際二人の愛弟子に越歴丸の調合法を伝授したのでございます。
その弟子というのが私の父と向かいの店の先代だったんです。
ああそれで仲良く向かい合わせに。
逆です。
憎しみ合った末にこんなことに…。
犬猿の仲やったんでございます。
自分こそが一番弟子だと意地を張り合うて。
結果は先ほどご覧のとおりです。
なるほど。
で今は三代目が?はい。
創業者の遺言で直系の跡取りだけが薬の調合技術を受け継ぐことになっています。
本家は兄と私が。
元祖は一人息子の長彦さんが受け継ぎました。
(芙佐子の泣き声)どうされました?喜一郎…。
実は2年前兄の喜一郎がとんでもない事件を起こしまして。
事件?
(喜一郎)《長彦!》
(初恵)確執は行き着くところにまで行き着いて兄の喜一郎は向かいの家に殴り込んだんです。
そして…。
長彦さんの顔に硫酸を浴びせてしまったんです。
優しい子やったのに。
何であんなこと…。
あっ…じゃあさっきお向かいの2階にいたあの黒頭巾の…。
(初恵)長彦さんです。
兄はいまだに姿を消したままでもう生きてるかどうかも…。
そんなことが…。
すいません何か余計なこと聞いちゃって。
まるで映し鏡のような二つの店。
2年前の不幸な事件。
そして秘伝薬の調合技術を盗もうとする者。
フフッ…。
こりゃあ面白くなってきた〜。
うわー!座敷わらし!?
(音吉)お食事はお済みですやろか?あっ…はい。
ちょっとすいませんあの…発声練習をね。
あ〜あ〜。
(音吉)じゃあお部屋までご案内します。
勘弁してよもう…。

(音吉)入ったらあきまへん!わあ!
(音吉)そこ入れるんは初恵お嬢さんだけです。
それにもう遅いですからあんまり大きい声は出さんといてください。
はい。
あの…何か怒ってます?別に。
ですよね。
まだ会ったばっかりだしね。
フフフ…。
自分の胸に手当てて聞いてみればええねん。
えっ?うわーっ!!うわーっ!!今度は何!?うっ!うっ!
(殴る音)あっ!・
(初恵)失礼します。
お風呂のご用意が…。
あれ!長彦さん!?警察に連絡してください。
待て!待ちなさい!何じゃこりゃ!・
(初恵)金田一さん。
警察に連絡してるんですが誰も出なくて…。
あっちょっと待ってください。
「金ハ用意シタ」
(初恵)何ですか?それ。
とにかく警察にすぐに連絡した方がよさそうですね。
私直接呼びに行ってきますね。
いやいやお嬢さまにそんなことさせられません。
私がひとっ走り行ってきます。
(警察官)ご苦労さまです。
(刑事)ご苦労さん。
南です。
犯人は南の方に向かって逃げたんです。
(室岡)南…。
ほろが付いたトラックだったんで目撃者がすぐに見つかるはずです。
(室岡)ほろが付いたトラックと…。
(刑事)よいしょ…。
(浅原)何やこれ…。
おいすぐ解放したれ。
(警察官)はい。
早ほどいたれ。
(警察官)はい。
船場署の浅原や。
これで全員ですか?
(福助)いえ…2階に大奥さまが。
(浅原)ほな行くで。
(警察官たち)はい。
夜中に集まってもろてすんまへんな。
現在犯人が乗った車は非常線張って捜索中でおます。
これから皆さん一人一人に事情を聞かせてもらいますよって。
犯人は本家の人間に決まっとるわ。
(本家の使用人)何やとこら!
(言い争う声)
(浅原)まあまあ…。
どういうことや?創業者の遺言で直系の跡取りが途絶えたら店閉めなあかんのです。
うちの若旦那に何かあったら本家の天下や。
こない言うてるけど。
そんな…。
でも本家の皆さんにはアリバイがありますよ。
何や君は?東京から来ました。
探偵の金田一です。
(浅原)探偵?誰やこんなん入れたのは。
室岡か?
(室岡)いえいえ…。
まあそう興奮なさらずに。
僕は事件の目撃者です。
少しだけ発言させてもらえません?チッ…うん。
少なくとも事件が起きたとき本家の音吉さんと初恵さんは僕と一緒にいました。
1階に下りたときに使用人の方々とも擦れ違いましたし本家の方々が犯行に関わるのは不可能です。
たぶんさっき刑事さんにお渡ししたあの紙切れと事件が関係あるんじゃないでしょうか。
紙切れ?
(室岡)あっ。
これです。
(浅原)おお。
元祖の皆さんでこの手紙に見覚えのある方は?
(使用人たち)知らん…。
ということは犯人が残していった可能性が高い。
(浅原)せやけど誘拐犯やったら普通「金は用意した」やのうて「金を用意しろ」やろ。
これやったら逆さまや。
そうですよね。
(浅原)うん。
しかしだからこそこの手紙に犯人を特定する重要な鍵が隠されてるんじゃないかと思うんです。
せやろ。
わいもはなっからこれ怪しいな思うてたんや。
ホンマに…。
(従業員)先生お待たせいたしました。
横浜行きの船が出航いたします。
明智先生?偶然居合わせた…か。
(従業員)はい?君悪いが汽車の時間を調べてくれ。
いやほやけどですねもう船が…。
(明智)船はやめだ。
ちょっと寄り道がしたくなった。
(従業員)はい?えっ?これ…。
(初恵)取りあえず半分だけですけど。
えっ!?こんなに!?昨夜は金田一さんのおかげで本当に助かりましたから。
いえ…あれしきのこと。
赤子の首をひねるようなもんです。
それって赤子の手じゃ?あっそうそう関西方面ではね赤子の手だったかなぁうん…。
うん…ハハハハ…。
フフフ…。
アハハハ…。
そういえば聞きたいことがあったんです。
はい。
2年前お兄さんの喜一郎さんは向かいの家に殴り込みに入りましたよね?ええ。
何でそんなことをしたのかどうにも分からないんです。
だって家同士が対立していたのは2年前に始まったことじゃないですよね?初恵さん?原因は私です。
親たちは対立してましたけど子供同士は仲が良かったんです。
昔は3人で活動を見に行ったこともあります。
つまりそれはあなたと向かいの長彦さんとの間に何か特別な感情が芽生えた…とか?親にも兄にも内緒で私は長彦さんと交際をしていました。
もう嫌だったんです。
いがみ合うのは。
だからいつか私たちが一緒になったら鴇屋を一つにしようって。
でもそれを兄が知ってしまってあんなことに…。

