100分de名著 フランケンシュタイン(新番組)<全4回> 第1回「“怪物”の誕生」 2015.02.11


死体からつくられた人造人間の物語「フランケンシュタイン」。
映画や舞台などが有名なあまり原作小説にまつわる誤解も多い作品です。
小説は産業革命で急速に近代化したイギリスで生まれました。
作者はメアリ・シェリー。
執筆当時は結婚したばかりの19歳でした。
「100分de名著」「フランケンシュタイン」。
第1回は誤解を解きほぐし小説としての真価を明らかにします。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さて突然ですがちょっと伊集院さんいい?はい。
何となくおなじみのこの方名前知ってます?ひとボケ入れるなら阿藤快さんです。
…違います。
そう思うでしょ。
違うんですよ。
どういう事ですか?フランケンシュタインじゃないんですこの人。
何となく分かった。
クイズ好きとしてはそういう事か。
さあ皆様じゃあ一体これは誰なのか?それでは今回から始まります「フランケンシュタイン」。
誤解の糸を解きほぐして下さる先生ご紹介いたしましょう。
京都大学教授廣野由美子さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
英文学者の廣野由美子さん。
専門は19世紀を中心としたイギリス小説。
「フランケンシュタイン」を用いて小説のさまざまなテクニックや読み方を解説した著書で知られています。
先生まずこのお写真ほとんどの人がフランケンシュタインという名前だと思ってると思うんです。
「フランケンシュタイン」という映画の中に登場する「怪物」で…この「怪物」には名前がないんです。
名前ないんですね。
漠然と「怪物」なんですねこれは。
そうですね。
はぁ〜。
これをつくった人。
名前がないからなおさら間違えて覚えちゃうんですかね。
名前がないと私たちが名前を付けてあげたいというそういう気持ちになるという現象もあるかもしれませんね。
つくった人よりもつくられたものの方が有名になってしまうというそういう事ってありますよね。
イギリスでもそうなんですか?この作品が書かれた時から現代に至るまでそういう勘違いというのは広く広まってまして…へ〜。
ちょっとご覧頂きましょうか。
こちらがイギリスの辞書「オックスフォード英語辞典」の中で「フランケンシュタイン」という言葉を説明する文章なんですけどこんなふうに書いてあるんですね。
辞書にも「誤用」という事が先生書いてあるんですね。
一般的に誤用されてる代表的な例なんですね。
そうですね。
誤解の原因は何なんでしょう?この作品が発表された当時にゴシック小説という恐怖小説が流行してまして超自然的な怖い話ですね。
この「フランケンシュタイン」もそういうジャンルに属していまして…本で読まれるよりも舞台で上演される事が専ら多い題目だったんですね。
また20世紀に入りますと今度は映画で次々と「フランケンシュタイン」の映画が作られて有名になっていきまして。
やっぱりその怪物の映像的なイメージというのが強烈に焼き付いて私たちの中に定着してきているんじゃないかなと思います。
しかし今回はその「フランケンシュタイン」はあの怪物じゃないという誤解を先生解かないといけないですね。
そうですね。
まずそれを先に確認したいですね。
という事でこの名著「フランケンシュタイン」を読むために知っておきたい意外な真実をここに挙げてみたいと思います。
こちらでございます。
あっ3つある。
そう3つ挙げました。
まずは1つは…。
はい。
博士の名前です。
そして第2。
うそだ〜!絶対うそだ〜!そういうイメージないですよね。
全然イメージないですよ。
力は強くて大暴れするけどもおばかだっていう…。
言葉話せるんですよ。
これフランス語なんですけども。
イギリスの小説なのにフランス語をしゃべる?フランス語を勉強するんです。
頭が抜群に良くて語学をすぐにマスターしてしまって。
そういう存在なんですね。
