「NHK俳句」第2週の選者は小澤實さんでいらっしゃいます。
どうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
今日の兼題は「下萌」。
冒頭の句は小澤さんの句。
前方後円墳の下萌を詠んでみました。
堺市の…。
大阪府の。
はい。
仁徳天皇御陵の印象ですね。
やはり草がこう…。
生えてくるあれですね春になると。
そのころ行かれた?ええ。
はい。
今日もよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
さあ今日のゲスト。
今日のゲストは評論家の矢野誠一さんにお越し頂きました。
よろしくお願い致します。
こんにちは。
どうもよろしく。
矢野さんは演劇演芸評論の第一人者でいらっしゃいますけれども東京やなぎ句会のメンバーとしても知られていらっしゃいますね。
もう45年になりますね。
改めてどんな句会か教えて頂けますか?そうですね。
最初みんな全く俳句の「は」の字も知らなかったのがあるきっかけで集まって12人なんですけど。
小沢昭一さんだとか永六輔さんだとかがとっても忙しい時期だったんです句会始めた頃。
でもう彼が駄目な時は彼は駄目だみたいな。
それで結局じゃあもうみんな俳句の五七五だから17日って決めちゃって毎月17日にもう決めてから…。
こんなに長く続いた原因ってのはね僕はやっぱり休めないんですよ。
休むと何言われてるか分かんないんです。
割に厳しい人たちでしょ?みんな。
本当に辛辣な事を言い合うんでそれが逆に自分が休んでる事によって自分のあれを他人が言ってくれるという事…何かやっぱりそういう意味で相当成長してきた過程にはなってるんじゃないかなと。
こういうメンバーの…。
小沢さんがね亡くなられて…。
まだ元気だった頃ですね。
この句会に小澤實さんも?はい。
去年の夏伺って大変衝撃を受けました。
そうなんですか。
集まって句を作るんですけれども作ってる間に互いを邪魔するために雑談を繰り出してくる訳ですよ。
作らせないようにするって事ですか?そうなんです。
その雑談がとっても内容が濃くて面白くてなかなか作れないんです。
おまけにお酒も出ちゃって。
私初学の頃から句会というのは非常に厳しい修業の場だというふうに教わってきたもんですからその句会の概念をだいぶ飛び出たすごい句会だなと思って。
今は本当にお酒飲む人少なくなっちゃって今は本当に好きなのは僕ぐらいなんですけどもあと加藤武さんがちびちびってやるくらいで。
昔はやなぎ句会酒部ってのがあったんです。
お酒飲む連中。
僕と江國滋とそれから桂米朝さんとそれから三田純市っていう大阪の…。
みんな吟行行きますでしょ?食事の時や何か「はい酒部はこっち」って。
へえ〜。
でもそういう雰囲気の中でも名句がたくさん生まれてますけど今日は実はその「下萌」で一句作ってきて下さってるんですね。
ご紹介頂けますでしょうか?「徳三郎」これは俳号でらっしゃるんですね?これはねやなぎ句会作った時にみんな俳句の「は」の字も知らないのに俳号だけはみんな作ろうっていう事で。
どういうそれは意味が?僕は落語好きだった。
落語の中で若旦那で二枚目が徳三郎って名前なのみんな。
そういう名前を付けたけど。
まだ若さもあったんで。
その俳句は「下駄の道」ですね。
こないだ久しぶりに下駄履きましてねそうしたら学生時代あんなに履いてたのにとってもくたびれるんですよ。
道が結局舗装されちゃってるっていう事が一番原因なのかなとも思って。
やっぱり下萌を見ながら下駄で歩くっていうのはいいんじゃないのかなっていうふうな事から…。
いいですね描く気分がよく出ていて。
下駄履いて足の皮膚で下萌を味わってるっていう感じがありますね。
すてきな句だと思います。
そうですか。
ありがとう。
また後ほどお話をお願い致します。
それでは入選句ご紹介してまいります。
まず1番です。
飛鳥寺というのが日本で最初のお寺で明日香村に造られた訳です。
「明日香村には飛鳥寺」というのは大変調子がいいし「下萌」と取り合わされて日本仏教のあけぼのみたいなそんな飛鳥の時代の希望にあふれる未来というようなものも感じさせてくれました。