(音吉)失礼します。
あの警察から電話ありまして…。
犯人が見つかったとか!?いえ…。
遺体が見つかったそうです。
(初恵)金田一さん!はい。
(初恵)警察はこっちです。
えっ?いやでも昨日…。
あれ?
(初恵)金田一さん。
こっちです。
あれ?何か今日の僕ちょっと変だな…。
じゃあ。
浅原警部!誰やあんなやつ呼んだんは。
遺体が見つかったそうですね。
探偵風情には関係ないことや帰れ!いやでも…。
帰れ言うてるんや!おう探偵!ホンマに遺体見たいんか?ええ。
ホンマか?もちろん。
分かった。
せやったら今日は特別や。
見したる。
ありがとうございます。
(浅原)どけ。
うわっ!真っ黒焦げ…。
うっ…。
うえ…。
(浅原)ハハハハ!探偵っちゅうのはずいぶん軟弱やなおい。
(刑事たち)ハハハハハ!
(浅原)あんたの証言をもとにわいらは南側一帯を捜索した。
せやけどここは正反対の北側や。
目撃者が出るはずない。
これ頭部が陥没してますよね。
ああ。
鈍器で殴った後火付けたんや。
ここまで焼かれてたら身元なんか分かりませんよね。
どうして長彦さんだって断定できるんです?これや。
ここの草むらに落ちとりました。
(浅原)動かぬ証拠や。
そうかな…。
口答えすんな!遺体はご丁寧に焼かれてるのに黒頭巾は焼き忘れたと?まるでこの遺体は長彦さんだとわざと証拠を残してるようなもんです。
どんな犯人でも失敗はする。
いちいち口出すな!
(浅原)もうええやろ。
終わり終わり。
(女将)いらっしゃい。
うどんちょうだい。
(女将)あいよ。
お〜。
載ってる。
(女将)お客さん鴇屋にいる探偵さんやろ。
よくご存じで。
(女将)狭い町やもん。
しかしこんなに大きく報じられたら鴇屋さんも大変だろうね。
(女将)大丈夫よ。
越歴丸があるんやから。
これを作れるのは日本広しといえども鴇屋だけなんやから。
確かに。
それに本家はちょっとほっとしとるんちがうか。
えっ?ここだけの話ここ最近本家の客が元祖に流れとるっちゅう噂があったから。
でも扱ってるのは同じ薬でしょ?
(女将)いや元祖の方が効きがええって評判でな。
フフフ…。
うちもくら替えしたんやし。
ほいうどんな。
お〜うまそう。
いただきま〜す。
(女将)はいよ。
(女将)いらっしゃい。
(男性)熱かん1本つけてぇな。
(女将)はいよ。
(男性)兄ちゃんその新聞ええか?どうぞ。
(男性)おおきに。

(琢磨)何なんや突然。
誘拐騒ぎのことは知ってるな?
(琢磨)一応うちも薬屋ですから噂くらいは聞いてます。
(室岡)まあまあ…お茶でも飲んでゆっくり話しましょ。
どうです?確かに似てますね。
サンプク製薬って会社の人間らしいんです。
サンプク製薬?前に尾行されてたって言ってましたよね?あの男じゃないですか?実はな複数の目撃者が犯人とあんたがよう似てるて証言しとんねん。
(琢磨)えっ?その手のあざ動かぬ証拠やろ。
(琢磨)待ってください。
あざあるやつなんてごまんといてるでしょ。
せやったらおとついの晩どこに行っとった?嫁さんの話やと夜中まで出掛けとったそうやないかい。
おとついは心斎橋を一人でぶらっと…。
(浅原)ほ〜…。
(男性)あっどうも。
ご無沙汰してます。
すまんな誰やった?
(男性)嫌だなもう…。
私の顔忘れちゃったんですか?
(琢磨)ああ!記者さんか。
(男性)ええ。
鴇屋蛟龍堂の事件を調べてましてね。
担当の刑事さんを紹介していただこうと思いまして。
どうでした?アリバイも曖昧やし確かに怪しいな。
そやけどあいつには元祖の長彦を誘拐する動機がないやろ。
ありますよ。
あ?越歴丸です。
サンプク製薬はできたばかりの会社でしょ。
実績のない会社が越歴丸を入手したらどうなります?まあ一躍有名企業の仲間入りやろな。
そのとおりです。
越歴丸は秘伝中の秘伝でその調合技術は喉から手が出るほど欲しかったはずです。
ああ…それで尾行を?ええ彼らは初恵さんからもその秘伝を盗み出そうとして尾行してたんです。
当然サンプク製薬は元祖の長彦さんとも交渉したかったはずです。
しかし長彦さんは調合室にこもりきりだった。
そこで彼らはあの手紙を使ったんです。
手紙?思い出してください。
ほら現場に残されていた手紙には小石がくるまれてましたよね。
つまりそれは外から2階の部屋に向かって投げ込まれたってことじゃないでしょうか。
ほらこうして手紙で石をくるんで投げる投げ文ですよ。
「越歴丸の調合方法を教えてほしい」「もし教えてくれたならば金を払う」…と投げ文を使って交渉したんです。
あっせやから「金を用意しろ」やのうて「金は用意した」そういうことです。
それともう一つ気になってることがあるんです。
現場に残されていた手錠です。
たぶん長彦さんはあの調合室に手錠でつながれ監禁されていたんじゃないでしょうか?監禁って…。
何でそないなことを。
たぶん店主がやけどを負った状態で人前に出ては店の評判が落ちるって番頭の福助さんが思ったんじゃないでしょうか?ひどい話ですけど…。
越歴丸は何にでも効く万病薬やて思われてますしね。
せやったら福助は長彦を無理やりあの部屋に閉じ込めて薬だけ作らせとったっちゅうわけか。
2年間ですよ。
普通は耐えられません。
長彦さんだってあの部屋から逃げ出したかったはずです。
そこにちょうど運よくサンプク製薬が現れた。
薬を手に入れたいサンプク製薬と部屋から逃げ出したい長彦さんの両者の思惑が一致したんです。
ほんならあの誘拐は自作自演やったってこと?そういうことになります。
(浅原)ちょっ…待て。
もしそないやったらサンプク製薬はせっかく連れ出した長彦を殺害するはずがないやないか。
そのとおりです。
そのとおりですって…現に殺してるやないか!まあまあ落ち着いてください。
まさにその謎についてこれから説明しますから。
いや〜ずーっと気になってたんですよね。
どうして犯人はわざわざ遺体を焼いてこれ見よがしに頭巾を捨てていったのか。
その理由がようやく分かりましたよ。
あの遺体は長彦さんじゃなかったんです。
えっ?
(浅原)何やて?つまりあの河原で黒焦げになってたのはまったくの別人だったってことです。
んなあほな。
そうすることでしか元祖から逃げて生き延びる方法はないと長彦さんは考えたんでしょう。
そしたら遺体の正体は?ここ最近この辺りで行方不明者が出てませんか?浮浪者でも何でも構いません。
行方不明者?ええ。
長彦さんの身代わりになって殺された人が必ず見つかるはずです。
これは巧妙に仕掛けられた入れ替えトリックだったんですよ。
とにかく調べてみる。
おい行くで。
(室岡)は…はい!
(初恵)もうすぐ初天神のお祝いです。
ここで毎年お芝居が開かれるんです。
子供のころ兄と長彦さんと3人でよく遊びに来ました。
そうですか。
しかし初恵さんは大したもんですよ。
その若さで鴇屋という老舗を切り盛りしてるなんて。
そんな…。
私が店を任されたのは兄がいなくなってからのことです。
それまでは母も認めてくれなくて小間使いのようなことしかさせてもらえませんでした。
でも今はみんなあなたを頼りにしてます。
私だって時には誰かを頼りにしたくなります。
だから金田一さんに来てもらったんです。