ちょっと待って下さいよ。
名著も読んでるんですか?はい。
何なら僕よりこの番組の司会に向いてますよね。
ちょっと今僕混乱してます。
映像だとどうしても外側から怪物の外面を見てしまいますからそういう第一印象が強くなりますよね。
これはやっぱり原作を読んでみないと正しい理解というのがなかなかできないそういう作品じゃないかと思います。
そして3つ目いきましょう。
こちらが先生が大変ここを強調したいと思ってらっしゃる所だそうです。
そういう筋立てで有名なんですがそれだけじゃないんですね。
その美しさへの憧れとか命の大切さとか…そのコントラストが美しさと醜さの両方を際立たせているというそういう文学的効果が生まれていると考えます。
さあそれでは本当は美しい小説「フランケンシュタイン」の一部をご紹介したいと思います。
科学者ヴィクター・フランケンシュタインが自らの生い立ちを語る部分お聴き頂きたいと思います。
朗読は俳優の柳楽優弥さんです。
映画などでは狂気の科学者としての印象が強い怪物の創造主フランケンシュタイン。
小説ではジュネーヴで生まれ愛情深い家庭に育った名家の青年として描かれています。
後に人造人間の研究に取り付かれるようになるヴィクター。
そんな恐ろしい実験のさなかにも美しい描写があります。
確かにちょっと文学だし名著ですね。
ねえ。
美しい表現が出てきます。
ヴィクター自身は実験に夢中で人造人間を完成させる事しか頭にないわけですけどもしかしその外には美しい自然の世界があったという事を読者に想像させる。
コントラストによって一人の人間の心の迷いとそれを取り巻く世界とを相対的にあるいは対比して作者は描き出そうとしていたんじゃないかなと思います。
外にはちゃんと僕らが感じてるのと同じもしくはそれ以上にきれいな魅力的な美しい自然があるにもかかわらずそうしてるんですもんね。
それちょっとより怖い。
世界が真っ暗だという方が怖いとは限りませんよね。
ちょっともう1か所その美しい部分というのを先生が取り出して下さったんですけどもこれはヴィクター・フランケンシュタインその科学者が実験の疲れを癒やすために旅に出たその旅先で見た風景が書いてあるんですね。
何かこうのどかな風景が描かれていてしかしこの美しい旅の表現のあとに悲劇が起こるんですよね。
ヴィクターが家に帰ってみますと故郷の父親から手紙が届いてまして…そういう手紙があったわけですね。
読者もここののどかな描写を読みますとちょっと緩みますよね。
緩みます。
そのあとに急に殺人というニュースが来るわけですから余計怖いそういう効果があると思いますね。
やはりそのコントラストの効果でしょうか。
当然意図的にやってますよね。
ええ作者は…。
揺らそうとしてますよね僕らの心を。
そういう事なんだ。
その作者なんですけれどもさっきちょっと辞書の所にも出てきましたがシェリー夫人。
これ女性なんです。
全然見逃してたわ。
もう意外な事ばっかり。
いつもみたいに全く僕はこの作品を聞いた事がないと思って取り組む時もあるわけですよこの「名著」では。
でも「フランケンシュタイン」はどっちかというとなじみがあると思って取り組んだもんだから…。
シェリー夫人?夫人。
しかも19歳。
どんな人だったのかこちらご覧頂きましょう。
「フランケンシュタイン」の作者メアリ・シェリー。
父は政治学者ウィリアム・ゴドウィン。
母メアリ・ウルストンクラフトは当時としては進歩的な女性の権利を主張する文学者でした。
しかし娘を出産した数日後に亡くなります。
父の再婚相手の継母とは折り合いが悪く寂しい少女時代を過ごしました。
メアリは妻のいるロマン派詩人パーシー・シェリーと出会い恋に落ちますが父親に反対され…駆け落ちには継母の連れ子だった女性ジェイン後のクレアも同行しました。
彼女は当時人気だった詩人バイロンの愛人となります。
クレアを通じてメアリたちとバイロンに交友関係が生まれたのです。
1816年メアリはシェリークレアバイロンとその友人たちと共にスイスにある別荘で過ごしました。