レンゲの畑もずっとありますしね。
格調高いですね。
では2番です。
「草萌」というのは「下萌」の派生季語になります。
放ち飼いをしている山羊を太鼓を打って呼び返して餌でもやるんでしょうね。
太鼓が山羊を呼ぶ道具になっているっていうのが何か懐かしくていいですね。
そうですね。
3番です。
まず内から拭いてそして外に回って拭いていると。
そして外の下萌にも気付いたという感じの句ですね。
室内の空気と室外の空気の寒さの違いみたいなのも感じ取られて気持ちがいいですね。
いかがでしょうか?僕もこの句好きですね。
僕はここんとこずっと集合住宅なもんですからねもちろん窓ガラス外からも拭くんだろうけどもベランダですからねやっぱり下萌っていうのはやっぱり一戸建てのおうちの住んでるよさだろうなと。
建物が見えてくる訳ですね。
そうなんですよね。
それいいですね。
では4番です。
この「岬馬」は野生馬なんでしょうね。
野生馬の観察をしておられて春になっていよいよ艶がよくなってきている岬馬だという訳ですね。
「いよよ艶良き」っていうのが調子がいいですね。
それで「いよよ」。
「いよいよ」の意味なんですが「いよよ艶良き」の調子よさに引かれました。
では5番です。
これはどういうあれなのかしら?ちょっと面白い句だと思うんですけれどもラジオを聞いていてそのラジオに大陸からのラジオ番組が入ってくると思うんですよね。
中国語かロシア語か。
日本海側ですからね。
あそれで新潟。
なるほど。
そして下萌を感じているという事です。
恐らく中国大陸の下萌まで想像されてるんじゃないでしょうか。
大きな句だと思いますね。
6番です。
下萌で草の芽が出てくるんですけれどもせっかく出てきた芽の所に砲丸投げの玉が落ちてきちゃって。
跡が…。
そうですね。
潰されちゃう訳でしょうね。
かわいそうな下萌でしたねこれは。
7番です。
運動の様子を具体的に詠まれました。
片足立ちをして20秒っていうのはなかなかの時間だと思うんですけれども訓練されているところをよく出して春の喜びというものを体で表現されてます。
8番です。
今日の選んだ句の中でこれだけが一物仕立の句でした。
下萌でうれしいんですけれども生えてきたものを見てみるといずれも外来のもので日本原産のものはないという事ですよね。
ちょっとうれしいんだけれどもがっかりだみたいな事があって面白い句だと思うんですがいかがでしょう?そうですね。
それとやっぱり相当植物に詳しい人ですねこれ詠んだ人はね。
僕らじゃちょっと見ただけじゃなかなか。
ただ喜んでるだけですけどね。
9番です。
畑を作るために肥桶を担いでそれを持っていってまくんでしょうね。
そして周りは下萌をしているという。
ちょっと時代を感じさせる句ですよね。
いかがですか?これは僕らと同世代の人だろうなこの作者。
「学童」っていう言葉だとかそれから「肥桶」やっぱり戦争直後か…。
時代感じますね。
ご自身は疎開などでこういうふうなご経験は?疎開は僕しないで済んだんですけど同世代全部してますしね。
やっぱり学童疎開って言葉も懐かしいっていうか懐かしく…。
時代を感じさせる言葉ですよね。
最近子どもたちは体験学習でこういう事もやったりもしますけどもね。
こういう事をしなきゃいけないですよね。
そうですね。
以上が入選句でした。
特選三句をご紹介する前に「俳人のことば」をご覧下さい。
稲畑汀子さんが「ホトトギス」の主宰になった同じ頃最愛の夫が病に倒れました。
あのね主人が昭和55年の9月9日に亡くなりまして大体1年間の闘病生活をした訳ですけどもその1年間の間にやっぱり希望も持っておりましたしそんなに悪いというふうな意識はなかったんですけどねでもやっぱり最後の方になると楽にしてあげたいなという気持ちがございましたね。
主人が9月に亡くなってで1月に誘われましてね。
「鶴を見にいらっしゃい」って言って下さいました方がございまして。
その時に広い空をそのおっきい鶴が空を真っ暗にしてねバ〜ッとみんな群れをなして飛んでいる。
その姿を見てね何か私はちょっとまだ悲しみから抜けきれないなというその思いがす〜っと消えてくような感じがしたんですね。