(割れる音)・
(悲鳴)
(トモのせき)・
(福助)どないしたんや!?
(女中)すんまへん。
うちが花瓶割ってしもたんです。
大きな音立てな言うとるやろが!
(使用人)来た来た…。
(使用人)こっちやこっちや。
(使用人)車来ましたで。
(使用人)気を付けてな。
(使用人)そーっと…。
(使用人)早せえ。
静かにやで!どうしたの?
(音吉)急に発作を起こしはったみたいです。
元祖のおばあさんはずっと寝たきりなんですか?
(初恵)ええ。
心臓が悪いのでうちでも大きな音を出さないように気を使ってたんですけど。
(福助)入り。
(使用人たち)へい。
神様仏様天神様あと3日…あと3日以内に初恵さんと。
ちょっとさすがに3日は早過ぎるか。
まずは文通から。

(明智)いや〜お見事でしたね先ほどは。
ん?あなたは?申し遅れました。
私はこういう者で。
記者?ええ。
鴇屋蛟龍堂の事件を担当してましてねさっき先生の推理を偶然立ち聞きしちゃったもんですから。
はっはーん…さてはあなた私の特集記事でも書こうってわけですね。
あいにくですがまだ部外者に情報を漏らせないんでね。
連絡先あげましょう。
事件が解決したら取材でも。
実はですね先生。
どうもさっきの推理に盲点がある気がしちゃいまして。
盲点?黒焦げ遺体の正体は別人だった!ああ…さすがは先生実に大胆かつ奇抜な発想です。
ただその根拠は遺体が焼かれてたのが不自然だったからってだけですよね。
いやそれは…。
それにですよもし先生の推理が正しければサンプク製薬は長彦さんとすぐにでも結託して越歴丸を販売することになるでしょう。
でももしそんなことをしたら誘拐犯は自分たちだって世間に知らしめるようなもんです。
そんな間抜けな計画を立てますかね?ハッハッハッハ…。
いや〜これは失礼。
さしずめあなたは探偵小説の読み過ぎで明智小五郎にでもなったつもりなんでしょう。
そんなつもりはありませんが。
いちいち答えるのもバカバカしいが一応言っときますよ。
研究の結果同じ薬を開発したとでも言えば越歴丸に似た薬を販売しても誰も疑いはしませんよ。
それに今浅原警部が血眼になって行方不明者を探してます。
遺体が別人だと分かれば私の推理は裏付けられます。
ったくこれだから素人は困るんだよな〜。
あんまり頑張り過ぎない方がいいと思うんだけどな〜。
あんたさっきから失敬だね。
あっ…気を悪くされたら失礼。
ただ確かに荒唐無稽な発想が真実を導くこともあるでしょうがそれはあくまでも探偵小説の中の話でしょう?偉そうに…。
あんた殺害現場を見てないでしょうが。
真っ黒焦げになった遺体の脇にほこり一つ付いてない頭巾が落ちてたんだ。
これ見よがしにね。
どう見てもあの遺体をわざと長彦さん…。
(明智)それにですよ!よくできた探偵小説の場合入れ替えトリックは犯人にとって切り札ですよね。
その切り札が一目でバレるなんてやっぱり間抜け過ぎません?ハハハハハ!重ね重ね失敬だねあんたは。
悪いけど素人と油を売ってる暇はないんでね。
失礼するよ。
あ〜ちょっと金田先生。
金田一だ!あんたの新聞社は取材拒否だ。
ハァ〜…大丈夫かなぁ。
(使用人)福助はんちょっとええですやろか?
(福助)何や?若旦那のうならはってたら店どないなるんでっか?やっぱり遺言どおりに閉めなあかんのですか?まだ死んだと決まったわけやない。
あの探偵も遺体は別人のや言うてるらしいし。
心配いらん。
(使用人たち)お越しやす!
(浅原)客ちゃうわ。
探偵おるか?そら向かいや。
(浅原・室岡)えっ?
(浅原)ホンマ分かりにくいなここは。
(室岡)ホンマややこしいですわ。
(浅原)客ちゃうで。
探偵おるか?あっ金田一さんは2階に。
(浅原)ああ。
(初恵)音吉呼んでらっしゃい。
(音吉)へい。
(客)ほなまた来るわ。
ああ…すいません。
ありがとうございました。
何ぞ分かったんでっか?ああ分かったで。
あ〜どうも。
警部がわざわざ僕のことを訪ねてきたところをみるとさては遺体の正体が分かったんですね。
(浅原)ああ。
さっき連絡があってな。
あの遺体は…。
当てましょう。
さっき5日前の新聞を読んだら高槻にキノコ狩りに行った中年男性が行方不明になってますよね。
おそらくそれが…。
(浅原)あ〜あ。
あの遺体は正真正銘元祖の長彦さんやったんや。
はい!?
(福助)えっ!?どういうことです?
(浅原)どうもこうもあるかい。
帝大の法医学教室が解剖した結果な間違いなく長彦さんやって判断したんよ。
あれ?
(浅原)何が入れ替えトリックや。
あんたの言ってることにはな根拠がないねん根拠が。
(浅原)残念やけどこれで元祖は完全に跡取りを失うたことになるな。
(初恵)キャー!
(浅原)何をする気や!こないなったら本家も道連れや!
(浅原)あほなことやめえ!
(福助)うっ!うう…。
くっ…。
くそー!くそー!福助さん…。
もうこんなことやめにしよう。
親も兄たちもずっといがみ合ってきた。
もうたくさん…。
(福助)せやけどうちの店つぶれたら全部お前らの思いどおりやないか!そんなことない!うちの兄もいまだに行方が分からない。
それに私と長彦さんは2年前には契りまで結んでたのよ。
思いどおりなわけないじゃない!うちだけが生き残ろうなんて思ってない。
店を一つにしましょう。
えっ…。
もうみんなも十分でしょ?もともとは一つの店だったんだし私たちがその気になればきっとできる。
(福助の泣き声)フン…。
よし分かった!犯人はサンプク製薬や。
やつらは越歴丸の調合方法を聞き出すために長彦氏を誘拐した。
そやけど長彦氏が抵抗したため殺害した。
これで決まりや!行くで。
(室岡)はい。
ハァ…。
フッフッフッ…。
ハハハハ…。
ハッハッハッハ…。
あっ…。
・・
(浅原)何やこんな早くから。