この滞在中退屈しのぎに幽霊話を作り合います。
そこでメアリが作ったのが「フランケンシュタイン」なのです。
何かこれ自体がちょっとしたドラマというか小説みたいな。
まあ複雑なところでしかもまあ才能が集まってるから。
その一座の中にバイロンの掛かりつけのお医者さんでポリドリという人がいましてこの人がその時に作った幽霊話が元になって「吸血鬼」が書かれています。
ブラム・ストーカーという作者が後にこのポリドリが書いた「吸血鬼」を読んでその影響を受けて書いたのが「ドラキュラ」なんです。
すごい。
後に「怪物くん」で集まりますけど起源の所はすごい近い。
ものすごい才能集団ですねこれは。
そうですね。
才能のある人が集まるとこういう事が起こるという一つの例だと思いますね。
いやしかしなかなか…今ここに家系図をお出ししましたが非常に複雑な。
そうですね。
こういう複雑な感じは自分の小説「フランケンシュタイン」にも影響を与えてるんでしょうか?やっぱり切り離せないと思うんですね。
16歳の時にシェリーと駆け落ちをしまして翌年には長女を出産するんですが数日後に亡くなってしまうんです。
その翌年にはこのファニーですねこの人はメアリにとっては父親違いの姉ですね。
この人が出生の秘密を知って自殺をするとそういう事があったんですね。
それと同じ年にこのシェリーの奥さんであるハリエットが投身自殺をするんですね。
あっそうだこの人は妻がある人ですもんね。
それでメアリとパーシーは1816年に結婚します。
そのあと次女が生まれますが1歳で亡くなり長男は3歳で亡くなりこのパーシー・フローレンスという4番目の子供だけが大人になるまで生き延びるんですが。
5番目の子供を生んだ時にこれは流産します。
この時もうちょっとでメアリも死にかけるとこだったんですが何とか命を取り留める。
死と出産がいわば入り交じったそういう背景の中で生まれてきた作品だという事が言えると思いますね。
すごい才能というかこういう事を200年以上残る文章にできるというか物語にできるってすごいじゃないですか。
ただただ不幸に終わってく人もいるわけで。
でもそれをある意味取り込んで。
取り込んでね。
作品として昇華させるってすごいですけどね。
もともと両親が有名人ですし非常に知的刺激のある環境で育ったわけですが何と言ってもこういう自分の周囲で起こった生と死そういう影響というのが彼女を非常に早熟にしてこういう作品が生まれる元になったのではないかなと思います。
さてではいよいよ中身に入っていきたいと思うんですがこの小説は語り手が3人いるんです。
こちらの3人です。
まず語りだすのはこのウォルトン。
もうどなたですか?ウォルトンは。
イギリスの青年なんですね先生。
ウォルトンが北極探検に向かっていましてその旅の途中で出会ったのがこのヴィクター・フランケンシュタイン。
ヴィクターがウォルトンに身の上話を聞かせるんですがその身の上話の中にはまた怪物がヴィクターに語っているというそういう部分もあるんですね。
最初はウォルトンが語り部だけど途中からヴィクターが語り部になるわけですか。
「北極探検行く途中にこんな変わった人に会ってさこの人の事をちょっと書くわ」みたいな事ですよね。
ほんとにごめんなさい。
要ります?その人要ります?あんま映画とかにも出てこなそうですけど。
でも映画でいきなりですね人造人間が生まれるという所から始まったらこれ本当の話かなって思ってしまいますよね。
なるほど。
でもごく平凡な青年がお姉さんに手紙を書いている。
それならばありえる話として私たちも自然に入っていけるかもしれないという。
そういうのをリアリズムというんですがそういう点ではとても効果があると思いますね。
リアリズムの出し方としては相当面白いですね。
自分だって知り合いに旅先で会った人の事を書く事はあるわけでその身近感みたいなものから徐々に入れてくと。
そうですね。
ですから単に恐怖小説を書くというそれだけが目的ではなくてやっぱり…さあそれでは物語の始まりから怪物の誕生までのあらすじをご覧頂きましょう。