特選句です。
まず第三席はどちらでしょう?和田康さんの句です。
二席の句です。
野口沙魚さんの句です。
一席はどちらでしょう?鳥越世史子さんの句です。
「外からも拭く」の「も」という助詞がよく働いていました。
この「も」によって内をまず拭いてそして外へ出たという時間の経過広がりが出ましたね。
「も」が効いてました。
以上が今週の特選でした。
ご紹介しました入選句とそのほかの佳作の作品はこちらの「NHK俳句」テキストに掲載されます。
俳句作りのためになる情報も参考になさって下さい。
続きまして…ここを変えれば入選していたというあと一歩をクリアーするポイントを教えて頂きます。
俳句で使う色彩は1つに限るという事をお話ししたいと思います。
こちらの句で。
僕と同じで古墳を詠んでおりますけれどもこの「雲が白い」「草青む」というふうにこれは白と青という2つの色彩が出ています。
私それがちょっと気になってしまってこの白と青を2つ出した事で読者を感激させようとしてるんじゃないかという…。
対比させて読みがちです。
そのねらいが見えちゃってるところが僕は残念だと思うんですよ。
そうですか。
「草青む」というのが「下萌」の派生季語でありましてこれは残したい。
そのかわり「雲白き」の「白」は消しておきたいと。
それで「白き」を「出づる」に致します。
隠しますね。
こうしますと「草青む」の「青」に色が集中します。
そして白が消えましたけれども雲の奥に隠れて存在するのであまり意味としては全然問題ないと思います。
色を1つに絞るという事大事だと思います。
作為を消すという事ですね。
それではここで投稿のご案内です。
4月からの新年度は選者が変わります。
第2週の選者は星野高士さんです。
それでは小澤さんの年間のテーマ季語について知っておきたいこと。
今日は無季の句についてお話し致します。
無季の句というのは季語の入っていない句という事になりますね。
俳句において季語というのはとても大事なので初心者にはお勧めできません。
ただ無季の句を一生懸命作っている皆さんもいらっしゃいましてこういう句がございます。
「潦」というのは水たまりの事です。
自分が死んだあといつも使っている乗換駅に今も変わらず今と変わらず水たまりがあるという事を詠んでる訳ですね。
自分自身の存在よりも水たまりの方が重いという事は言ってみれば自分自身の存在の肉体の軽さみたいな事をはかなさみたいなものを詠まれてると思うんです。
「死」という言葉が入っていましたけれども死のにおいの大変濃いそして色彩のない句ですよね。
それが無季の句の特徴になるんではないでしょうか。
そして季語の入ってる句を有季の句というんですけれども有季の句の特質というものも際立たせてくれると思うんです。
この無季の句に比べると有季の句というのは色彩がある。
季語というのは色彩が入ります。
そして季語というものは命を歌うという事がありますね。
さまざまな命が加わる。
季語有季は命。
有季は色と命というものが含まれるという事が無季の句を脇に置くとより際立つんではないかと思うんですね。
無季と有季というのは対立するんではなくてお互いにそのすばらしさを際立たせる2つの句の世界であるというふうに考えています。
それにしてもその無季の句いかがですか?難しいですね。
僕も俳句始めて…。
要するに制約がない訳でしょ?無季っていうのは。
季題の。
そういうのは特に僕なんか仕事が評論ですからやっぱりどういう事書いてくれって頼まれて書く事が多いから何にもなくいきなりってのはちょっと…。
季語の力がなくてもそこで一句を…。
大変難しい道なんですよね。
さあここからは小澤さんとまた矢野さんとお話をして頂きたいと思いますが矢野さんの師であります戸板康二さんですね。
久保田万太郎と交流が深かったという事ですけれども。
僕はなかったんですけど戸板先生が先生師匠として。
まあいろんな芝居も書いてる小説もあるエッセーもある…。
やっぱり俳句が抜群ですねあの人は。
特に万太郎の句に注目してらっしゃるのは?やっぱり人事句で。
花鳥諷詠じゃなくて人間を描いてる人事句。
特に挨拶句。