(浅原)おーい!・何や?何?殺し!?
(刑事)こちらが現場になります。
(浅原)ああ。
(室岡)あっ警部。
(浅原)おう。
これが現場に落ちとりました。
まずはホトケさん拝んでからや。
(室岡)はい。
(警察官)あっお疲れさまです。
く…首が…!う…うえ…。
(室岡)警部?大丈夫でっか!?
(浅原)うえっ…。
(室岡)うわ〜!水や!警部に水!・
(戸をたたく音)
(浅原)福助どこや?どこやて…店も休みやしまだ寝てはりますけど。
(浅原)呼んでこい。
起こしてきて。
(女中)はい。
警部どうされました?まだおったんかあんた。
殺しや。
あっいうてももうあんたの推理はいらん。
犯人が証拠残してったからな。
えっこれ…犯人は福助さん?・
(女中)いやーっ!!
(使用人)おっ…。
(浅原)どないした!?あっ…あっ…。
福助!死んでます。
(浅原)また殺しか…。
自殺の可能性もありますね。
いったいどないなってんねん。
初恵さん!初恵さん!?
(浅原)ったく…せっかく解決した思たのに。
警部。
(浅原)おう。
(室岡)福助の衣類に付いとった血液型ですが首なし遺体のもんとおんなじ型でした。
やっぱり犯人は福助で間違いない思います。
それと現場に転がっとった越歴丸ですが普段から福助は常用しとったみたいです。
まさかそれ飲んで死んだってわけや…。
(せき)あほんだら…。
越歴丸で死ぬわけないやろが。
おんなじ瓶に誰かが毒仕込んだんや。
ああ…すんまへん。
とにかくやつは遺体の頭部をどっかに隠したはずなんや。
府警に応援を頼んで町じゅうくまなく捜索せえ。
はい。