小説は北極探検に向かう旅の途中にある青年ウォルトンが故郷の姉に宛てた手紙から始まります。
ウォルトンが書いたのは氷の海から助け出した男が語る身の上話でした。
男の名はヴィクター・フランケンシュタイン。
フランケンシュタインは自分の生い立ちそして恐ろしい悲劇を語りだしました。
ヴィクターはジュネーヴの名家の生まれ。
愛情深い両親のもと何不自由なく育ちました。
少年時代から自然科学に興味を抱いていたヴィクターはやがて故郷を出てドイツの大学に進学します。
そこで彼を捉えたのは生命の根源とは何かという問題。
生理学や解剖学に夢中になり死体を集めて人間をつくりたいという野望が芽生えます。
研究を始めて2年が経過した11月のうら寂しい夜。
ヴィクターはとうとう死体を継ぎはぎして2メートル半に及ぶ体をつくり命を吹き込みました。
ついに怪物が誕生したのです。
ついにそのフランケンシュタイン博士は念願の人造人間をつくり上げるんですがこれが先生喜びにはつながらなかったんですよね。
実験に成功して人造人間に命を吹き込む事ができた瞬間予想もしなかった結果に出会うんですね。
こういう事を言っています。
こういう事を言って恐怖に駆られて実験室から逃げ出してしまう。
ですから業績の達成のみを目指して結果について考えなかったというそういう性急さがあったんじゃないかと。
科学者としてのフランケンシュタインの傲慢さといいますかそういう問題もここには潜んでいるんじゃないかなと思いますね。
これはその怪物が創造主から捨てられたというこの事がこのあと怪物を殺人へと駆り立てていくという事になるんでしょうか。
怪物にしてみたら別に自分の意図とは関係なしに生まれてきたわけですから。
生まれたあとで随分ひどい目に遭わされているという。
それが結局は復讐へとつながっていくわけですね。
何か僕は体がでかいせいもあるから怪物の方にもっと思い入れを持ってこの4回に挑むような気はしたんだけど何かそうじゃない所にもちょっと。
だからといって怪物への思い入れは消えないけど俺博士の感じって紙一重の所にはみんな行くと思う。
だからちょっとこの作品の取り組み方が全4回の1回目にして俺ちょっと全然変わっちゃってるから。
ここはフランケンシュタインの語りの部分ですのでそれでやっぱりそこに没入してしまうという。
また怪物の語りの所では伊集院さんもまた怪物の気持ちに没入するというふうに変わってこられるかもしれません。
ちょっと今後が楽しみですね。
さあ次回は捨てられた怪物の悲しみの内面に迫っていきたいと思います。
廣野先生次回もどうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。
お願いいたします。
2015/02/11(水) 05:30〜05:55
NHKEテレ1大阪
100分de名著 フランケンシュタイン[新]<全4回> 第1回「“怪物”の誕生」[解][字]

科学の粋を集めて造り出された人造人間は見るもおぞましい「怪物」だった。そのアイデアの元は作者メアリ・シェリーの出産恐怖の反映か。「怪物誕生」の意味を読み解く。

詳細情報
番組内容
科学の粋を集めて造り出された人造人間。しかしそれは見るもおぞましい「怪物」だった。作者メアリ・シェリーはいかにしてこの発想を得たのか? そこには何度も繰り返された死産の体験があった。やがて出産は作者にとって恐怖の対象となる。おぞましい「怪物誕生」の物語は「出産恐怖」の反映だったのだ。第一回は、作者の人生や時代背景から、「怪物誕生」の意味を読み解く。
出演者
【ゲスト】京都大学教授…廣野由美子,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】柳楽優弥,好本惠

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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