挨拶句のそうしますとこの句をご紹介頂けるんですね。
これ「法學士堺なにがし」っていうのはフランキー堺さんの事なんですよ。
久保田先生も慶應だしフランキーさんも慶應でだから後輩になる訳ですよね。
それがお正月ちょっと年賀の挨拶された時にフランキー堺ってのはあのころちょうど占領下でアメリカ文化が席巻してた時に非常に当人としてもモダンな感じでドラムたたいて。
そういう事をそうじゃなくて本質は法學士なんだというふうな褒め言葉っていうか。
その辺で「堺なにがし」っていう…「フランキー」を「なにがし」という。
非常に久保田さんらしいと。
そうですね。
「法學士」っていうふうに出したところでフランキーさんの教養みたいなものもちゃんと述べられてそして「なにがし」っていうところで一方でちょっとその一面を見せているっていうのが複雑ですよね。
複雑な味でどうしてもフランキー堺以外の誰にも通用しない句にしてるっていうのが見事ですよね。
やっぱり本当に人間の本質を瞬間的に見抜くみたいな…。
恐らく初対面だったと思うんですよね。
もちろん名前や何かは知ってても。
その辺の鋭さみたいなものを感じますね。
もう一句そうしますとこちらの挨拶句もあるんですね。
これは六代目の名優の中村歌右衛門さんが芝翫から歌右衛門の名前を襲名する時のお祝い句ですよね。
歌右衛門ってのはもちろん大名跡だしあれなんだけどそれにしてもその前の名の芝翫っていうのも江戸歌舞伎からのずっと伝統的な大看板だし。
それを「捨てるに惜しき」って…それと「ゆく雁や」ってのは雁が去ってく時でしょ?だからその芝翫って名前を捨てていくそれもちょっと惜しいんじゃないか。
うまいですね。
うまいですね。
「ゆく雁」が抜群ですね。
この季語の斡旋が。
その挨拶句についていかがですか?やはり挨拶句っていうのはその人だけにしか通用しないそしてその瞬間しか通用しない。
でなければ生きないっていうものではなくてはいけなくてそれを万太郎っていう人は見事に成し遂げてますね。
そして私たちは万太郎が作った時からだいぶ時間がたってるんですけれどもそれでも万太郎とその人たちとの出会いっていうのを生き生きと感じさせてくれてるというのがあせてないっていうのがすごいですよね。
すごいですね。
やっぱり挨拶って大事な事でしょ?それを単によいしょみたいに捉えちゃうと僕はいけないと思うんですよね。
しっかりした挨拶きちんとできる人が少なくなってきたみたいな話も聞くし。
日常でもね。
そういう事でやっぱり俳句でも難しいですね。
そうですね。
俳句っていうと今は現代は作品とか芸術とかになっていて挨拶性っていうのはちょっと忘れているところがあると思うんですけれどもその原点である挨拶っていう事を万太郎の句を読んで再確認するっていう事はとっても大事な事じゃないかなと思うんですけども。
俳句にもそして日常でもやっぱり挨拶非常に大事。
それを今日は改めて…。
挨拶ができれば人間としてやってけるって事ですよね。
本当にどうもありがとうございました。
今日は矢野誠一さんにお話を伺いました。
ありがとうございました。
小澤さんまた次回もどうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
2015/02/11(水) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK俳句 題「下萌」[字]
選者は小澤實さん。ゲストは評論家の矢野誠一さん。「東京やなぎ句会」のメンバーとして45年もの句歴を誇る。矢野さんの師、久保田万太郎の挨拶句についてお話を伺う。
詳細情報
番組内容
選者は小澤實さん。ゲストは評論家の矢野誠一さん。「東京やなぎ句会」のメンバーとして45年もの句歴を誇る。矢野さんの師、久保田万太郎の挨拶句についてお話を伺う。【司会】桜井洋子アナウンサー
出演者
【出演】矢野誠一,小澤實,【司会】桜井洋子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
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