(明智)やあ先生!これまた偶然ですね。
ハァ…だから言ったでしょ。
あんたは取材拒否だって。
(明智)なんでも今度は2人立て続けに死亡したそうですね。
しかも一人は首なし遺体でいまだに首が見つからない。
何度も言うけど素人が首突っ込むのはやめなさいよ。
何する…。
私なりに考え直してみたんです。
だから素人が…。
いったいなぜ犯人は遺体を燃やしたのか。
遺体は長彦さんだと立証されましたよね。
だったら先生が以前言ったように遺体を燃やす理由がありません。
昨夜の事件もそうです。
福助さんが犯人だとしてもなぜ遺体の首を切り取って隠す必要があったのか。
二つの事件に共通しているのはどちらも被害者の顔がすぐには判別できないということです。
まるであの役者のようです。
役者…。
何かこの事件は最初っから芝居じみてたんだよな〜。
芝居?そもそもうり二つの建物が向かい合ってること自体が舞台装置のようだった。
まるで芝居の幕が開くように僕が本家に着いたら事件が起きた。
本家と元祖が舞台装置ですか。
それは面白い。
あっ。
おお…。
(女中)またやってはるよあの人。
(女中)大丈夫やろか?
(明智)《二つの事件に共通しているのはどちらも被害者の顔がすぐには判別できないということです》
(福助)《創業者の遺言で直系の跡取りが途絶えたら店閉めなあかんのです》
(初恵)《兄は私をいつも一番に考えてくれる優しい人でした》そうか…そういうことだったのか!警部分かりました!
(浅原)ん?犯人は喜一郎さんですよ!喜一郎?ええ。
これで全ての説明がつくんです。
ええかげんにせえ〜。
警察は暇やないんや。
小説のネタやったらそこにおる記者にでも話したれ。
待ってください!これはとても複雑に入り組んだ連続殺人事件なんですよ!喜一郎は2年前に姿消してるやろうが。
もし喜一郎さんが犯人だとして最初の事件で遺体が燃やされた理由は説明できるんですか?もちろん!そもそも2年前からみんなだまされてたんですよ。
頭巾をかぶり元祖で越歴丸を作っていたのは長彦さんじゃなくて喜一郎さんだったんです。
何やまたええかげんなことを…。
(明智)どういうことですか?入れ替わってたんですよ最初から。
2年前本家の喜一郎さんが元祖に殴り込み長彦さんに大やけどを負わせました。
もしその被害者と加害者が逆だったらどうでしょう?《喜一郎!》
(喜一郎)《おんどれこら…》《やってええことと悪いことあるやろ!》《おら!》ここです。
凶器となった硫酸を手にしたのは襲われた長彦さんの方だったんです。
《うわーっ!》
(喜一郎の悲鳴)
(福助)《若旦那!》《ああっ!?》《とんでもないことしてしもうた》《せやけど襲ってきたんはこいつの方でっしゃろ》《初恵さんがこのこと知りはったら…》長彦さんは初恵さんと契りを結んだ仲でした。
その初恵さんのお兄さんに硫酸を掛けてしまい彼はとてもショックを受けたはずです。
《どないしよ…》《若旦那逃げてください》すぐに機転を利かしたのはおそらく福助さんでしょう。
被害者と加害者を逆さまにして長彦さんを逃がすことにしたんです。
何でそないなことを?跡取りがいることが店を存続させるための条件ですからね。
もし長彦さんが逮捕されれば元祖は店を畳まなければなりません。
喜一郎さんは頭巾をかぶらされ長彦さんの身代わりをさせられていたんです。
手錠があった理由もこれで説明がつきます。
おそらく頭巾の下は猿ぐつわでもさせられていたんでしょう。
(浅原)そやけどあの黒焦げの遺体は長彦やて証明されたんやで?そうか…。
逃げていた長彦さんがこの町に戻ってきたんですね。
それで入れ替えトリックが成立した。
そのとおり!長彦さんはほとぼりが冷める頃合いを見計らってこの町に帰ってきていたんです。
初恵さんを尾行していたのも長彦さんでしょう。
かつての恋人を一番に心配していたはずですから。
そして彼は喜一郎さんが自分の身代わりをさせられていることを知ったんです。
どうにか元通りに入れ替わることはできないだろうか。
長彦さんは考えた。
ずっと頭巾をかぶっていたわけだから人知れず入れ替わることは可能ですね。
そこで彼はサンプク製薬に話を持ち掛けて薬の調合技術を教える代わりに喜一郎さんを外に連れ出すよう命じたんです。
それがあの誘拐事件でした。
何とまあ…。
そして2人は実に2年ぶりの再会を果たしたんです。
(喜一郎)《この2年間手錠につながれ…》
(喜一郎)《こないな頭巾かぶらされて…》《わいがどないな気持ちで生きとったと思う?》
(長彦)《喜一郎すまん!すまん!》
(喜一郎)《ふざけんなーっ!》喜一郎さんが長彦さんのことを簡単に許せるはずがありません。
《すまん!》《うわーっ!》結果喜一郎さんは長彦さんのことを殺害したんです。
遺体を焼いたのは長彦さんは顔にやけどを負っていなかったからです。
もしそのまま見つかれば鴇屋は大混乱に陥るでしょうからね。
(浅原)ほしたら喜一郎は今どこに?
(ため息)残念ながら殺害されました。
あの首なし遺体か!なるほど…。
喜一郎さんは福助さんにも復讐をしようとしました。
しかし逆に返り討ちに遭ってしまった。
(浅原)せやったら福助の越歴丸に毒仕込んだのも喜一郎か?ええ何せ彼が調合していたわけですから。
全ての筋が通りますね。
説得力あるな〜。
(室岡)はい。
(明智)これで無事解決となれば初恵さんはさぞかし喜ぶでしょうね〜。
何言ってんだよ!彼女は実の兄が殺人犯だということをこの僕から知らされるんだぞ!いやそういう意味じゃ…。
あ〜チクショー!愛する人を傷つけてしまうなんて僕は男として失格だ。
愛?警部一つお願いがあります。
(初恵)金田一さんお食事の準備ができました。
金田一さん?「貴女をお連れすることが出来ないことをまづはお詫び申し上げます」「私は予定を一日早め帰郷することと致します」「鴇屋の跡取りは貴女しか居ません」「どうかここは大阪に残り鴇屋の為にご盡力ください」「事件の謎は解明しましたが私の口からお傳へしない方がいいでしょう」「全て浅原警部に託しました」「どうかお体に気を付けて。
金田一耕助」・
(女将)いらっしゃい!
(明智)寒いね〜今日も。
うどんでももらおうかな。
(女将)はいよ。
お客さん新聞記者さんやろ?よくご存じで。
(女将)狭い町やもん。
鴇屋さんも色々あって大変だね。
(女将)大丈夫よ。
越歴丸があるんやから。
これを作れるのは日本広しといえども鴇屋だけなんやから。
(明智)確かに。
それに本家の方はちょっとほっとしとるんちがうか。
えっ?
(女将)ここだけの話ここ最近本家の客が元祖に流れとるっちゅう噂があったから。
へえ〜。
それは初耳だな。
どこかこの辺に電話はあるかな?もしもし浅原やけど。
何や記者さんかどうした?何やて?さっきの推理は間違うとった?金田一がそう言うたんか?・
(戸をたたく音)・
(女性)鴇屋さん開けてください!急患です!・
(戸をたたく音)・
(番頭)何や朝っぱらから。

(女性)開けてください!お願いです!・
(戸をたたく音)
(番頭)あ…おい。
(音吉)はい。

(戸をたたく音)はい。
(女性)すんません朝早うに。
うちの人が発作起こしてしまって越歴丸を分けてもらえませんか?
(番頭)音吉!
(音吉)へえ。
(番頭)さあさあどうぞどうぞ。
すぐ用意しますさかい。
(音吉)お待たせしました。
お嬢さん…。
・そうですよね。
その薬を売れるはずがありません。
福助さんのように中毒死する可能性がありますから。
(女性)ねえどうやった?私の演技。
ありがとうおばちゃん。
悪かったね朝早くから。
警部お待たせしました。

(浅原)おう!いったい何がどないなっとんねん?いや〜実に難解極まりない事件でした。
おかげで私も色々と寄り道をしてしまってサンプク製薬が犯人だとかあるいは喜一郎さんが犯人じゃないかとか。
今考えると荒唐無稽な推理をしてしまいました。
(浅原)荒唐無稽って…せやったら昨日の推理は?忘れてください。
(浅原)おい…。
ようやく全てが明らかになったので今日は皆さんにお集まりいただきました。
あっ…元祖のトモばあさんは病院にいらっしゃいますがそれで結構です。
なぜなら今日は事件に関わった犯人全員に集まってもらったからです。
(浅原)犯人って…誰が?ですからトモさん以外のここにいる全員です。
(浅原)全員?ええ。
全員で協力しなければならない仕掛けが施されていたんです。
何や金田一さん今日雰囲気ちゃうな。
ああ…。
ところで町でこんな噂を聞いたことがあります。
本家の客が元祖に移り始めたらしいと…。
《ここ最近本家の客が元祖に流れとるっちゅう噂があったから》まったく同じ薬を売っているのにどうして客は店を乗り換え始めたのか。
考えられる理由は一つしかありません。
本家の越歴丸が効かなくなったんです。
何を言いだしはるんですあなた。
初恵さんあなた本当は越歴丸の調合方法を知らないんじゃないですか?そんなことあるわけないやろ。
越歴丸の調合技術を知る跡取りだけが店を継ぐ。
それが創業者の万右衛門さんの遺言でしたよね。
それを受け継いだのは元祖の長彦さんと本家の喜一郎さんのお二人だけだったんじゃないですか?しかしあなたはあたかも自分も継承者であるかのように振る舞い本家の跡取りを装っていた。
部屋には誰も入れずに喜一郎さんが残した薬の在庫でしばらくはしのいでいたのでしょう。
しかし失踪から2年がたちついに在庫が切れ始めおそらくあなたが見よう見まねで作った何の効能もない越歴丸もどきと喜一郎さんの本物とを交ぜて売ることにした。
その結果客が元祖に移りだしたんです。
初恵さんは焦ったはずです。
このままでは全ての客が元祖に行ってしまう。
そんなとき長彦さんが投げ文を使って逃亡を計画していることに気付いたんです。

(初恵)《「タスケテクレココカラ出シテクレ」》私は昨日黒頭巾の男は喜一郎さんだと言いましたが訂正します。
あれは間違いなく長彦さんです。
何やもうややこしい。
顔にやけどを負い客商売ができなくなった長彦さんは福助さんによって半ば幽閉される形で薬を作らされていました。
もしもその長彦さんが逃亡してしまったら本家にも元祖にも越歴丸を作れる者がいなくなってしまう。
そこで初恵さんは福助さんに相談を持ち掛けたんじゃないですか?長彦さんは裏切ろうとしている。
そんなことになれば鴇屋は終わってしまう。
裏切り者は排除すべきだ。
そして両家を一つにして自分たちが実権を握ろう。
店が一つになった暁には所帯を持とう。
…とでも言って福助さんを懐柔したのでしょう。
そして2人は長彦さんを河川敷に連れ出した。
(長彦)《これが調合表や》《このとおり調合すれば越歴丸が作れる》《せやから頼むわ!命だけは助けてくれ!》
(長彦)《頼む…頼む!助けてくれ!助けてくれ!》
(福助)《はあっ!》
(長彦)《あっ!》《お前らこんなことして…》《呪われんぞ…鴇屋は絶対呪われんぞ!》《やかましい!》
(長彦)《あーっ!》実に非情で冷酷な犯罪です。
そしてそんなこととはつゆとも知らず私は大阪に到着したのです。
《ごめんください》
(初恵)《あの…》《金田一耕助先生でいらっしゃいますか?》《あっ…はい金田一です》初恵さんは長彦さんの殺害を隠蔽する必要がありました。
そこでまだ実績もなく土地勘のない若手探偵を呼んで一芝居打つことにしたんです。
それがここにいる皆さん全員で仕掛けたあの誘拐事件です。
警部あのとき不可解なことがありましたよね。
南に逃げたはずの犯人の足取りがまったくつかめなかった。
ああ…南側では目撃情報すら得られへんかった。
その理由は実に単純なことでした。
私が南だと思っていた方角は実は北だったんです。
えっ…ちょっと意味分からんわ。
すいません。
例のものをお願いします。
私が初めて鴇屋を訪れたときこの本家と元祖は入れ替わっていたんです。
何やて?あの夜誘拐事件は私の目の前で起こりました。
《待て!》《待ちなさい!》私はまず初めに元祖の調合室に向かいました。
(初恵)《金田一さん》《警察に連絡してるんですが誰も出なくて…》《あっちょっと待ってください》もちろんあの投げ文もサンプク製薬に目を向けさせるための仕掛けです。
《とにかく警察にすぐに連絡した方がよさそうですね》《私直接呼びに行ってきますね》《いやいやお嬢さまにそんなことさせられません》《私がひとっ走り行ってきます》
(琢磨)《誰もいてまへん》
(頭巾の男)《ご苦労やったな》《越歴丸の調合法は後で連絡するさかい》《今はとにかく逃げてくれ》おそらく頭巾をかぶって長彦さんに変装していたのは福助さんでしょう。
待てやあんたさっき頭巾の正体は長彦やて言うたやないかい。
ですから長彦さんは私が大阪に到着する前にすでに殺害されていたんです。
そこであの日だけは福助さんが代わりを務めたってわけです。
そして私が警察を呼びに行った隙に両家はいつもどおりの配置に戻った。
(初恵)《ほらみんな急いで!》《終わったらすぐに物置に移動して》《分かった。
おーい急げ!》ちょっ…あんたそりゃなんぼ何でも…。
突拍子がありません。
しかしそうしなければならない理由があったんですよ。
(浅原)トラック逃がすためか?それだけじゃありません。
もう一つ大きな理由がありました。
それがここにいない入院中のトモばあさんです。
えっどういうことや?聞いた話だとトモさんは病院を嫌がってずっと部屋にこもりきりだったそうですね。
無理に連れ出そうとすると暴れるので皆さんずいぶん手を焼いたとか。

(割れる音)・
(悲鳴)そんなトモさんは大きな音にはとても敏感だった。
もし隣室で誘拐が行われていたら心臓病を抱えたトモさんは間違いなく発作を起こしていたでしょう。
だからあの夜だけは本家と元祖を入れ替えざるを得なかったんです。
確かに誘拐事件の夜あのばあさんだけ平然と寝とった。
お前らホンマなんか?ホンマにみんなで仕組んだ芝居やったんか?役者をさせられた皆さんには同情を禁じ得ません。
初恵さんのもくろみなど皆さんは知らなかったはずです。
金田一という探偵が越歴丸の秘伝を盗み出そうとしている。
店のために協力してくれとでも言われたんでしょう。
利用されたのはサンプク製薬も同じです。
彼らは越歴丸の調合方法を知りたかっただけで殺人犯に仕立て上げられるとは思ってもなかったでしょう。
ありがとうございます。
長彦さんの遺体を燃やしたのも実に単純な理由でした。
あれは身元を隠すためではなく犯行時刻をごまかすために燃やしたんです。
繰り返しますが私が大阪に来る前に長彦さんは殺害されていましたから。
そして初恵さんは福助さんと涙の芝居を演じてみせた。
《福助さん…》《もうこんなことやめにしよう》そしてもくろみどおりの筋書きに持っていった。
《店を一つにしましょう》これで私さえいなくなれば全てが丸く収まるはずでした。
しかし偶然とは恐ろしいものです。
2年間失踪していた喜一郎さんが町に戻ってきてしまったんです。
喜一郎?喜一郎さんは初恵さんと会うのをちゅうちょしたんでしょう。
様子をうかがうつもりで福助さんに会いに行った。
それが誤算でした。
福助さんにしてみれば今喜一郎さんに戻ってこられたら全てが水の泡になってしまいますからね。
《か…堪忍してくれ!》《頼む!》《あーっ!》やめてーっ!喜一郎…。
奥さん…。
奥さま。
奥行きまひょ。
(番頭)すんまへん。
さあ行きまひょ。
さあ…。
それで?福助さんは遺体が喜一郎さんだと分からぬように頭部を切断しどこかに隠しました。
そして自室に戻り越歴丸を飲み死亡したんです。
越歴丸を!?ええ。
彼が飲んだのは長彦さんから聞き出したとおりに初恵さんが調合した越歴丸だったんです。

(初恵)《ついにできたの》
(福助)《そうか》《ちょうどうちの越歴丸の在庫がのうなったとこやったんや》《これでやっと俺らの店が開けるんやな》《ううっ…!》
(うめき声)しかしあなた方が殺人まで犯して聞き出したのは実は毒薬の調合方法だった。
だからあなたは死亡した福助さんを見て気絶するほどショックを受けたんじゃないですか?あなたと長彦さんは一度は契りを結んだ仲でした。
しかしあなたはそんな長彦さんを冷酷な手段で裏切った。
彼が越歴丸と偽って毒薬の調合方法を教えたのはそんなあなたに対する最後の抵抗だったんじゃないですか?それに気付いたあなたはかくなる上はこの町から逃げ出すしかない。
そう思った。
以上がこの事件の顛末です。
(初恵)驚きました。
よくもそんなでたらめを考え付くもんですね。
でたらめ?もうおしまいにしましょう。
空想は聞き飽きました。
福助さんの葬儀の準備もあるし…。
ほらお前たちも早く戻って準備なさい。
何してるの?ほら早く!音吉!で…できまへん…。
音吉…。
怖かった…。
いつバレるか思うてずーっと怖かった!・
(足音)・
(室岡)警部!
(室岡)あっありました。
首が…。
(浅原)おっどこにあった?
(室岡)神社の裏の林に埋められてました。
首だけでしたか?
(室岡)いえ。
この帽子や巾着も…おそらく喜一郎さんの。
(浅原)見せてみ。
これ喜一郎の手帳か。
初恵さん実は一つだけ分からないことがあったんです。
どうしてそこまでしてあなたは跡取りにこだわったのか。
ですが昨日入院しているトモばあさんに話を伺いましてね。
あなたのことを色々と教えてもらったんです。
(トモ)《長彦があの女を好きになってしもうたんや》《そっから全部おかしくなったんや》《というと?》《ほやかてあの女は…初恵はめかけの子やで》《あの子の父親が東京の女に生ませたんや》《商売敵のましてやめかけの娘を長彦の嫁になんかもらえるはずない》《そんなことしたら鴇屋は呪われるんや》あなたはこの鴇屋蛟龍堂の本当の娘ではなかった。
越歴丸の調合方法どころか喜一郎さんがいなくなるまでは本家でも使用人同然に扱われていた。
一方元祖もあなたが長彦さんの嫁になることを認めてはくれなかった。
あなたは行き場をなくし…。
(初恵)あなたに何が分かるの!血はつながってるのにめかけの娘には何一つ与えられない。
小間使いとしてしか扱ってもらえないの。
それがどんなに惨めでむなしいかあなたに分かるはずないじゃない!私はずっと独りだったのよ。
(浅原)ちょっといいか?
(浅原)「初恵には可哀想なことをしてしもうた」「残してきた初恵のこと考えたら心が痛む」「初恵は無事に長彦と祝言挙げたやろか」お兄さんの日記やで。
(浅原)2年前あんな事件起こしてもうて逃げてる間ずいぶん後悔したんやろな。

(浅原)あんたと長彦が結婚してこの店が一つになったらそれが鴇屋にとって一番や。
そう思うたからずーっと逃げてたんやろな。
そやけどそういうお兄さんの気持ちはあんたには伝わらんかったいうことか。
「ずっと独りだった」ってさっき言いましたよね。
本当にそうだったんでしょうか?今回の計画だって音吉さんをはじめ使用人の方々は快く引き受けてくれたんでしょ?冷たく扱われながらも何とかはい上がろうとしているあなたの思いはここにいる皆さんにも伝わっていた。
だからあなたを信じ誘拐事件にも協力してくれたんですよ。
あなたは…。
決して独りじゃなかった。

(初恵の泣き声)兄さん…。
兄さん…。
うわーっ!どうした?金田一!いやちょっとあの…発声練習をね。
あ!あ!やっと昨日家賃払って母ちゃん今機嫌がいいんだからさ。
あんま刺激すんなよ。
うんそうね…ごめんね。
ハァ〜。
何で?
(明智)このたびはお世話になりました。
(浅原)何をおっしゃいますやら。
いや〜昨日の推理には度肝を抜かれましたよ。
まあ一番驚いたんは推理の後やったけどな。
それは大変失礼いたしました。
(浅原)いやいや…。

(浅原)《いや〜金田一君》《今回またずいぶん世話になったな》《せやけど君も見掛けによらずなかなか…》《へっ?》《あ〜!》《ハァ〜蒸れるわこれ》《肌荒れそう》
(浅原・室岡)《えーっ!?》
(3人)ハッハッハッハ!せやけど天下の明智先生が何でわざわざ金田一に変装を?
(明智)今回は彼がほとんど解決したようなもんですから。
またまたご謙遜を。
事実ですよ。
本家と元祖の入れ替えトリックはあの場所を舞台に見立てた彼の意見を参考にしましたし喜一郎さんが事件に絡んでいると看破したのも金田一君です。
ただ一つ。
お二人は覚えてらっしゃいますか?
(明智)《これで無事解決となれば初恵さんはさぞかし喜ぶでしょうね》《何言ってんだよ!》《彼女は実の兄が殺人犯だということをこの僕から知らされるんだぞ!》《いやそういう意味じゃ…》あのとき私はもし初恵さんが犯人だとしたらさぞかし喜ぶでしょうねという意味で言ったんですが彼は初恵さんを疑うつもりは毛頭なかったようです。
そのとき思ったんです。
もし金田一君の推理に盲点があるとしたらそれは初恵さんなんじゃないかって。
なるほど…。
それにああやってがむしゃらに謎を追う姿を見て何か無性にうれしかったんです。
私も初心に帰ることができました。
彼には感謝してます。
あっ…私はこれで。
駅まで送りましょうおい!
(室岡)はい。
(明智)いや結構です。
大阪は黒蜥蜴の事件以来ですからね。
通天閣辺りでうまい物でも食べてぼちぼち帰りますよ。
では…。
お前さいつまでそうやって転がってるつもりだ?玉ちゃん僕は今人類史上最も難解な謎に挑んでるんだ。
1週間も転がり続けてることの方がよっぽど謎なんだよ。
東京にいたはずの探偵が大阪にいて事件を解決し新聞に写真が載った…。
これはもう分身の術とか瞬間移動とかそういうオカルトの領域の話であって…。
分かった分かった。
さらに言えばあんなに美しくて清楚で可憐な初恵さんが犯罪に手を染めていたなんて僕はいまだに信じられない。
もううるさい!異臭がするって隣から苦情が来てるんだ!さっさと風呂に行け!金田一!あっあいつ東京に…。
おいブン屋!これはこれは金田一先生じゃないですか。
なあ教えてくれ。
大阪でいったい何があったんだよ。
何がって…先生が見事に謎を解いたんじゃないですか。
だから私は記事にさせてもらったんですよ。
そんなはずがないんだよ。
あれから1週間考え続けたが皆目検討がつかない。
もうこうなったらあの人にお願いするしかないのかもしれない。
あの人?この謎を解けるのは世界にただ一人。
明智小五郎先生だ。
あら?金田一先生あなたは大胆で見事な発想力を持っています。
自分を信じて精進すればきっと日本中が注目するような探偵になれる。
私が保証しますよ。
(小林)あの…先生そろそろ時間が。
じゃあわれわれはこれから芝居を見に行くんでこれで。
ん?ハッ!嘘…。
ちょっと待って…先生?明智先生?明智先生!先生!明智先生!2015/02/11(水) 14:57〜16:48
関西テレビ1
金田一耕助vs明智小五郎[再][字][多]

「八つ墓村」、「犬神家の一族」の金田一が名探偵明智と世紀の推理対決!切断された頭部、黒頭巾の男、黒焦げの焼死体…予想を全て裏切る、奇怪な連続殺人の謎!

詳細情報
番組内容
 本家トキ屋拘蛟龍堂〈こうりゅうどう〉と元祖トキ屋拘蛟龍堂は長年いがみ合ってきた歴史を持つ薬問屋。万右衛門〈まんえもん〉が一代で起こした薬問屋で越歴丸〈えれきがん〉という薬を開発、万右衛門が病に倒れた後は2人の愛弟子に調合法を伝授。愛弟子は犬猿の仲だったため憎み合った末に本家と元祖という2つのトキ屋拘蛟龍堂が生まれてしまった。ある日、ついに事件が起きる。本家の長男・喜一郎(遠藤要)が元祖の若旦那・
番組内容2
丸部長彦(忍成修吾)のもとに殴り込みもみ合いの末、長彦に劇薬をかけて失踪してしまうという事件が起きる。
 2年後。金田一耕助(山下智久)は事件を1つ解決し新聞にも初めて取り上げられたものの、家賃も滞らせてしまうほどまだまだ駆け出しの探偵。そんな、金田一のもとに依頼が舞い込み、早速依頼者の元に走る。向かったのは本家トキ屋拘蛟龍堂。依頼者はトキ屋拘蛟龍堂の長女で喜一郎の妹・初恵(武井咲)だった。
番組内容3
その美しさに息をのむ金田一。初恵は最近何者かに尾行されているという。が、まだこの時はこの先に待ち受けている世にも残忍かつ冷酷、そして巧妙なトリックの上にトリックが潜む事件だとは金田一も知るよしもなかったのだった…。そのころ新聞で金田一が偶然現場にいたことにより、事件解決という記事を読んでいる明智小五郎(伊藤英明)の姿が。金田一に興味を持った明智は、早速金田一の元を、身分を隠して訪れるのだった。
出演者
金田一耕助: 山下智久 
善池初恵: 武井咲 

〈本家〉
善池喜一郎: 遠藤要 
善池芙佐子: 朝加真由美 
音吉: 柄本時生 

〈元祖〉
丸部長彦: 忍成修吾 
丸部トモ: 草村礼子 
福助: マギー 

小林少年: 羽生田挙武(ジャニーズJr.) 
浅原警部: 益岡徹 

明智小五郎: 伊藤英明
スタッフ
【原作】
芦辺拓『明智小五郎対金田一耕助』(原書房) 

【演出】
澤田鎌作 

【脚本】
池上純哉 

【プロデュース】
牧野正 
後藤博幸 

【ラインプロデュース】
椿宣和(角川映画) 
千綿英久(角川映画) 

【制作】
フジテレビ

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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サンプリングレート : 48kHz
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